旅立ちのアルケミスト
初めましてはぐれメタボと申します。
他の小説投稿サイト様でも別作品を書いていますが、こちらでは初めての投稿になります。
よろしくお願いします。_(:3 」∠)_
身を預ける足下の床が激しく揺れる。
夜空に瞬く筈の人々を導く星々は暗雲に姿を隠し、闇を切り裂く雷が鳴り響き、降り注ぐ豪雨が私を打ち据える。
まるで世界の終末を体現するかの様な嵐の中、私が身を置くスループ船、オーロラ・レーン号は決死の航海を続けていた。
私が陸地を離れ、船上の人となったのは2月程前の事だ。
師匠と共に各地を旅しながら修行の日々を送っていた私だったのだが、その日は突然訪れた。
とある港町へやって来た日の事だ。
夕食に名物の海鮮焼きを味わった後、1人お酒を嗜むと言う師匠を残し、私は先に部屋に戻り眠りについた。
そして翌朝、隣のベッドを覗くと師匠が戻って来た形跡は無い。
どうせまた下の酒場で酒瓶を抱いて酔い潰れているのだろうと、今まで何度も見て来た光景を想像しながら寝巻きからいつものローブへと着替えた私は部屋を出て階段を降りた。
ごく一般的な広さの食堂では宿泊客であろう冒険者や行商人が早くも朝食を食べていた。
「おう、ミオン。こっちだ!こっち!」
名を呼ばれて振り向けば、意外にも酒気を帯びる事もなく師匠が手招きしていた。
「おはようございます師匠。
珍しいですね、師匠はてっきり、いつもの様に二日酔いでのたうち回っている物と思っていました」
「はっはっは、大切な弟子の門出に二日酔いという訳には行かないでしょう?」
「あはは、そうですねよ。
大切な私の門出に…………はい?」
今、さらりととんでもない事を聞いた気がした。
「あの……師匠、今何と……」
「ん?だから弟子の門出に二日酔いという訳には行かないと……」
「か、門出って!門出って何ですか⁉︎」
「あら?言って無かったかしら?
ミオン、あなたにはもう私の技術のほぼ全てを叩き込んだ。
だから後はあなた自身が試行錯誤を繰り返して技術を高めて行くのよ」
「え⁉︎そ、そんな……突然言われても……」
「あなたの旅立ちの荷物はもう用意してあるわ」
師匠は傍に無造作に置かれていた鞄からトランクケースを取り出して私に投げ寄越した。
明らかに師匠の鞄よりも大きなトランクケースだけれど、あの鞄は中に空間拡張の魔法を施してあるマジックアイテムだ。
見た目は小さな鞄だけれど、信じられない程多くの物が入れられる。
実に羨ましい。
「それとコレね」
更に師匠は懐から木札を1つ取り出した差し出した。
「これは?」
「西大陸行きの木札よ」
「はぁ⁉︎」
「出発は今日のお昼だから買う物が有ったら朝のうちに済ませておくのよ?」
「き、聞いてませんよぉぉお⁉︎」
そして、あれよあれよと言う間に慌ただしく買い物を済ませた私は、放り込まれる様にスループ船、オーロラ・レーン号乗船した。
錨が上げられ、船を係留するロープが外される。
私の他、西大陸へ向かう冒険者や商人は甲板に集まり、見送りに来た家族や知人に別れを告げている。
私も船から下を見下ろすと師匠がいつもの不敵な笑みを浮かべている。
「師匠〜!お世話になりました〜!私!頑張ります!」
色々と言いたい事はあったけど1番言いたい事を先に伝えておく。
そうする内に船は進み、港はすぐに小さくなって行った。
こうして私、ミオン・トライアの研鑽の旅が始まったのだ。
「わわわわぁぁあ!」
荒波に揉まれ、激しく揺れるオーロラ・レーン号は、まさに突風の前の枯れ葉の如く……だ。
始まったばかりの私の研鑽の旅が今にも終わりそうだ。
「ミオンの嬢ちゃん!大丈夫か⁉︎」
船員と共に帆に繋がるロープを引く冒険者が声を掛けてくれる。
「だ、大丈夫です!」
「嬢ちゃん!無理すんな!此処は良いから船室に入ってな」
海の男達を統べる者らしく、鍛え上げた身体で揺れ動く甲板を物ともせずに船員に指示を出す船長が私に避難するように告げる。
「でも、このままでは船が持ちません!」
「だが……」
尚も船長が言い募ろうした時だった。
船に衝撃が走った。
振り向けばメインマストに大きな亀裂が入っていた。
「大変!」
「おい!嬢ちゃん!」
メインマストが折れてしまうとアウトだ。
私は制止する船長を振り切りメインマストに向かって走る。
今はまだ大きな亀裂だけで済んでいるが、もう1度強風が来れば折れてしまうだろう。
私は師匠がくれたトランクケースを開き、港町の商会で買った魔樹紙のロールを取り出す。
その魔樹紙を亀裂の上に3重に重ねて素早く魔法陣を描く。
「力よ、円環を巡れ【錬金:結合】」
魔樹紙に描かれた魔法陣が光を放つと少し歪んでいるがメインマストの亀裂が塞がった。
応急処置でしか無いが、これで嵐を越えるまでは持つ、そうすれば船大工にしっかりと直して貰える筈だ。
一息ついた瞬間、船は高波を受けて大きく揺れ、私は船から投げ出されてしまった。
「ミオンの嬢ちゃん!!!」
冒険者伸ばしてくれた手をすり抜け、冷たく荒れ狂う海に落ちる。
「がっは!げほっ!」
「嬢ちゃん!掴まれぇ!」
船長がロープを結んだ浮き袋を投げてくれた。
私が掴まると船員や冒険者達が引いてくれている。
良かった、何 とか助かりそうだ。
「不味い!ロープが切れるぞ!」
やっぱ無理かも……
そしてとうとう、ブツリとロープが切れ、私はうねり轟く波に飲み込まれて行った。