妹ができました
「……とまあそんな事があったわけだ」
ビスクがベルズの前に現れてから一週間。その間に再び誰かが島を訪れるようなことはなく、とても平穏に過ぎていった。
穏やかなのが悪い事ではない。が、ベルズにとってそれは我慢しようもない退屈でもある。
という事で、今ベルズは自宅の地下室へ遊びに来ていた。
「ふむ、一瞬の内に死体が……ね」
話を聞いていた赤い髪を後ろ手に束ねた、褐色の肌に白衣の女、ディオネアは興味深そうに繰り返す。
彼女はベルズの命を助け、そしてその恩以上の呪いを彼とカトレアに与えた人物である。その声色はそんなものを感じさせないほどごく普通のものであるのだが、彼女は腹に巨大なパイプを突き刺され、壁に磔にされている。
通常の人間であれば死んでいないのが不思議でならないが、ディオネアもベルズやカトレアと同じく不老不死となっているのでそんな状態でも生きていられる。
死なないだけで痛みは感じるはずなのにどうして平静でいられるのかはベルズにも疑問である。
「呼吸が止まる瞬間も見ていたはずなんだけどな。どうやったのか気になって仕方ないんだよ」
「そうかい。私はさっきから何の説明もなく私の腕を折っては再生するのを待ってまた折るのを繰り返されてる方も気になるんだが、そろそろそれについて質問してもいいかね」
「気にしないでくれていい」
「気にするよ。だってものすごく痛いんだもの」
「じゃあ痛がれよ……」
ビスクの話をしながら、ベルズはディオネアの腕をへし折っていた。が、まるで痛覚が存在しないかのように振る舞うので、まるで面白くない。
「お兄さま、その辺りにしてあげては……」
「言われなくとも、こうも無反応じゃなあ」
制止の声に、ベルズはすぐに従った。元よりベルズが期待していたのは悲鳴だ。痛覚がないかのような反応だけしか返らないのでは続ける気にもならない。
「……ところでもう一つ気になっていたんだが、君の後ろにいるのは誰だい? ずいぶんと似てるけど、まさかもう子供を?」
「んなわけないだろ。一年でここまで成長するかっての」
ベルズの後ろには、ベルズと同じく長い黒髪で少しばかり身長の低い少女が立っている。
しかしそれが誰なのかディオネアには見当がつかないらしく、首を傾げた。
「なら、誰だい?」
「……妹、かな」
少し考え、ベルズはそう答えた。嘘ではないのだが、妹と呼ぶのには抵抗がある。
その名はリギア。過去、ベルズの妹を自称していた少女。その時、一悶着あった末に死んだ、はずだったのだが。
「愛の力で死より蘇った、リギアです」
「愛って……」
詳細は省くが、ベルズはリギアの兄ではない。体だけは彼女の兄のものであるが、中身は別の者が入っている。
それをリギアも死ぬ前に理解していたはずなのだが、蘇って以降ベルズの事を兄と呼んでいる。本人曰く「中身が兄でなくとも、その体がお兄さまのものであればそれは私にとってお兄さまだと思うのです」だそうだ。
当初はどうしたものかとベルズは悩んだが、カトレアの方は家族が増えたと喜んでいた。
だが、ベルズはなんだか妻との生活を邪魔されるような気分であり、思い出すたびに溜息を吐く。
「やっぱり、埋めた場所が悪かったんだろうなあ」
リギアを埋葬した際、そのすぐ近くにベルズ達を不死へと変えた岩があったのだ。生き返ったのはその影響だろう。まあ、ベルズ達とは少々違うせいか完全な不死とは違うようなのだが。
何にせよ知らなかったとはいえ、なぜあんな所に埋めてしまったのか今でもベルズは度々後悔している。
「いやはや、三人の女性から愛されているとは、君も大変だね」
「二人の間違いじゃ……もしかしてそれはお前も数に入ってんのか?」
「フフ、嘘だよ。まあ私の腹部に突き刺さっているこれを抜いてくれるなら嘘でもなくなるかもしれないがね」
「そうか。じゃああと一万年くらいそのままでいてもらうかな」
そう言って、ベルズは地下室を出ていく。わかっていた事ではあったが、どんな痛みを与えても反応の薄いディオネア相手では面白くないし、これ以上いる理由もない。
それに続き、リギアも後を付いていった。
「うふふ、愛ですって。私はただお兄さまと一緒にいられたらそれだけで満足なんですけれどね」
「……そうか」
おかしそうに言うリギアに、返答に困ったベルズは適当に相槌を打った。
度々嘘ばかり吐くディオネアほどではないが、リギアもベルズにとって分かりにくい。
カトレアと同じようにリギアもただベルズと一緒にいるだけで幸せなのだそうだが、それ以上を求めてこないのだ。
カトレアはそれ以上、つまり愛を求めてくるが、リギアは本当に同じ場所で暮らしているだけでいいのだという。
本気なのか、それとも実は裏で何か企んでいるのか。リギアの考えが読めないベルズは、どうすればいいのか今でも悩む。




