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本の声

作者: ESAKI

≪登場人物≫


男(30)…夫。特徴がこれといってあるわけでもない、普通の会社員。

女(29)…妻。本をよく読むごくごく普通の主婦。


≪場所≫

昼下がりの喫茶店

SE 喫茶店の雑踏

SE コーヒーカップを置く音


女性 『…ねえ、あなた』

男性 『ん?どうした?』

女性 『本ってさ、』

男性 『うん』

女性 『話しかけてくるよね』

男性 『……………えっ?』

女性 『いや、だから、本って私たち人間に話しかけてくるよね?』

男性 『え、いや、そんなことないと思うけど』

女性 『…え、あなたはそうなの?』

男性 『いや、そうでしょ!普通の人はそんなこと思わないって。ってか、本って喋れるの?』

女性 『うん、私はそう思っているんだけど…』

男性 『ええっ、だって、本には、口もノドも無いワケじゃん。どうやって喋るんだよ』

女性 『いや、口やノドが無くたって、本は喋れるよ?』

男性 『えっ、どういうこと?

女性 『あなたは、本屋さんとか図書館とかで、その声を聴いたことはないの?』

男性 『………本屋や、図書館で?』

女性 『そう、私はよく行く本屋さんで、本にこう、声を掛けられるの。』


SE 本屋を歩く靴の音


本A 『私の名前は、京都グルメさんぽ!京都の桜の名所をたっくさん紹介しているよ』

本B 『僕は、簿記3級テキスト!詳しい解説と過去問がついているよ』

本C 『俺は、家でオリーブを育てよう!できる男はオリーブオイルをオリーブの苗から…』


男性 『え、うわぁ、待って。本が自分の本のタイトルを喋ってるの?』

女性 『うん、そうだよ。その声が私には聴こえるんだけど』

男性 『え、……それ、ただ君が目で本のタイトルを見ただけなんじゃ?もしくはメンヘ…』

女性 『そんなことないよ。必ずしもその声がタイトルとは限らないし。ほらあれよ、本が読者に思いを伝えたくて、私たち人間の目に訴えかけてくるってことよ。』

男性 『ほう、訴えかけてくる、ね。でも、それは君が本を好きだから聴こえるんじゃ。』

女性 『あなたは、本に一目ぼれをすることってない?

男性 『えっ?一目ぼれ?』

女性 『ほら、自分のタイプの女性に、初めて出会った時に一目ぼれをするように。』

男性 『そんなことが、本にもあるのかい?』

女性 『あるよ。タイトルもそうなんだけど、例えば、本の帯や本の横に手書きで書かれた宣伝POP。本の色や形。それらに目を奪われることって、あなたにはない?』

男性 『あぁ…確かに、クルマとかスポーツの雑誌のコーナーとかに行くとあるかもしれないな。』

女性 『なんだ、あなたもあるんじゃん。だったら、あなたにも本の声が聴こえているわね。』

男性 『いや、でもそれは、果たして本の声というのだろうか?』

女性 『声よ。それは確かに本からの声。』

男性 『そ、そうなのか…』

女性 『じゃあさ、今からカバンから本を一冊出すから、どんな声が本から聴こえてくるか、あなた教えてくれる?』

男性 『えっ、どんな声か当てるの?』

女性 『そう。きっと、あなたにも、ちゃんと、本の声が聴こえてくるはずだから。』

男性 『いいけど……でも、聴こえてくるかなぁ。僕声なんか聴こえたことないけど。』

女性 『必ず聴こえてくるよ。必ず!』


SE バックを開ける音

SE バックの中を探る音


女性 『…え、どこにしまったかな、……あ、あった。この本だよ。』


SE 本を机の上に置く音


女性 『どう、聴こえた?』

男性 『…あ、あぁ、確かにうっすら本から声が聴こえてきたような…。』

女性 『…でしょ?で、本からどんな声が聴こえてきた?』

男性 『えっと、その、』

女性 『なに?はっきり言ってくれないと聴こえないよ?』

男性 『え、あ、うん。』


彼女が持ってた本 『私の名前は、浮気した男と別れる方法。これさえ読めば、きっと君もすぐにそんな男と別れることができるよ!』


女性 『うん、ほら聴こえたじゃん、本の声。帯からも何か声が聴こえてこない?』

男性 『うぇ、あ……う、うん。』


彼女が持ってた本『この本を読んだ読者の87パーセントが、一か月以内に別れることができたよ!』


女性 『ね、ちゃんと聴こえてくるでしょ?』

男性 『はい、た、確かに、聴こえました…』

女性 『で、あなたは私に何か言うことない?本の声じゃなくて、』


「あなたの声」で聴かせて。


SE カバンのチャックを閉める音


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