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シルバーイーターX Re:story ~銀の魔族とハーフエルフの少女~  作者: カイロ


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行き着いた決意

「はい、おしまい」


 ぱん、とカトレアが手を叩く。するとそれが終了の合図であったかのように2枚の炎壁が完全に重なり合い、1つの壁になった。もはやその間にあったはずの艦も1隻たりとも残ってはいない。

 炎はしばらくそのままの状態を維持していたが、カトレアが腕の黒鉄を解除すると同時に締め切っていたカーテンを開くように左右に別れて消失していった。

 高所、ベルズの家の屋根の上に立ったカトレアはぐるりと周囲を見回し、改めて取り逃しの艦がないことを確認してから隣に立つ夫に向き直る。


「ふふん、どうですか、無傷で全滅させちゃいましたよ!」

「すごいじゃないかカトレア!」


 表情を見ただけで「褒めて褒めて」と言いたそうにしているとわかるような顔を見せてくるので、ベルズも期待に応えるべく率直な称賛を送った。


「っていうか、あれって2個も出せたんだな」

「操作するのはちょっと大変ですけどね。ちなみに、頑張ればもっと出せると思います」

「ま、まだ出せるのか……」


 上限はまだ先にあるという。制御がどれほど困難かは不明だが、あれだけの規模となれば1つだけでも決して少なくはない負担がかかるだろうに。その力量に感心するべきか呆れるべきか、ベルズは少し迷った。

 元々は自身の周囲を覆う程度の防壁だったのだ。それを島や国の規模で展開するとなれば莫大な量の魔力が必要となるだろう。不死でなければ維持どころか展開さえ不可能だったに違いない。


「まあ、そのお話は置いておきましょう。……それにしても、こうなるととても静かですよね」


 海を見ながらカトレアが言う。涼やかな風が吹き、紫色の髪がふわりとなびく。

 数分前はいくつもの砲声が上がり非常に騒々しかったのもあるだろうか、今の海はとても穏やかで、まさに平穏と呼ぶに相応しいとベルズは思う。


「ああ。すごくいいと思う。平和的だよな」

「そうですね。そしてこんなにも静かな海でしたらまた泳ぎたくなりますよね」

「…………いや、それは……。今日は、もういいかな」


 思っていたのと違う返事だったらしく、カトレアは若干頬を膨らませている。まあビスクが第2波を引き連れて戻って来るような事さえなければ今日の所はもう安全ではあるのだが、また沈むのが怖いので今日はもう海に近付くつもりはない。

 それからしばらくは2人して屋根の上で座り、それ以上喋ることもなく風を感じ、静かな海をじっくりと堪能していた。

 その最中、ベルズはハッと何かに気付いたように立ち上がる。天啓を得た、とでもいうような表情だった。


「……? どうかしました?」

「そうだ……俺が求めていたのはこれだったんだな!」

「これ、とは?」


 きょとんとした様子で問われ、ベルズはうきうきとした顔をカトレアに向ける。


「今のこの光景だよ! 人間がいなくなって平和が訪れた海! これが俺達の目指すべき世界なんだよ!」

「……なるほど、そういうことですね」


 納得したように頷いたカトレアは立ち上がる。それを待ってから、ベルズは続きを話した。


「争いを起こす起こさないじゃないんだよな、人間なんか理由もなく争う奴らばっかなんだからみんな殺せばいいんだよ!」


 つい先日に考えを改めたつもりだったが、それすらまだ甘いとベルズは気付いたのだ。それでは真の平和には程遠いと。

 実行するだけの力はあるのだ、恐れるものは何もない。

 今ベルズは自分が非常に活き活きとしているのを感じる。それは表情にも出るほどだったのか、活力みなぎるベルズを見てカトレアは嬉しそうに笑顔を見せる。


「ふふっ、楽しそうな顔してますね。そういうあなたのお顔、もっと見たいです」

「そっか。じゃあこれからは今まで以上に楽しくやっていこうかな」


 静かな海、その向こうへと続く大陸に存在する人々に向けるように、ベルズは指差した。

 その時の顔は、今までにないほど純粋で無邪気で、それでいて堅い決意を秘めたような、とびきりの笑顔だった。


「人類、殲滅だ!」



 シルバーイーターX Re:Story おしまい

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