表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

プロローグ:まさか逆ナンさせるとは思っていなかった

プロローグのみ人称が違います

 







『本当に悪い葛西! この埋め合わせは絶対するから! 』


「いいよ別に、彼女なんだろ? 俺より大事にした方が良かったって」


『すまん、恩にきる! じゃあもう由井ちゃんとの集合場所着くから切るな!』


「おう、楽しんでこーい」


 ひとしきりやり取りを終えた亮太は2年前に買った元最新機種のスマホを耳から離し、画面に浮かんだ赤の受話器マークを横へスライドさせた。相手は中学時代からの友達で田平(ただいら)という、昔から背の高さだけに自信を持った奴だ。そいつとは本来この近場で遊ぶ約束をしていたが、彼女との用事が急に入ったのでそちらに行かせて欲しいという話だった。

 中学から高校受験を経て2年目の春。1年の頃にはまだあった友人達との交流はほとんどなくなり、今では会うこと事態が珍しい。高校の友達と仲が良くなったとか、部活に熱が入り始めたとかいう理由で関係が希薄になったのは確かだが、それ以上に彼女が出来たから、という理由で疎遠になった奴らの方が多かった。


 日本が本格的に少子化対策を始めてから早10年、初めこそ首を傾げるような効果しか望めないような政策だったが、それは着実に成果を上げていき、今では学生以外の20代の既婚率は9割を軽く越え、高校生のカップルも7割を越えていると言われている。


 亮太はため息を吐きながら、駅から少し離れた場所にあるベンチへ背を預けた。

 友人達に次々と彼女が出来ていく中、それでも友人グループの面々は「俺も彼女欲しいー」と言って笑っていた。その筆頭が田平だった。だが実際はどうだろうか、彼を含めたその頃の友人達は亮太を除いて全員もれなく彼女持ちとなっている。

 自嘲とも呆れとも取れるため息を吐いた亮太は空を見上げた。まるで1人取り残された自分を笑うようにカラスが鳴きながら飛び去っていく。


「まだ夕方には早えよ」


 太陽は丁度真上まで昇り、春には度が過ぎた暑さを作っていた。亮太はカラスに八つ当たりとも言える愚痴をつけると、「はあ~」と再びため息をついた。今度のため息はただ暇だということに対する物だった。


 亮太には付き合うという事がどういう事なのか分からなかった。両親は今時珍しく高校の頃から付き合い初めてそのままゴールインしたタイプの夫婦だった。中高のカップル率が増加する一方、それは本物のお付き合いの前準備という考え方からほとんどの確率で初恋が成就しない現代において、そんな両親に昔からのろけ話を聞かされて育った亮太は、どうしても無意識下に付き合う=結婚を目指すというイメージが出来てしまっていた。そこに彼女を持った友人からの話も相まってしまい、結果、付き合うという行為とは無縁の生活をおくってきてしまった。


 近頃は町に出ればどこでもカップルを見つける事ができる。だがその半分は1年もたたずに分かれてしまう。だというのになぜ彼らはあんなにも生き生きと楽しんでいるのだろうか? 亮太にはそれが疑問だった。


 考えれば皆、付き合い初めてから変わっていった。友達付き合いは確かに薄くなったが、彼女にいいところを見せようしているのか、勉強やスポーツに励んだり、プレゼントを買うためにとバイトを始めた奴もいた。亮太はまた1つため息を吐いた。


「俺も付き合ったら何か変わるだろうか」そう亮太が思ったのも無理はなかった。現に皆変わっていった。

 視界に手を繋いで歩くカップルが見えた。別れると分かっていてもあんなにも生き生きできるのかと、冷めた気持ちと羨ましい気持ちの混ざりあった視線を向ける。


 結局気持ちが傾いたのは羨ましいという感情だった。

 誰かと付き合えば退屈では無くなるだろうか? 誰かと付き合えば俺も何かが変わるのだろうか? それにきっと付き合ってみれば、案外胸の痼は取れるのかも知れない、そんなふうに考えていた。


 だが今さらながら思ったところで直ぐに相手が見付かる訳でもない。友人曰く、亮太は顔もそこそこ良いし、運動もそこそこ出来るし、勉強もそこそこ出来るから、彼女を作ろうと思えば直ぐに作れるらしい。

 それでも彼女を作ろうと割り切ってしまった亮太には、その直ぐにまでの時間も、友人達の彼女のいなかった時期と同じくらい長く感じていた。

 2年遅れにして初めて、亮太は友人達が抱いていた気持ちを少しだけ理解することが出来た。だから自然とその言葉が出てきた。別に対して深い意味があった訳ではない。ただ真似をしてみたかっただけだった。


「あー彼女欲しいー」

「私も彼氏が欲しいです」

「へ?」


 こんな出会いを引き起こすとは知らずに。


 声を出したのは20センチほど間を開けて、背を合わせるように設置されたベンチに座っていた女性だった。


 亮太が呆けていると、すっと彼女が立ち上がってこちらを向いた。彼女の不自然さを微塵も感じさせない艶やかな金髪がふわりと揺れる。


「決めました、私、今からあなたを逆ナンしてみます」


 そしてビジリと指で亮太を指差しながら、小さな顔にかかった眼鏡のブリッジをくいっと上げた。


 これが亮太とシシリアの、片方にしては衝撃の、そしていつかは思い出の物となる、初めての出会いだった。












流行れ! 金髪眼鏡!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ