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PIECE4:入口

「暗証番号から解いていこう」

「先生、それは『"無意味な散策御苦労さん"の孤独な数字』のことですよね?つまり、初めにしおりの一文の意味を解読しなければならないわけです」

 リーシャは気を取り直して意見を言った。

「その通りなんだが――ところで、"8のB"の暗号を考えたのはどなたですか?」

「ママが……前に私たちに教えてくれたのです」

 デオットがおずおずとした態度で言った。

「それなら、今回の暗号も簡単に解けるはずです。まあ、解いたリーシャにも言えることだが」

 探偵以外の三人は、首をかしげて考えた。

「注目すべきは、答えが数字になるということです」

 そこで「あっ」と声をあげたのはリーシャだった。一寸遅れてデオット、トレントがお互いにはっとして顔を見合わせた。

「"無意味な散策御苦労さん"は、"61373395963"と数字に置き換えることができるのです」

「なるほどな。確かにつくりが似ている」

 トレントはすぐにその数字をメモし、二つ以上あるものを消していく。その作業が終わると、「兄さん」とつぶやくのを受けて、デオットが叫ぶ。

「175――孤独な数字はこれか!」

 その言葉を合図に、部屋にいる皆の表情が緩んだ。

「後は鍵を見つけるだけですね!」

 探偵はリーシャの言葉がきっかけで辺りを見回してから、兄弟に問いかけた。

「ここに、猫が描かれたようなものは?」

「ありませぬ。あったら、とっくに調べていたことでしょう」

 探偵はすぐに同意した。"鳥を狙う"という言葉だけで、真っ先に想像するのは猫であるというのは同じらしかった。しかし実のところ、探偵にはそう訊いた理由が他にもあった。それはすでに暗号を解き、そうだという確信を得たからだった。

「屋上にも、猫関係の置き物などはないのですね?」

「はい」

「念のため調べようと思うのですが、よろしいですか」

「もちろんです」

 そこでトレントはデオットの脚をちらと見た。

「兄さん、俺らはここにいよう。探偵さんもその方が集中できるだろうよ」

 そして故意に探偵と目を合わせた。すぐに探偵は頷いてそれを返事に代えた。

「申し訳ないな。何かあったらすぐ言ってくだされ」

 兄弟が個々の部屋へ戻ると、残った二人は、屋上へ導くための階段を上っていった。

 リーシャもその後に続いてゆっくりと足を動かしながら、自分なりに思考を巡らせることにした。

 最初の一文は、"早起きは三文の得"という意味である。が、次の文で"鳥"が出てくることから、重要なのは英文の一語一語であるのかもしれない。

「わっ!」

 リーシャは急に悲鳴をあげた。とほぼ同時に、強打した体の痛みが伝わった。

「大丈夫かい!?」

 探偵は振り返り、足を踏み外してうつ伏せに唸るリーシャを抱き起こした。その眼には涙が滲んでいた。

「す、すみません。考え事をしていたら……」

「いや、ここの階段は特別だよ。段差が明らかに通常よりもあるんだ。そのことを意識しないと僕ですらつまずきそうになる。上る前に君に声をかけていればよかった」

 確かに見かけは普通のコンクリートの階段だが、無意識のうちに足をいつもより高く上げていたようで、呼吸が少し乱れていた。

「先生、もう大丈夫です。気をつけますから」

 そう言って笑ったはずだったが、痛みを我慢していたせいで、見たこともない表情をつくりだしていたのを本人は知らなかった。


 そして最上階。屋上を仕切る扉には案の定鍵がかかっていて、暗証番号を入力する場所も存在した。赤く光った小さなランプが、立ち入りを拒絶している。

 探偵は長い指を伸ばして、そこに正しい番号を三つ続けて押した。すると、あっけなく赤いランプは消え、大人しくなった。

 今度こそ本物の笑顔を見せることができたリーシャは、切り替えが速く、すぐに次のことを考えて口にした。

「部屋を見た時、猫の形をしたものなどなかったように思いましたけど……やはり猫と決めつけるのは、まだ早かったのでは?」

「いや、それでいいんだ。後で説明するよ」

「と、いうことは!」

 探偵は微笑んでから付け足した。

「しかし、何年か経って消えてしまう危険性があるものには隠さないだろうね」

「確かに置き物や絵などは、よほど大事にしているものでないと売ったり捨てたりしてしまいそうですもんね」

 それから何か思い出したように宙を見て、「でも」とつぶやいた。

「先生がさっき、猫の置き物があるか訊きましたのは?」

「それは、屋上(・・)付近にあるかどうかが問題なんだ」

「……?」

「デオットさんたちが彼女に禁止されていたというここ(・・)にあるなら、安全だと思ったからだよ」

 そこで探偵は視線を落として、扉付近に敷かれた約一メートルのしっかりした人工芝を見た。

「特にこういう――あってもなくても気にしないような、何気ないものにこそ隠すんじゃないかと思ってね」

 リーシャは素早くしゃがんで、丁寧に短い草をかき分けて調べ出した。探偵も腰を曲げて、深緑の草一本一本に集中した。

「ここ……おかしくないですか?」

 やがてリーシャは、人工芝の一部分を見つめて言った。草丈こそ同じだが、どれも尖っているはずの草の先端が、よく見ると握り拳一つ分ほど意図的に切られて平らになっている。

「その部分、引っ張ってごらん」

 リーシャは言われたとおりにした。すると、ズズッと変な音がしてすっぽりと抜けてしまった。代わりに、くっきりと猫の顔のような型の狭い空間が現れた。そしてそこには――

「鍵、発見ですっ!」

 その歓喜の声は、下の階にいたデオットとトレントにも届いた。

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