表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/29

第八話 砕けし枷 勝ち取ったもの

前回、賢者との戦いで<時河氷結陣>を受けたニトロ。この技は賢者の最終手段でもある禁術。はたしてニトロは、この大技を攻略することができるのか。

 

 

 「オタクっぽい技だな。」

 「……どういう意味?」

 「手が込み過ぎてるってことだよ。」

 時河氷結陣を喰らったオレは、氷の檻の中に閉じ込められていた。ひどく狭い、四方を氷壁で閉ざされた空間。ここに収容されてしまったというわけだ。そして半透明の壁を隔てた先に、賢者さんがいる。薄氷の壁だというのに、ビクともしない。どうにも、ただの氷の膜じゃないようだ。

 「……まあ、全く系統の違う魔法の組み合わせだからね。空間魔法を使い、亜空間上に自分だけの世界を作り出す。そしてその世界の構成要素は、私がもっとも扱いを得意とする氷。」

 「火だの水だのをぶっ放すだけの魔法と比べ、アホみたいに複雑な技だ。手が込み過ぎていて、逆にコスパが悪い。そういう意味で、オタクっぽいって言ったわけよ。しっかし、その齢と容姿と巨乳でこれほどの完成度。二物を与えられまくりじゃねえか。」

 「最後のはコンプレックスだったりするけどね。というか、あんまりな言い方じゃない?凝ってる分、便利な点もたくさんあるのよ。氷製だから、劣化しづらくて頑丈な上、再成型も容易。実際あなたの目の前の氷壁みたいな、便利なものも作れるし。」

 「確かにな……。これ全然破れないぜ。」

 「頑丈さとしなやかさを併せ持つのが氷だからね。そして私がその気になれば、あなたを永遠に閉じ込め続けることも出来る。」

 「そいつはおっかねぇ……。だが、氷っていうのは時に水より脆いと聞くぜ。」

 「へぇ、含蓄のあることを言うじゃない。ならば、試してみる?この氷の檻を、破れるか破れないか。当然、挑戦に失敗したらアンタを人間界まで連れ戻し、憲兵に引き渡すわ。もちろん、とっとと諦めて改心し、魔族とはもう縁を切るという選択肢もあるけどね……。さあ、どっちを選ぶの……?」

 「これがラストチャンスってことか……。」

 目の前の壁も破れていないのに、この世界から脱出など出来るわけもない。そのことを見透かした上での問いである。普通ならば後者の選択肢を選ぶしかない。……普通ならば、ね。

 「なるほど。じゃあ、試してみるとするか……。」

 「あらあら、流石にお手上げか………ふぇっ?」

 余裕綽々だった賢者さんも、これには目を丸くした。

 「は、ハッタリよ!?脱出法なんてないはず!!」

 「普通ならな……。だが、オレは天才毒魔術師だ!天才っていうのは不可能を可能にするから天才って言われんだよ!!ローグ・ガルマジアス<黒色系侵蝕魔法>!!!」

 オレの杖から、紫色の粘液があふれ出していく。

 「こ、この技は……!?」

 粘液は氷の床に滴り落ちると、瞬く間にそこをドス黒く染め上げてしまった。そしてどこまでも広がっていき、留まることを知らない。余すところなくこの世界を侵し尽くすまで。

 「う、嘘……!!?こんなデタラメな作用みたことない!!氷を…空間を喰らう毒なんて!!」

 「毒の本分は『侵蝕』と『破壊』。その力を完全に引き出すことも出来れば、こんな芸当も出来るのさ!!オレは知的好奇心じゃアンタに負けるかもしれんが、毒魔法へのこだわりじゃ誰にも負けるつもりはないんだよ!!!」

 「くっ……!こうなったら……空間修復魔法!!」

 「……これは!?」

 放たれた氷の息吹が、毒に侵された箇所を次々と漂白していく。

 「この世界は私のもの!そう易々とは破壊させないわ!!」

 「ちっ!ならばこっちも出力アップだ!」

 (長引けばアウェイのいるオレが不利だ……!クソ……、あいつは…まだなのか!!?)

 (それにしてもコイツ……、ただのバカじゃない!毒魔法を対空間魔法に利用する独創性!既視感がある……。そう、似てるんだ!。私の師の魔法とどこか!!)



 二人が死力を尽くしせめぎ合う中、ナデコは玉座の間で、ニトロを捜索していた。

 (一体どこに消えてしまったのでしょう……?)

 混乱しきっていたナデコだが、そこに突然時空のひずみが現れた。

 「キャア!!?」

 年相応の悲鳴を上げるナデコ。しかしすぐに落ち着きを取り戻し、目の前のひずみを穴が開くほど見つめた。

 (もしかして…二人はこの中に……!?それならばすぐに突入しなきゃ!………いや、でも罠の可能性だって……。)

 行くのか引くのか……。あまりにも手掛かりが少なすぎる。ナデコは完全に困り果てていた。しかし――その時である。

 「ナデコ!そこにいるのか!!?」

 「!?」

 ノイズのかかった、かすれた声。ひどく聞き取りづらいが、間違いない。ニトロの声色だ。

 「ニトロさん!!その中にいるんですね!!?」

 「ああ、そうだ!そして一つ頼みがある!!この時空の檻を、粉々に破壊してくれ!!外側にいるお前にしかできないことなんだ!!」

 「分かりました!!!」

 威勢の良い返事と共に、ナデコは左の拳へと魔力を集め始めた。

 (見ててくださいニトロさん……。これが私の全身全霊です!!)

 「ナルコレプシ家奥義<一閃万量拳>!!!」

 限りぬく研ぎ澄まされた鋭い一撃が、時空のひずみを打ち抜いた。

 

 「……っ!!マズイ!!!」

 「どうやら、ナデコの奴がやってくれたようだぜ……。」

 全ての氷壁に亀裂が入り、千々に砕けていく。氷の世界が、破れたのだ。

 「……力及ばずか。いいお仲間さんを持ったものね。」

 賢者さんは相当な力を消耗したようで、立っていることすら辛そうだった。

 「……皮肉っぽいぜ。」

 「いいえ、割と本心からよ。」

 賢者さんの前に、転送魔法陣が展開された。

 「待て!逃すかよ。捕虜になってもらうくらいの役得はないと……。」

 「残念、そこまで緩くはないの……。」

 オレは賢者さんに向かって思いっきり手を伸ばした。だが……。

 「またね。」

 すんでのところで逃げられてしまった。

 「あっ、チクショーめ!」

 逃走用の魔力だけは確保していたようである。賢者だけあって、流石に慎重だ。

 「まっ、いいか。優しくて可愛い魔王の娘が、オレを待ってるんだ。」

 砕けた世界は闇に飲み込まれていく。オレも同様だ。しかし、闇の中に一筋の光があるのを、見逃しはしない。

 「またな、賢者さん。」

 オレは光を目指し宙を蹴った。そして……。

 「イテテテ!」

 やっと元の世界へと帰ってきたオレだが、派手に尻餅をついてしまった。我ながら運動神経が鈍い。

 「ニトロさん!!」

 「ナデコか……。」

 しかしコイツの笑顔を見てれば、腰の痛みも和らぐというものである。苦しい決断、苦しい戦い、その全てが、報われたかのような気分になってくる。

 「なんとか追っ払えたし、生還も出来た。お前のおかげだよ。まあ一番頑張ったのはオレだが。」

 「ええ、その通りです!本当に、その通りなんですよ!!」

 今にも泣き出しそうなくらい、喜んでくれている。なんだか、照れ臭くなってきた。

 (こんなに人に褒められたのって、いつ以来だ……?)

 認められた。認めてくれた。まだまだ道のりは遠いとしても、今はただそれがうれしかった。何かが、報われたような気分になってきたのだ。

 「生きててよかった。久々に、そう思えたよ。」

 「ええ、生還できて本当に良かったです!!」

 微妙に、思ってることが違う気がする。まあこの子は、オレが抱くような鬱々とした感情とは無縁なタイプだ。底抜けに明るく、心優しい子なのだ。

 (これからも、勝つ。勝って勝って勝ち続けてやる!コイツと一緒に!!)

 オレはそう心に固く誓った。



 厳しい戦いを乗り越え、ナデコとの信頼関係を強固にしたニトロだが、今度はズタボロの魔王軍を復活させるという、難事に挑む羽目に!しかし、全てはナデコの笑顔。そして己の野望のために。再び彼の悪戦苦闘が始まった!次回へと続く。


 

 

 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ