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第七話 デザイアドライブ~己が望みのために~

 魔族に魂を売り渡したニトロが対峙したのは、よりによって思いを寄せる女賢者。

葛藤を抱えた心で、ニトロはどこまで戦えるのか……。



 「どうして……こんなところにいるのかしら?」

 「……それはオレのセリフだ。」

 やっぱり、近くで見ると可愛い。でも今は、その可愛さが恨めしいのだ。

 「あなた、あの勇者からリアヴィケを喰らったでしょ。」

 「ああ、そんなことあったな。」

 嫌な光景が、脳裏によみがえる。

 「どうも無理やり飛ばされてたみたいだから、気になって行き先を検索してみたの。そしたら砂漠と判明して……。流石に迎えに行かないとだなと思ったのよ。でも私がテレビラム<転移魔法>を使って到着したとき、あなたはすでにいなかった。でも、強い魔力の痕跡が微かに残っていた。それをたどってみたら、ここまで着いたの。」

 「……あのあとそんなことがあったのか。」

 正直感動である。わざわざほぼ見ず知らずのオレを迎えに来てくれるとは、思った通り優しい娘さんだ。でも―

 「普通単騎で魔王の城まで殴り込みにくるか……?」

 「あなたみたいに高レベルの冒険者を犬死させるのは損失だからね。それにここ、弱小国家だったし。」

 「イケると思ったわけか……。」

 どうも、自分の実力に相当な自身があるようだ。

 「その通りよ。そんなことより、早く私の問いかけに答えたらどうなの?一体どうして、あなたは魔族の城にいるの。」

 「…………。」

 賢者さんの冷たい目線が、オレを突き刺す。多分嘘を言っても見破られるだけだ。オレはそう感じた。

 「砂漠をさまよっていたら、魔王の娘に助けられてな……。」

 オレはここまでの経緯を、包み隠さず説明した。

 「なるほどね……。」

 賢者さんも、一応コクコクとうなづいてくれた。オレの事情に理解を示してはくれたようだ。

 「理由は分かった。けれども、魔族に与する約束をしたという点は見過ごせないわね。」

 「やっぱり、本題はそこだよな……。」

 「……あなたの境遇に同情はするわ。あの勇者、あなたをモノみたいな目で見てたからね。人間を裏切りたくなるのも仕方ない。でも、本当にいいの?結局いずれは今回みたいに人間と殺し合う羽目になる……。魔族に与するってことは、そういうことなのよ。」

 「……確かに抵抗感がないと言えば嘘になるが、覚悟を固められないわけじゃねえ。」

 実際オレの目的は、勇者という人間を倒すことなのだ。強がりじゃない。本当のことだ。

 「ただ……。」

 「……ただ?」

 (賢者さんと戦うってのは、特に気が引けるってことなのさ。)

 そこが、厄介な点なのである。オレは苦悩にまみれたため息を吐いた。

 「まあ、じっくり考えたら。」

 逡巡するオレを見て長引くと思ったのか。賢者さんは近くにあった段に腰かけた。

 (あっ、今乳揺れしたな。……ってこんな時くらい真剣になれよオレ。)

 少し自己嫌悪に陥りそうになったオレ。しかしここで、あるアイディアが突然閃いた。

 (……待てよ。これなら、自分に折り合いをつけることが出来ないか?)

 オレは遂に決断に至ることが出来た。

 「よし、決めたぜ!!オレはもう迷わない!!」

 「……やっと決断してくれたのね!」

 賢者さんが立ち上がる。

 「ああ、魔王軍のために全力であんたと戦おう!!」

 「…………は?」

 賢者さんはコイツ頭がおかしいんじゃないかとでも言いたげな表情をした。

 「そう決めたのさ。……だけど。」

 「だけど……?」

 オレは彼女の胸元へと手を伸ばした。

 「ふぇっ?」

 「その胸に顔をうずめさせてくれれば、戦うのやめてもいいかなあって……。」

 「ふざけんなお前!!」

 「うおっ!」

 オレは飛んできた杖での一撃をかろうじてかわした。

 「こんなバカが高位の冒険者なんて……世も末ね。」

 「悪いな。オレはアンタと違ってバカでね、目先の利益に囚われる!というわけで、未来のことなんて考えず、今の欲望だけ満たさせてもらう!魔王軍の一員としてあんたを捕虜にして、官能小説家も真っ青になるようなエロイ尋問をしてやるのさ!!」

 「モノホンのバカね……。」

 涼しい目元に、軽蔑の光が宿る。

 「あんたみたいな人類の恥は、私が責任をもってぶっ潰してやるわ!!覇道具<フリーダメーロ>起動!!」

 賢者さんの杖に、魔力が蓄積されていく。そして先端にある緑色の目玉が、突然瞼を開いた。

 「……あの魔道具、もしかして」

 「ニブルカンテ!!<氷結魔法Lv4>!!」

 「ヤバい!」

 オレは大急ぎで防御態勢をとった。

 「エンタラクシア<炎壁魔法Lv4>」

 巨大な炎のベールが出現し、オレを覆いかばう。

 「無駄よ!!」

 賢者さんの魔法の威力はすさまじく、炎の壁は一瞬で消失してしまった。

 「追撃!!ザウム・フリーデン<氷槍魔法Lv5>!!」

 無数の氷の槍が、閃光のような速度でオレへと放たれた。

 (これは防ぎきれねえ……ならば!)

 「ネルミシェル<幻霧魔法>!!」

 乳白色の霧が立ち込める。

 (幻惑作用のある霧で、自分の位置を捕捉させないつもりか……。ナメられたものね…。私の状態異常への耐性は最強クラスよ!!)

 氷の槍は一本たりとも標的を見失うことはない。全てがオレの方へと向かってくる。

 「……何故よけようとしないの?」

 氷の槍は深々とオレ―ではなく、少しずれた虚空を貫いた。

 「なっ!?手応えがない……!!?」

 (いまだ!)

 「ヌロウ・パニシュラ<溶解魔法Lv4>!!!」

 「しまっ……!?」

 予想外の反撃に、賢者さんは対応しきれなかった。水色の泡が、彼女のもとで破裂した。

 「うわあ!!?」

 「やっと可愛らしい悲鳴上げてくれたぜ。」

 実はさっきの幻霧魔法には、オレ特製の魔力毒が混じっていたのだ。この毒が賢者さんの耐性を低下させてくれたおかげで、オレはあの攻撃をさばけたのである。

 「うう……よくもやってくれたわね……。って……!!?」

オレの攻撃は彼女に深刻な精神的ダメージを与えるものだった。。

 「わ、私のローブが!!」

 あの溶解魔法は、人体でなく繊維を溶かす作用がある。それを至近距離で喰らったのだ。賢者さんの衣装はあちこち破れ、白い素肌が露になっていた。

 「ちっ、耐魔法製の服だったか。あれじゃ半裸程度だな。まあいいぜ。次は全裸に剥いてやらあ。」

 (こ、コイツ!最低だ!!)

 流石の賢者も、頭に血が上りそうになった。しかし、すぐに考えを改めた。

 (いや……待つのよ私。この男はかなりの手練れ。特に戦術の軸となる毒系統の魔法は強力かつ独創的。まるで「あの人」を連想させるくらいに。こうなったらもう、手段は選んでられないかも……。)

 「……どうした賢者さん?来ないのか?来ないならこちらから行くぜ。」

 オレは高々と杖を掲げた。

 「ごめんなさいね。少し迷ってたの。」

 「迷い……?」

 どこか意味ありげな口調だった。

 「だってこれ……禁術なんだもの。」

 フリーダメーロの瞳の色が、瞬時にして変わっていく。深い紺色から、血のような緋色へ。そして魔力の質すらも、違う色へと……。

 「…何をする気だ!?」

 オレは身構え、炎の壁を展開した。

 「無意味よ。賢者奥義<時河氷結陣>。」

 フリーダメーロの瞳から、真紅の眼光が迸る。その閃光は、空間へと縦横無尽に、魔術的な刻印を展開していった。

 「な、なんじゃこりゃあ!!?」

 完全に始めてみる魔法だ。いったいどういった効果があるのか、予想すらできない。

 「もう逃げられないわ。」

 次の瞬間、オレは大口を開けた「空間そのもの」に、飲み込まれてしまった。


 ――そしてその頃……。

 「ニトロさん!!ようやくみんな第二治療室まで運び終わりましたよ!!……ってあれ?誰もいない……?ニトロさーん!!」

 しかし返事は返ってこない。ただなにもない空間が、広がっているだけだった。



 賢者の切り札により、亜空間へと幽閉されてしまったニトロ。それは脱出不可能な氷の檻であった。はたして彼は元の世界へと帰ってくることが出来るのか?次回へと続く。 

 


 

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