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銀閃のアルケミスト  作者: はぐれメタボ
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診察のアルケミスト

 私が急いで部屋を出ると村長様が扉を開き、慌てた様子の村人を家に招き入れていた。


「何が有ったのですか⁉︎」

「ミオンちゃん!大変なんだ!」


 そう声を上げたのは漁師のショウイチだった。

 ショウイチはその巌のような大きな身体を震わせ、強面の相貌は今にも泣き出しそうに歪んでいる。


「落ち着いて下さい、ショウイチさん。

 一体何が有ったのですか?」

「シュウタが!シュウタが目を覚まさないんだ、すごい熱で!昼間は元気だったのに!」


 シュウタと言えばたしかシュウイチさんの息子さんだ。

 先日6歳になり、シュウイチさんから簡単な漁具の手入れの仕方を習い始めたのだと先日嬉しそうに話していた。


「頼む!ミオンちゃん!シュウタを、シュウタを助けてくれ!」

「落ち着いて下さい、シュウイチさん!

 兎に角、シュウタくんの容体を診せてください」


 私はシュウイチさんの肩を抑え宥めると、急いで部屋からトランクを持ってきた。


 確かに私にはある程度の医療知識はあるけれど、それはあくまでも錬金術による薬の調合に関係する範囲の知識に過ぎない。

 普通の解熱剤や風邪薬くらいで済めば良いのだけれど……そんな心配を胸に秘めながら私は暗闇に包まれた村の中をシュウイチさんの先導に従って走った。



 シュウイチさんの家では布団が敷かれて1人の少年が顔を赤く染め上げて、短く荒い呼吸を繰り返していた。


「ど、どうなんだ?」


 シュウイチさんが心配そうに声を掛けて来る。

 横からは彼の妻、ミヨが不安げな表情を覗かせていた。


 私は診察の為に巻くっていた布団をシュウタくんに掛け直してシュウイチさん達の方へ向き直る。


「正直……芳しくありません。

 恐らくは魔熱病です。

 治療薬の調合は可能なのですが……」

「……高価なのか?……頼む!金なら何とかする!どれくらい掛かっても必ず払うから!シュウタを助けてくれ!」

「ミオンさん、お願いします……シュウタが、シュウタに何かあれば私達は……」


 シュウイチさん達が悲痛な表情で懇願する。


「確かにかなり値が張る薬です。

 ですが、私なら調合が可能です。

 しかし、問題が……素材となる薬草が有りません。

 ワダツミ村の周囲の森は一通り探索しましたが、1度も見かけませんでした。

 育成環境を考えると自生していてもおかしくは無いのですが……」

「ま、町の商会に頼めば……」

「希少な上、用途の多い薬草です。

 貴族……武家の方になら高額で売れるでしょう。

 もし、在庫が有ったとしてもかなりの値段になるでしょう」

「それではシュウタは……」

「うぅ……」


 シュウイチは愕然とし、ミヨが泣き崩れる。

 現状ではシュウタくんを助ける方法は無い。

 でも!


「まだ諦めるのは早いです。

 先程も言いましたがこの辺りなら薬草が自生していてもおかしく有りません。

 日が昇ったら村の人達に薬草を見たことがないか聞いてみましょう」


 私がそう言うと2人は顔を見合わせて少しだけ気を持ち直した様だった。




 早朝、普段なら既に漁に出ている筈の漁師達も含めて全ての村人達が広場に集められていた。


「大体10センチ程の大きさで人の手の様な葉っぱ、青い小さな花が沢山咲く薬草です。

 潮風が当たる場所に5株から10株程密集して咲いている筈です。

 どなたか心当たりのある方はいらっしゃいませんか?」


 私が描いたイラストを見せながら薬草の特徴を説明し尋ねる。


 村人達はガヤガヤと周囲の人と囁き合うが、誰も薬草の群生地に心当たりがあると名乗り出る者は居ない。

 一緒に来ていたシュウイチさんも沈んだ顔をしている。


「俺知っているぜ! 」


 その時、広場にその声が響いた。

 その声の主は12歳くらいのやんちゃそうな男の子だった。


「本当に?」

「うん、西の森を抜けた先の崖に生えてるのを見たぜ!」

「西の森?」

「ああ、前に度胸試しで森に入った時に見たんだ」

「このバカ!あの森は(あやかし)が出るから入ったら駄目だとあれほど言ったろう!」

「あぃだだだ!!!」


 少年は側にいた母親に頬をつねられて悲鳴をあげる。

 確かに西の森には魔物……この国で妖と呼ばれる凶暴な生き物が出る為、村では立ち入りが禁じられている。

 その為、村長様から許可を得た私も、浅くしか探索していなかった。




 母親から折檻されている少年から詳しく話を聞いて、少年が見たという植物か目的の薬草の可能性が高いと判断した私はサチとシュウイチさんを伴って村長様の家に戻って来た。


「西の森のぅ……あの森は深く入ると凶暴な妖か出るでなぁ。

 村の者だけだ向かうのは危険じゃぞい」

「村長様、俺に行かせてくれ!」

「しかし、シュウイチ。

 確かにお主は腕っ節が強いが妖が相手ては無茶と言う物じゃ。

  町の互助会に依頼を出して浪人に頼むしかないじゃろう」


 浪人とは互助会に所属して様々な依頼をこなす者達の事らしい。

 大陸で言うところの冒険者の様な人達だ。

 確かに浪人に任せれば採取は可能だろう、しかし……


「だが、町まで行って互助会に依頼を出して浪人が依頼を受けてくれるまで待っていたらシュウタ持たない!」

「じゃか……」

「お願いします、村長様!」

「落ち着いて下さい、2人とも!」


 私はだんだんと声を大きくしていく2人を制した。

 そして、全ての問題を解決できる提案を告げる。


「大丈夫です……採取には私が行きます」

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