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銀閃のアルケミスト  作者: はぐれメタボ
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探索のアルケミスト

「な、何を言っておるんじゃ!」

「そうよ!危ないよミオン!」


 村長様とサチが直ぐに反対する。


「ミオンちゃん、気持ちは嬉しいが妖は本当に危険なんだ。

 死んでしまうかも知れない。

 だから俺が……」

「心配には及びません」


 私はそう言ってシュウイチさんの言葉を遮る。


「私は大陸では師匠と一緒にずっと旅をしていました。

 移動や採取で危険な場所にも踏み込んだ事も有ります。

 魔物……妖と戦うすべも心得てます。

 だから、此処は私に任せて下さい」

「ほ、本当に……」

「直ぐ側に何年も無事に村が存続できるくらいの森なら最悪でも逃げ切る事は可能です」

「ミオン……」

「心配しないでサチ。

 こう見えても私、結構強いんですよ?」

「でも……」

「準備して直ぐに出ます」


 私は尚も心配そうな顔を隠さないサチの肩をポンと叩いて村長様やシュウイチさんが何かを言う前に借りている部屋に向かった。


 部屋の隅に置いてあったトランクを開けて取り出したローブに着替える。

 ほんの数ヶ月前まで毎日の様に来ていたのになんだか懐かしい様な気がする。

 ローブの上から腰にベルトを巻き、数本のナイフといくつかの薬をそこに提げる。

 久し振りの冒険者スタイルだ。


 元の部屋に戻ると皆んなの視線が私のを捉えた。


「ミオン……その格好……」

「旅慣れているって言ったでしょう?」

「ミオンちゃん……その……」

「直ぐに戻ってくるから心配しないで待っていて下さい」


『俺も行かせて欲しい』とでも言いたそうなシュウイチさんをあえて無視して、私は外と続く扉を開ける。


「ミオンや……どうか……宜しく頼むぞい」


 私は頭を下げる村長様に強く頷くと西の森へと向かって駆け出して行った。




 西の森は木々が生い茂り、広がった枝葉が地に落ちる光を大きく制限する。

 濃密な緑の匂いを感じながら少年から聞き出した方角へと森を進んでいる。

 人の手が全く入っていない植物が支配する領域は素材の宝庫で、かなり有用な薬草や樹木が散見されるが、今日はシュウタくんを治すための薬草が優先だ。


「っ⁉︎」


 薄暗い森の中、突然視線を感じて足を止めた。

 大人数人が手を開けてようやく届く程の大木を背に周囲の気配を探ると、前方の草むらから何かが近づいている事を感じた。


「グボァ」


 ガサガサと草を揺らして現れたのはミオンの身長の2倍近い巨体を持ち、人間の身体と豚の頭を持った魔物オーク……この国では豚頭鬼と呼ばれる妖だ。

 豚頭鬼はどこで手に入れたのか手には錆の浮いた斧を持っている。

 豚頭鬼は私を見ると涎を垂らし鼻をヒクヒクと動かしている。

 目の前に現れたご馳走に喜びを隠そうともしていない。


「オークですか……ちゃんとした設備がある練金工房がないから簡易的な装備ですけど、オークくらいなら問題有りませんね」


 私はベルトからナイフを引き抜くと、豚頭鬼に向かって駆け出した。


「グボ⁉︎」


 豚頭鬼はまさか人間が自分に向かってくるとは考えてすらいなかったのだろう。

 その小さな瞳が、目一杯に開かれる。

 そうして慌てて斧を振るが、動揺していたのだろうその狙いは精細を欠き、ただ私を近づけたくなくて斧を振り回しただけにしか見えない。


 ギンッ!

 私は斜めに構えたナイフを斧の刃に添える様に当て僅かに軌道を逸らすと、豚頭鬼の間合いに滑り込む。


「ふっ!」

「フゴォォ!」


 豚頭鬼の股下を潜り抜けると同時に内腿の柔らかな部分を深く斬りつける。

 豚頭鬼は悲鳴を上げて私を睨みつけるが、その意思と反してドサリと膝をつく。

 私はナイフを振りかざしてすぐさま豚頭鬼に斬りかかる。

 機動力を無くした豚頭鬼は鈍重な的でしかなく、強力な破壊力を持つ斧も今では重りにしかなっていない。

 豚頭鬼は死にものぐるいで斧を振り回すが、私に当たる事は無く、数分後には全身に裂傷を作り倒れ込んだ。


 私は豚頭鬼が死んでいる事を確認するとナイフの血を払い、ベルトに戻す。

 それなりに時間は掛かっけれど危なげなく豚頭鬼を倒すことが出来た。


 師匠に修行と称して魔物が山ほど生息している森に放り込まれたのは無駄では無かった……もう2度とやりたくはないけど。


「むう、ナイフだけだと仕留めるのに時間が掛かりますね」


 練金工房があれば魔法を付与したマジックアイテムを作って戦えたのだけれど、流石に居候の身分ではワガママは言えない。

 師匠クラスの錬金術師ともなれば、持ち運びのできる簡易的な道具ても戦闘用のマジックアイテムを作れるのだけれど、私にはまだ不可能だ。


 普段なら食用として有用な豚頭鬼は解体して持ち帰るけれど、今は先を急ぐ方が大事だ。

 私は手早く豚頭鬼の胸を刃の厚い解体用のナイフで切り裂き、心臓の中から魔石を取り出した。


 魔石とは魔物の心臓の中で生成される物質だ。

 魔石には魔力を溜め込む性質があり、マジックアイテムの動力源や魔法の触媒など様々な事柄に利用される物だ。

 シュウタくんの薬を調合する際にも触媒にする事で効果の高い魔法薬を作ることが出来る。


 私は魔石を素材袋に仕舞うと再び森を進み始めた。





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