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1章 後日談

翌朝、俺はぐっと身体を伸ばして身体を起こした。ベッドの方を見やるとエンヴィはまだスヤスヤと眠っている。ダブルベッドが故に更にエンヴィが小さく見えるが、昨日あれだけ頑張ってくれたんだし、ゆっくり休んでもらってもバチは当たらないだろう。


そう、ダブルベッド。


俺も常識はある。年頃の…いや、いたいけな少女と同じベッドで寝るなんてことはあってはならんのだ。目の前のバラバラになったアクセルソードは、言い訳作りに大いに貢献してくれた。うむ、礼を言うぞ。


とはいえバラバラのまま置いておくわけにもいかないので、構造を頭に入れて、紙に下書きする。


刀身の長さは一般的な剣と同等、大凡九十センチ。やや幅広、少し厚め。両刃。


柄のマグは刀身の中に薄長く繋がっている埋め込み式。鉄、どこまで入っているかは不明。恐らくは剣を打つ際に予め型があり、魔力を入れられる分の穴が開けられている模様。


鍔、アクセル。栓の役割も同時に持っているらしく、刀身に魔力を浸透させる量を調節できる。その分マグの中の魔力が減るために、マグが魔力を取り込もうとして唸る。


束、吸入口。錆が目立つ。鉄製であるが故にサビによる弱体は否めない。


さて、ここから応用。


内部から魔力を放出し剣に纏わせていた。が、効率が悪い。加えて魔力が通る隙間があると言うことは鉄の密度が宜しくない。


なのでアクセルは別の方向にシフトさせる。


モックとしては、刀身の幅を逆に減らす。幅広から幅細に、レイピア、いや、ロングソード程度の幅があれば足りる。その表面に印を彫り込む。アクセルはその印の術式の発動キーとする。


術式の内容は、引用と維持、マグに取り込んだ魔力を引用、かつ、それを刀身で維持すると言うもの。これがあることによって魔力消耗を抑え、マグの寿命と斬れ味の維持をこなすことが出来る。


マグは更に特殊仕様だ。


とてもざっくり言うと、魔法を吸引出来るようにした。


問題は、その印の作り方だ。刀身に彫り込む印はルーンブレードの応用でどうにでも出来るが、こればっかりは完全にオリジナルにする必要がある。


あ、ちなみにアクセルソードよりも前に魔法を剣に纏わせるルーンブレードと言うのは有った。今もコアなファンがいるくらいには普及しているし、魔法大国であるこの国では剣技で魔法をある程度相殺出来るからアクセルソードよりも重宝されている。


ただ、なんの因果か、アクセルソードの製作者とは意見が合わなかったようだ。合わせ技で上手いこといい品が作れそうなのに、勿体ない。


コンコン


「…?」


部屋のドアが叩かれる。


はーい、と返事をしてドアを開けると、長髪の女性が部屋の前に立っていた。少し大きめの肩掛けバッグ。


………、


「………」

「………」


追っ手か…?!


勢いよく飛び退いた俺に目を丸くした後、部屋にバラバラにされたアクセルソードを見て、へぇ、と頷いた。


「点検かい?」

「…、キャメロン?」

「そう、正解。あぁ、この姿は初めてか。ヒールも履いてないからね、見違えるだろう?」

「あ、あぁ、驚いた、美人さんだな」

「ン“ン”っ」


思わず言葉が飛び出したが、キャメロンは何かダメージを受けたようだ。


というか、目元のマークは何かの術式だったのか。昨日今日でショートヘアが腰までのロングになるとは思えないし、昨日まではあったマークが消えている。加えて、服も兵装からワンピースにカーディガンと、実に女の子らしい服装だ。


色は…わからん。


「ラック…?」

「あぁ、エンヴィ、起きたのか」

「やぁレディ、ご機嫌いかが?」

「…? キャメロン…?で合ってる?」

「おうともさ。君の方こそ、随分とわかりやすい色をしているね?私はその肌も好きだよ?」

「あ…、う、うん…」


掛け布を口許に寄せて少し体を隠す。ローブを羽織っていない所為でインナーで隠せない肌の色はありありと出る。


だが、キャメロンはあまり気にしている様子はなく、部屋に入ってきてベッドに腰掛けた。


「続きをしてくれたまえ、私はレディとお話をしているよ」

「お、おう」


たしかにこれだけ散らかった状態で出るのも忍びないしな…。


俺は紙に書きかけのモックを仕舞って、アクセルソードを組み立て直す。剣が空洞なのは仕方ないとして、マグは交換しておこう。それから出来るだけ鍔のアクセルも潤滑油とサビ取り剤で動きを滑らかにさせておく。


「それにしても、ファミリアにしては良い待遇だね。それに、魔法の筋もとても良い。彼から教わったのかい?」

「ぁ…ぇと…そう…だよ?」

「ふーん?」


背中から感じる視線を無視して組み立て作業を終える。刀身部分が鈍っているが、今の手持ちじゃどうにもならない。剣を研ぐなら武器工房に行かなきゃな。


「そういえば彼の出身は聞いてるのかい?」

「え、エルブンじゃないの?」

「彼がそういうならそうなんだろう。でも彼はこの国の魔法ではなくてトリマニアの魔法を使っている。不思議な話だと思わないかい?」

「修行に行ったって聞いたよ?」

「修行か、ふーん、たしかに言っていたかもしれないね」

「…よし。キャメロン、そのくらいにしてくれ、俺達ももう行かねえと」


組み立て終わったアクセルソードを鞘に仕舞って腰に刺す。ど素人の俺が持ってても意味ないかもしれんが、無いよりマシだろ。


キャメロンはそうか、と立ち上がる。エンヴィは少しホッとして起き上がり、ローブを着込んだ。フードを被って鼻先まで隠す。手袋の修復はしなかった。喜びを覚えた後には、やはり大きな辛さが残る。追われていた肌を隠せたのだから、なおの事辛くなる。


俺もリュックを背負い込んで、工具箱を持つ。それからドアノブにかけられていた部屋札を取ってドアを開けた。


「ところで…」


出て行く前の俺達に、キャメロンが声をかける。


「なんだ?」

「用心棒を雇わないかい?」


……、


「は?」


振り返り、口が開く。


なんだ? 何を企んでんだ?


「いやなに、私がここにいた理由は、昨日退治したアイアンワームだけだったんだ。アイツを殺して、私も死ぬつもりだった。けれど、私は君に死ぬことを許されなかった。だから私は今路頭に迷っているんだ」

「そのままここで騎士をしてればいいじゃねえか」

「それは私の性に合わない。元々、私は剣闘士の一座に居たからね、各地を渡り歩いて、その腕を競うのが私が今まで生きてきた人生であり、どこかに定住するなんてことはあり得ないんだ。とはいえ、私一人で旅をするには、少々心許ない」


自信も君にポッキリ折られたからね。


「と、いうことで、用心棒を雇わないかい?」


…なるほど。


「俺に責任を取れってか?」

「ご明察」


マジかよ…。


俺は隣のエンヴィを見る。エンヴィも困惑した目で俺を見上げた。


ついてこられたらこられたで困る事もある。少なくとも追っ手が出ている以上、キャメロンまで巻き込むわけにも行かないだろう。


「隊長さんには伝えたのか?」

「あぁ、伝えてあるとも。腑に落ちない顔をしていたがね。ただまぁ、私がここに居続けても私が死ぬだけだと言うのは彼もわかっていただろう。追いかけられはしなかったさ」


それはそれで、寂しいものだが。


「それで? 責任を取ってはくれないのかい?」

「………、」


ガシガシと頭をかく。困ったな…。


「ラック、私は平気だよ?」

「…わかったよ。ただし、条件がある。俺の事を根掘り葉掘り聞くのは構わないが、エンヴィの事は聞くな。それから、何があっても自己責任だからな」

「良いとも。レディの事を掘り下げるのは紳士的じゃ無いしね。それに、君に襲われでもしない限り、大抵の男は跳ね返せるよ?私はね」


くす、と悪戯っ子の様な笑みで俺を見るキャメロンに、俺はため息を吐いた。


「お前は一体俺をなんだと思ってるんだ」

「男はみんな狼さ。さ、時間も勿体ない。朝食を済ませようじゃあないか」


確かに変装を解いたキャメロンはグッと女性らしくなって、魅力的に見えなくもないが、中身が同じなら感じるモノもまた一入だろう。少なくとも見た目だけで判断できるほど俺の目は良いものじゃない。


許可が出た途端、すたすたと先に歩いて行くキャメロンの後ろ姿を目で追いながら、エンヴィに尋ねた。


「本当に良かったのか?」

「うん、ラックだって、放っておけなかったからダメだって言わなかったんでしょ?」

「バレてらぁ」


思わずコレには苦笑い。


あれやこれや言っておいて、結局俺は断れないんだよなぁ。悪い所でもある。


これも、キャメロンと同じで、俺の性分がそうさせてるんだろう。きっとそうに違いない。



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