4章 後編⑤
ウルフの襲撃以降、魔種の出現はなく、俺たちは山の麓にある森の手前に到着する。野営のため、傭兵たちが、キャンプの準備を進める中、俺たちはドラッケンに呼ばれる。
ドラッケンが目を向ける森にはうっすらと獣道のようなものができており、傭兵たちが何度もこの山に足を運んでいることがうかがえた。
「最近、森に入った形跡がある。ケンからの報告だと、それなりの人数が入っているようだ。道の各所で、人が通った形跡が見つけられた。それに、碌に処理のされていない魔種の死体も見つかっている。傭兵が入ったわけじゃなさそうだ」
「根拠は?」
「職人は、仕留めた魔種の処理方法知っているか?」
「なるほど、専門外だ」
「そう言うことだ。魔種は俺たちの収入源でもある。適当な処理はしないし、ましてや置いていく事もしない。積まれてるウルフがわかりやすい証拠だ」
先ほど襲ってきたウルフは全て血抜きが施され、荷馬車に積まれている。手の速い傭兵は皮も剥いだ上で食えるように解体までしている。そう考えると、ドラッケンの言うことは正しいのだろう。
「ちなみに、入っていった奴らに心当たりは?」
「…無いことは無い。おそらく、魔術ギルドの連中だろう。でなければわざわざワイバーンの巣を狙うことも無いからな」
「ワイバーンの巣が魔術ギルドに重要ってことか?」
ドラッケンはアゴをさすりながら、何だったかな、と思い出しながら口を開く。
「これに関しては俺も専門外だ、話に聞いたことがある程度だな。確か…、地脈だか霊脈だかが関係してて、魔力の吹き溜まりができてることがある。ワイバーンなどの竜種はその魔力の吹き溜まりにある潤沢な魔力を取り込んで子育てをするとか何とか…、その辺は生物学者に聞いてくれ」
ここにはいないがな。
確かに傭兵の専門外な話だ。だが地脈関連なら俺にもわかる。ドラッケンの言っていた霊脈はおそらく龍脈だ。この大地を流れる星の力の本流を地脈、生命が生み出す循環の力を龍脈と呼び、それらがぶつかる箇所は、何らかのパワースポットになることが多い。
かくいうトリマニアもそのパワースポットの一つであり、交差点のように交わっている。そのため各所で魔力が溢れ、祖先達は各方角に四聖獣を象り、その中心、表側に麒麟をおき、裏に黒麒麟を置いた。
今回で言うならぶつかった箇所がこの近辺にあり、魔力となって溜まっているのだろう。
「で、その魔力の吹き溜まりを、魔術ギルドが欲しがってるってのは聞いたことがある。ギルドで揉めてるのは見たことがあるからな」
「だから魔術ギルドか。それなら街のギルドに乗り込んでも良かったんじゃないか?」
「証拠がないとシラを切られるだけだ。だから証拠を消される前に動く必要があった。そして、これからのこともそれに関係してくる」
ドラッケンが俺含め、自分のパーティにも声をかける。
「スピード勝負だ、奴らがワイバーンの巣で何かしてるのは間違いない。証拠を消される前に取り押さえなければ意味がない。メル、ローイーは防御魔術をあらかじめ用意しておいてくれ。相手が魔術ギルドで間違いなければ魔術戦になることは確実だ。間を持たせてくれれば、俺とライド、ケンで近接戦に持ち込む。ラックたちもできれば合わせて欲しい。ただ、証拠はできるだけ確保したいので、吹っ飛ばすことは避けてくれ」
最後の忠告は俺に対してだろう。派手にぶっ飛ばしたのだから、注意されてもしょうがないか。
「ワイバーンの巣の位置はわかってるのかい? 山をしらみ潰しに探すのでは間に合わないだろう」
「ケンにある程度の位置を割り出してもらっている。方角的にはここから東南東、およそ五キロほど離れた位置で、探知魔術の痕跡が発見されている。少なくともそこから先で居を構えているのだろう。今年発見されたワイバーンの巣の方角、距離的にも一致している」
ケンが頷く。
「移動はどうする? 戦闘が避けられないならこちらも消耗を抑える必要があるんじゃないか?」
「それなんだが…、今のところは徒歩による強行しかないと思っている。人数を絞ったのもそのためだ」
確かに大人数での徒歩強行は目立つけど、それだと山道を抜けて、探知魔術の解除の前に休憩を挟まないといけなくなる。解除されたことに勘付かれれば、そのまま戦闘になりかねないし、強行した分こちらが疲弊しているのだから、相手に有利なまま押し切られる可能性もある。
俺は日向ぼっこから目を覚まして、俺の足元に擦り寄る白虎を見やる。
お前を頼るか。
『ニャフ!』
小さいので声も可愛らしいが、その鳴き声にドラッケンたちも気づいたようだ。メルとローイーがきゃーと黄色い悲鳴をあげてしゃがみ込む。エンヴィも気づいていなかったようで、目をパチパチとさせながら触りたそうにうずうずしている。
ドラッケンふくめ男性陣は首を傾げつつ、困ったように眉尻を下げた。
「あー、ラック、ペットを連れてくるのはちょっと、遠慮して欲しかったんだが…」
ペット?
「っはははは! 違う違う! こいつは四聖獣のうちの一体だ。あんたらにお世話になってる虎だよ。確かにこの姿じゃあわかんないかもな」
女性二人に愛でられて気持ち良さそうにしていた白虎が俺の視線に気づくと、途端にキリッとして、二人の手をすり抜けて俺の背後に回ると、次に見えた時には三メートル超の巨体に戻っていた。
「改めて、俺の白虎だ。移動にはこいつに手伝ってもらおうと思う。この辺の土なら道もわかるだろ」
女性二人は俺と頭を並べる白虎に笑顔のまま固まってしまう。俺は喉元を撫でてやりながら、白虎にお願いする。
「みんなを乗せてやりたいんだけど、仲間を呼んできてくれるか?」
ざらりとした感触が頬を伝う。大きな舌で舐められた後、白虎はその長い尻尾で地面を叩く。すると、地面がゆっくりと盛り上がり、半分ほどの大きさの白虎達が俺を取り巻き始める。
この辺では見ない顔だからか、しきりに俺の顔と匂いを嗅ぐが、俺の横に腰を落ち着ける白虎を見て、その後ろに並んで腰を下ろした。
応えたのは七体か、十分だな。俺のをふくめて八体、エンヴィを俺の白虎に乗せれば事足りるだろう。
目を白黒させたまま唖然とするドラッケンと対照的に歓喜の声をあげるのはライドだ。
「おほぉおおおお!!すっげええ!!え!俺らトラに乗るんすか!トラに乗って森を駆け抜けるってことっすか先輩!!」
「いや、先輩でも何でもないんだけど、まぁそう言うこったな。そっちは一人一体、こっちは俺とエンヴィでこいつに乗って、後は一人ずつだ」
「アイアイサー!」
めちゃくちゃ元気なライドが手近一体に近寄り、よろしくな、と頭を撫でた。敵意がないことと撫でられた場所がよかったのか、その白虎はライドの頬に軽く頭をこすりつけ、立ち上がる。
乗れ、と受け取ったライドが軽々とその背中に乗ると、さらにテンションが上がったようで両手を握りしめてくぅううと噛み締めている。
それに続いてケン、ドラッケンがそれぞれ白虎に乗ってみる。ライドほど意思疎通はできなかったようだが、それでも乗ることはできたようだ。
メルとローイーは恐る恐ると言った感じで白虎にまたがると、その毛皮の柔らかさに驚きながらも、襲われることがないとわかって、落ち着きを取り戻したようだ。
「すごい…本物みたい…。職人さんってこんなこともできるのね!初めて見た! 街の職人さん達もできるの?」
「できるやつ、できないやつ半々だろうよ。自分の周りには常にいると思ってなけりゃ、姿は見せてくれねえし、いるとわかってても姿をイメージできなけりゃ応えてくれねえ」
「ふーん? アーカイブトルムの精霊信仰に近いのかしらね」
「深いですねー…。やはり、魔法の方が幅があるんですねー…」
魔術師二人が思い思いの感想を述べる。キャメロンとエリアルが乗ったのを見て、俺も白虎に乗り、エンヴィを抱き抱えて前に乗せる。
「よし、いけるぞ」
「お、おう、確かにこれなら歩くよりもよっぽど消耗しないだろうな。だが、ラックは大丈夫なのか? 魔力が枯渇でもしたら大変だろう」
「その辺は心配しなくていい、俺の魔力なんてほとんど使ってねえからな」
「つ、使ってない? これでか?」
「俺はそこにいる奴らに呼びかけただけで、お呼びのかかった奴らには俺の魔力は一切使ってない。トリマニアの魔法は簡単だけど複雑なんだよ。いっちまえば、魔力を使うのはイメージの伝達と形の形成だけ、それ以降はもともとそこにあるの魔力を拾って維持するのさ。あるものを使うのに、俺が消費することなんざないだろ」
「そう簡単に言われても…そうなのか?」
「さぁ?」
「私も知らないですねー…」
自分のパーティの魔術師二人が首を傾げるので、ドラッケンも諦めるしかないようだ。信じるぞ、とだけ言って俺たちに号令をかける。
「行くぞお前達! 善は急げだ!」
はいよう!と声を張り上げ、先頭を走り出す。その後に続いて俺たちも森に入って行った。
「…何だあれ…」
「トラ…だよな…?」
「なんでトラに乗ってんだ?」
傭兵達の疑問を置いてきぼりにして、颯爽と森の中を進む。木にぶつかることも根に引っかかることもなく、さらには斜面に足を取られることもない。
あまりに快適だったのかライドが声を張り上げて俺に尋ねる。
「先輩! 俺もこの魔法できるようになりたいっす!!」
「トリマニアで扱かれてこーい、地獄だけどなー」
「初級魔法でどうにかならない?!」
「なるわけねーだろ!」
「ですよねー!」
笑い声が森に響く、途中、フォレストウルフやゴブリンなどの小さい魔種を見かけるが、俺たちを見るなり一目散に逃げていった。強者と弱者の区別はついてるようだな。
そうして白虎を駆ること数刻、白虎達がスピードを緩め、ゆっくりと足を止める。そして地面の匂いを嗅ぎながら低く唸った。ケンがあたりを見回し、白虎から降りて近くの木を確認すると、懐から鈴を取り出し、耳に近づけた。
何かを検知する鈴だろうか、気になるので後で貸してもらおう。
「…この辺りだ」
「すごいな…それもわかるのか」
俺の乗っている白虎の毛が少し逆立っている。ここから先に進むのは少し嫌だったようだ。何がいやなのかまではわからないが、そんな雰囲気なのはわかる。
エンヴィと一緒に降りて、少し土に触れる。確かに、力の流れが少し変だ。エンヴィも目を閉じて意識を集中させた後、俺の手を引いて歩き出す。
辿り着いた痩せ細った木の根元に手を置くと、木々を結んでいた魔力の線が目に見えるようになりゆっくりと解かれていく。壁のように空間を結んでいた線がゆっくりと力を失い、やがて消えると、エンヴィは木の根元から紙を掘り起こした。
術式紙だ。だが、エンヴィに解かれたせいか、紙は白紙になっていた。
「多分、バレてない。引っ掛かったら術者に知らせる魔法陣だったけど、解除された時に何かが起きるようには組まれてなかった」
「そうか、じゃあ進むなら今のうちだな」
お礼の代わりに頭を優しく撫でてやると、少し得意げにしながらも他人行儀で寡黙な状態に戻った。
他のメンツも白虎から降りたのだが…約一名、駄々をこねる子供のように白虎の背にしがみつく男がいる。
「…ライド」
「びゃ、白虎っす、ここには白虎しかいないっす」
「諦めろ、どう頑張ってもその虎に赤い立髪は似合わないぞ」
そう言われると、ライドが頭を隠して嫌っす!と駄々を継続する。どうやらライドの髪は赤だったようだ。
せっかく早くついたのにこのままロスするのも勿体無いので、俺は白虎に目配せをして、帰ってもらう。
「あぁぁぁああ…」
最早本物の駄々っ子である。
地面にうつ伏せになってシクシクと口でいうライドにエンヴィが冷ややかな目を向けているが、俺をふくめた男性陣は、生暖かい目でライドが立ち直るのを待った。
まぁ、わかるじゃん? こう、ロマンというか、自分がかっこいいって思ったものってなかなか手放すのが難しいよな。
「今度は俺のに乗せてやるから、ここは我慢してくれよ。な?」
「ほんとっすね!? 男の約束っすよ!」
バッ、と顔を上げるライドに苦笑いしつつ、約束するよ、と応えると、ライドはすぐさま立ち上がって槍に手をかける。
その顔は先ほどまで駄々をこねていたとは思えないほど精悍な顔つきだった。
まともに戻ったライドを連れて、山道を進む。斜面はそこまでキツくないが、中腹と登らず降らずで進んでいるため、先ほどよりも足を土に取られやすいのは確かだった。
「ラックさんの白虎に乗せてもらって正解でしたね、この道を徒歩で強行は、なかなか無謀に思えます」
エリアルの言葉にキャメロンも同意を示す。先頭のドラッケンには聞こえていなかったようだが、聞こえてたら気まずいに違いない。
俺と手を繋いで歩くエンヴィも、バランスを取るのに四苦八苦している。対して、さすが傭兵というべきか、魔術師も含めて、足を取られることなく平然と進んでいくドラゴンスレイのパーティ達。
こればかりは経験の差だろうか。
やがて、先頭を歩いていたドラッケンが全体を制止し、それぞれ木陰に隠れるように指示を出す。俺たちもふくめて散開して様子を伺う。
「放ったウルフ達はどうなった?」
「わからん、まだ帰ってきていないな。餌にありついたか、やられたかのどちらかだが…」
「完全にやられる可能性は少ないだろう、あの数を手懐けたのだから、手傷を負った上で進行も遅れているはずだ。それより手を動かせ、魔力採取が終わらなければ私たちの首も飛ぶぞ」
黒いローブでフードをかぶり、いかにもな男が三人、それぞれ術式紙とマグを持って地面に不自然に空いた穴に何かしている。
あそこから魔力が吹き出しているのだろうか。となると、本当に吹き溜まりなんだな。んで、あいつらはその魔力をマグに入れて採取していると…。
見たところ、マグに印はされていないので、ただの魔力タンクとして使っているのだろう。
大量の魔力をかき集めて何をしてるんだか…。
ドラッケンがドラゴンスレイのメンバーと視線を合わせる。どうやら、あれを無力化して本拠地に案内させるつもりのようだ。俺とエンヴィの目も合う。ここは様子見しよう。
メルとローイーが術式本をめくり、それぞれの項に手を置く。
呼吸をあわせ、同時に発動した。
「サイレンス!」
「レストリクション!」
男達の口から声が消え、それと同時に、直立不動の状態で魔力により拘束される。不意打ちだったおかげで魔法対抗も発動できていない。その隙にドラッケン達三人が実際の縄でも改めて縛り付ける。
わずか数秒で、男達はあっという間に拘束されて俺たちの前に転がった。
「さて、俺たちが聞きたいことはわかってるな? 大人しく自白すれば、むざむざ戻って首を飛ばされずに済むかもなぁ?」
サイレンスが解かれた男の一人が必死に声を上げる。
「し、知らない!本当だ!俺たちはギルドマスターの命令で、魔力を集めてただけなんだ!それを何に使うかまでは教えてくれなかった!」
「じゃあギルドマスターの指示で、ワイバーンの巣を荒らし、そこに居座っていることは認めるんだな?」
「く…! それは…認める。実際そうだからな。魔力を集めるには一番効率が良い、これは誰が考えてもそうだ」
土地の性質を考えれば自然と行き着く回答。ドラッケンもそれには頷いた。
「そのギルドマスターはどこだ」
「ここから山を登ったところだ。巣があった洞窟にキャンプを張ってる」
ドラッケンは山を見上げる。ここからでは木が邪魔して見えないが、この先に洞窟があるようだ。
術式紙と魔力タンクを証拠の一つとして回収しつつ、男達は再度サイレンスの魔術をかけられ、魔種よけの簡易結界の中に閉じ込められる。後で回収する、とだけ伝えて、俺たちは山を登り始める。
こう見ると魔術ってのはやっぱ便利だなぁ。応用は効きにくいし、幅はないかもしれないが、安定して同量の効果が得られるのは、俺たちの作る印をつけたマグに通じるものがある。
そんなことを思いながら、少し歩くと山肌の色が段々と変わってくる。土に覆われ木が多く生えていたところから、徐々に岩肌が見えるようになり、土よりも岩が目立つようになってくると、ドラッケンが全体を制して、屈むように指示してくる。
懐から双眼鏡を取り出すと、山肌をなぞるようにして見上げていく。
「あったな。見張りは立っていないようだ。ただ、中の様子も見えないな」
「誘われてる、って可能性は?」
「あぁ、それもあるかもしれないな。その場合、狙われるのは俺たちよりも君達だろうがな」
双眼鏡から目を離さず、続ける。
「もうわかっているだろうが、奴らは魔法が嫌いだ。だが、君達は魔法をつかっている。誘っているとしたら、まず君達が狙われるだろう」
「誘いに乗るのは?」
「…得策とは言えないな」
「そうして手をこまねいているから、魔法士どもがつけあがるのだ」
「!?」
ドラッケンが双眼鏡から目を離し声のした方向を見上げる。俺も釣られて見上げると、空中に色の濃いローブを着た男が立っていた。
まるでそこに地面があるかのような立ち姿に、俺は少し目を凝らす。
靴の裏に細工がされてるのか、面白いな。日用品に印を結ぶのはやったことないから今度やってみよう。
「ギルドマスターが直々にお出迎えとは、光栄なことだな」
「招待もしていない客をもてなすこちらの身にもなってもらいたいものだがな、ドラッケン」
どうやらお互いに面識があるようだ。
ギルドマスターは俺とエンヴィ、それからキャメロンをそれぞれ見てから、腕を組んだ。
少し距離が離れているせいでわかりにくかったが、およそ魔術師がするような体格ではない。どう見ても接近戦向きのインファイターというくらいには筋骨隆々だ。コバルトブルーもそうだったが、体鍛えるのが流行ってんのかな。
そんなどうでも良いことを考えていると、ギルドマスターは手のひらをこちらに向けて口を開く。
「ファイヤーボルト」
とたん、手のひらが一瞬輝き、炎の矢が生成され、飛翔する。数はきっちり三本、俺たちを狙い撃ちしていた。
ただ、そんなわかりやすい動作をしてもらっちゃ、受けるわけにはいかねえな。
俺は何も言わずに土を隆起させ、炎の矢を受け止める。土壁にあたった矢は貫通できずに深く突き刺さるに止まり、やがて霧散する。
「術式を体に埋め込んだか、人間を辞めるつもりか?」
「そんなつもりは毛頭ない、だが、必要だからしたまでのこと。見たところ、そいつらはこの国の魔法士ではないな。今立ち去れば見逃してやる」
「悪いが俺も依頼を受けててね、そこなワイバーンの巣からどいてもらわねえと困るんだわ」
「それは無理だな、魔術の発展のために、ワイバーンには犠牲になってもらう」
「魔術の発展?」
男は再び腕を組むと、目を閉じた。
これ以上話すつもりはないらしい。
ドラッケンは背中の剣を抜き放ち、小さく溜息を吐いた。
「残念だ、お前とは少し仲良くできそうだったんだがな」
「………」
俺はエンヴィをチラリと見る。その視線に気付いたエンヴィが首を振った。
なーんか良い雰囲気のところ邪魔したくないんだけど、まぁこれも仕事なもんで。
俺は人差し指をギルドマスターに向けた後、手首のスナップを利かせて上から下に振り下ろした。
「ぶべらっ!!」
見えない何かに押しつぶされ、ギルドマスターが何もない空中に叩きつけられる。
「青龍―こっちおいでー」
俺の言葉反応して、ギルドマスター共々透明な何かに運ばれてこちらにやってくる。
俺は風を一撫でして、押さえつけられたままのギルドマスターを解放する。バッと身を起こしたギルドマスターは俺から距離をおこうとするが、下がった先にはドラッケンがいた。
「…まぁ、その、なんだ、すまん」
剣の腹で側頭部を思い切り強打され、ギルドマスターは轟沈した。




