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第三話 go my way〜魂を売り渡せ!〜

前回、勇者に追放された挙句砂漠をさまよう羽目になった毒魔術師は、酷暑と魔物との戦いにより全ての力を使い果たしてしまう。しかし幸か不幸か、薄れゆく意識の中、遭遇したのは正体不明の美少女。一体この少女は、敵なのか味方なのか。


 目覚めたオレがいたのは、地下室のようなところだった。日の光が差し込むことはなく、明かりはロウソクの火しかない。そしてそんな薄暗い部屋の中でオレは―全身を舐めつくされていた。ピンク色の柔らかい舌はうねうねとなまめかしく動き、それが皮膚に触れる度に、心地よい快楽の電流が全身に走る。すっかりしゃぶりつくされてしまったオレは、身も心もとろけてしまいそうだった。さっきまでいた灼熱の砂漠とは、天と地の差である。まあ一つ問題があるとすれば、オレを舐めているのが件の少女ではなく馬鹿でかいガマだということだ。

 「どうですー?気持ちいいですかー?」

 ガマの足元でオレとガマとの交わり?を見物していた少女が尋ねてくる。

 「は、はい……。気持ちはいいんだけど……うわっ!?」

 言い切る前に顔をベロンと舐められてしまった。まあ、気持ちいーのは確かだ。極上の温泉につかってる気分。またガマの唾液には治癒効果があるらしく、おかげでHPもかなり回復してきた。ただ逆に、オレの正気度は下がりつつあった。状況が未曽有すぎる。あとこのガマ、たまに股間のあたりを……ウグッ。

 「えーと、だいぶ回復してきたみたいですね!ヒーちゃん、もうそろそろやめていいよ。」

 「ゲロッ。」

 ガマは威勢よく返事をするとオレを解放し、ゆっくりと紳士的に床まで下ろした。ふう、危ないところだった。絶壁とはいえ、女の子の前で暴発とかありえん。

 「どうやら完全にHPが回復したようですね。気分はどうです。」

 「スッキリしたぜ……でも、ちょっとモヤモヤするというか……。」

 「……?」

 「ああ、いや忘れてくれ。それより命拾いしたぜ。ありがとう。」

 「いえいえ、当然のことをしたまでですから。亡くなったおじいさまもよく言っていました。情けは人の為ならず、って。」

 「へえ、どっかのアホ勇者とは大違いだ。」

 それにしても、笑顔の可愛らしい明るい子である。しつけが行き届いてるのか、礼儀正しいし。親御さんが、さぞかし立派な人なのだろう。

 「そういえば、自己紹介がまだだったな。オレは毒魔術師のニトロ・パンプキンだ。君は?」

 「現魔王の長女にして継承権第一位の、ナデンカ・ナルコレプシです。気軽にナデコと呼んでください。」

 「なるほどー。魔王の娘さんか。思った通り立派な親御さんだ。……って、魔王!?」

 こんないたいけな少女が、オレたちが死ぬほど苦労して討伐しようとしてた奴の……娘!?

 「はい、その通りですよー。」

 少女は平然と答える。

 「い、一体、魔王の娘がオレみたいな冒険者に、何の用だ!?」

 「フフフ、驚かないでくださいよ……。ズバリ!我が王国の傘下に下り、その尖兵として外敵を打ち滅ぼすことです!」

 「はあっ!?」

 流石のオレも、腰を抜かしそうになった。一体この娘は何を言い出すのだ……!?

 「命の恩人の頼みでも無理だっ!オレは腐っても国家直属の魔術師、魔王や魔族は、敵だ!」

 「そんなことは分かっています。あれほど消耗していたというのに、砂漠オオサソリを圧倒できる人間なんて国家直属の冒険者くらいしかいません。しかし私たちの軍は極めて脆弱であり、一人でも多く強い戦力が必要なんです。人材を選んでいる余裕なんて、ないんです。」

 「いや、だからといって人間の戦力を求めるのは……って待て、極めて脆弱?」

 少し腑に落ちない。オレたちが戦っていた魔族の軍団はかなり精強だった。

 「えーと、国の名前はなんていうんだ?」

 「名前ですか……?あなたがいた砂漠を人間との緩衝地帯にしている国は、我らがナルコレプシ王国くらいしかないはずですけど。」

 「ナルコレプシ……。オレたちが戦っていたのはアセンブラ帝国だから……因縁は別にないわけか。」

 「えっ、じゃあ迷う理由ないんじゃ!?」

 「いや、ありまくるわ。裏切り者への制裁は苛烈極まるし。生きたまま内臓引きずり出されたりするし……。」

 (でも……)

 オレの第一の目的―勇者を倒し賢者さんを救い出す―を実現するには、誰かの手助けが必要不可欠だ。腐っても奴らは熟練の冒険者。いくら何でも3対1じゃ勝ち目は薄い。魔王軍で働く見返りに協力を得られるなら、それに越したことはない。あとパーティーを追われたから、身の寄せどころも必要だし。冷静に考えれば考えるほど、魂売り渡す方が理に適っている気がしてくる。ただ、人間と戦うのはやっぱり抵抗感が……。

 「あっ、別に人間の国と戦争する予定はありませんよ。あなたの相手は、今まで通り魔族の軍団です。外国のね。」

 「えっ、マジか。」

 いよいよ最後の砦が陥落してしまった。

 「よーし、じゃあお兄さん、転職しちゃおっかなあ……。」

 「えっ、本当ですか!?」

 「……うん!」

 「やったあ!」

 正直言って、リスキーな決断をしたと自分でも思う。魔族に寝返った冒険者なんて、前代未聞だ。しかし、オレの師匠はよくこう言っていた―自分の信じた道を貫け、それが女(漢)の人生だ―と。オレはあの勇者という歩く不条理を、何としてでもぶちのめさないと気が済まんのだ!それに……。

 「やった!やっと魔王軍に一つ貢献できたわ!」

 ナデコの無邪気に喜ぶ姿を見ていると、そんなことはどうでもよくなってくる。

 「今日は歓迎会を開きましょう!湯豆腐とかで!」

 「以外と庶民的だな……。」

 「いやあ、というのも財政が底をつきかけていて……。」

 「えっ?」

 やっぱりどうでもよくなかったかも……。というか、この国色々と大丈夫か!?


 

 こうして一応身の寄せ場とナデコという味方を得た毒魔術師ニトロ。しかし彼ら二人の語り合う様子を、影から苦々しく見つめる者がいた。その名はナルコレプシ王国宰相バルボラ!次回、天才毒魔術師ニトロの身に、老害大臣の魔の手が迫る。

 

 

 

 

 

 

 

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