4章 中編⑤
ジュ…ジュ…パキ!
「あ…!」
「ふむ、失敗だな。やり直し」
「…はい!」
額の汗を首にかけていた手拭いで拭って、髪を掻き上げる。窪んだ目蓋が丸見えになっていても少年は気にせずハンダゴテに意識を向ける。
本来なら彫刻刀を使って金属に印をつける作業だが、少年にはまだそんな力はなく、かと言って無理に彫刻刀を金属に走らせれば力の加減を間違えてすっぱりと指をきる可能性がある。そのため溶接用の金属を使用して彫るのではなく乗せるようにして印を結ぶ。
印をつける金属は本物と同じ、薄い金属片だ。そのため、あまり強く押し付けると変形して割れる。これだけでかなり神経を使う作業だが、トリマニアの技師達が職人と呼ばれる訳はこれだけではない。
印を彫る際に、印が効果を発揮する様に魔力を乗せるのだ。彫刻刀の先端を魔力で増強し、彫刻刀そのものではなく、彫刻刀に載せた魔力で彫る。それ故に、その刃は通常の物よりも何倍も鋭い。これを無意識に出来るようになって、ようやく第一関門を抜ける。そこからは知識と、集中力が鬼門になる。
意味のない印は素材を無駄にするだけ。そして効果の高い印ほど複雑で彫るのに時間がかかる。
繊細さと器用さを養わなければならないルッカには持ってこいの修行だった。
ルッカは金属片に乗せる溶接用の針金に魔力をこめ、魔力を込めた金属を溶かして印と同じ形になるように乗せていく。魔力を込めすぎると魔力が金属を包んでしまい溶けない。少なすぎると印が発動しない。ハンダゴテを握る手に力を入れすぎて金属片に触れてしまうと金属片自体に歪み、損傷が発生し、物として成立しない。
最低限製品に近くなるように作れというルーニーのお達しに、ルッカは四苦八苦していた。
ただ、その目は何も諦めていない。
助けると決めた。迎えに行くと決めた。
なればこそ、彼がここで諦める理由は一つもない。
「ちょっと休憩しろぃ、魔力が切れて血反吐吐くぞ」
「…はい」
電源を落としてから一息つく。作業台の上に一式をおいて、一息ついた。
魔力切れによる苦しさはわかっている。魔力の行使は精神力の行使だ。使い過ぎれば魂が持っていかれると言われている。
(それと体の損傷がどう結びついているのか、未だにわかんねぇんだがな)
自分の弟子に科された仕事の内容を思い出し、頭の中でゴチる。
六道になっても損傷を受けないようにする。反発する光と闇の居所を体の中ではなく外に置くということ。魔力切れを起こした際に起こす体の損傷は人それぞれではあるか、バラバラすぎて紐づかない。しかし六道になったからと言って損傷した箇所を失うかというとそうでもない。
何かがつながっているようで、繋がっていない。
もどかしさを感じながら、タイミングよくお茶を持ってきた女性に目をやる。帯の上に被さるほどの肉塊を抱えながら、その動きは無駄がなく、優美に見える。
今までワンピースしか着てこなかったというので、着せてみたところ、馬子にも衣装と言うべきか、見違えるほどに綺麗になった。これで奴と好き合っていないというのだから、どれだけもったいないことをしていることか。
ただ、その首から下げているリングを見る限り、大切に思っている事に間違いは無さそうだが。
「はい、お疲れ様。お茶だよ」
エマがお盆から二人にお茶を手渡す。お茶の冷たさが湯飲み越しに伝わってくる。
ルッカはそれを飲んでもう一度一息つくと、ありがとうございます、とエマを見上げた。
「そういえばおじいちゃん、あたしラックのお仕事のことあんまりよくわかんないんだけど、どういうお仕事なの?」
「お、おじいちゃん…? ンン、そうだなァ、お前さん、六道はわかるよな」
「エンヴィちゃんのこと?」
「そのエンヴィ含めて、魔法を極めようとして亜人になった連中のことさ。簡単にいやぁ、今後、その亜人が生まれないようにする仕組みを作れ、って仕事だよ」
「………? アジンをやっつけるの?」
「んなこたしねえよ。おいルッカ、亜人はどうやってなるんだ?」
唐突に振られたルッカは驚きの声をあげつつ、自分の知っている限りを話す。
「えっと、人には生まれた時から光の魔法か闇の魔法に適正を持ってるんですけど、その適正と反対側の属性を使おうとすると、体内で魔力の反発が起こって、魂の一部が破損するって言われてます。そうして体の一部や機能の一部を失った人たちを亜人と呼んでます。だから、ラックさんのお仕事は、魂の一部に起こる破損を代わりに受ける何かを作ること…ですよね?」
「おう、大筋その通りだ」
「えーと、あたし頭悪くて…、よくわかんないんだけど、なんで光と闇が反発するの?」
「そいつぁ教会の言い分だ。所詮魔法は想像力だ。光魔法に対するイメージ、闇魔法に対するイメージがそう思わせるのさ。このイメージは簡単には払拭されねえし、仮に光と闇が仲良しだったとして、最初に光魔法と闇魔法を開発した大賢者マーリンが亜人になった理由が分からねえ」
「まーりん?」
大賢者と呼ばれる一人の男がいた。精霊から知恵を授かり、魔法を次々と開発しては書物に残した。開発された魔法は今も魔法基礎として学問になり、魔法の教育を受ける全ての者達の指標となった。そのマーリンは光魔法と闇魔法を開発した際に、人間としての寿命を失い、エルフとして生きることとなる。
そして、今も彼はどこかで人々を見守っていると言う。
「というのが大賢者マーリン伝説です。実際に書物も残っているので、あながち伝説というわけでもないと思いますけどね」
教会で見たことあります。
「というか、アーカイブトルムの聖典のもとはその大賢者だろ? なんつったっけ、霊神教?」
「そうですね、精霊は神の御使で、僕たちに知恵を授けたとして、神様と一緒に信仰してます」
「何も宗教が一つってわけじゃあねえ、ただ、開発した本人がそうなったって書いてるもんだから、みんなそれを信じてるし、反発することも定説になってる」
「へぇー…そのマーリンさんってすごいんだねぇ」
他にもいろいろ話していたはずだが、とりあえず賢者はすごい人、というのは伝わったらしい。
「ただ、結局、どうして失うのかは賢者にもわからなかったみてぇだがな」
煙管に火を落とし、すぱー、と煙を吹く。
と、そこに、どたどたと荒々しい足音が聞こえてくる。ここはルーニーの屋敷だ。滅多なことでは来客はないが、弟子どもが何かやらかしたかと身構える。二人もその足音に気付いて廊下を見るが、エマがポツリと呟いた。
「ラック…?」
「は?」
「師匠! 写し見失敗したのか?!!」
ピシャン!! と障子戸を開けて入ってきたのは、来たときのボロボロの服のままの、ラックだった。
「………、はぁあああああああああああああああ?!!!!!」
「やっぱりラックだ。もう帰ってきたの?」
「そんな訳あるか!そう簡単に終わる仕事じゃあねえ!」
「え?え? どういうことですか?」
「やっぱり失敗したんだな…、俺の身体は?」
「失敗なんぞするかボケェ! てめぇの一張羅着せてとっくにほっぽりだしたわ! それよりてめぇ! どうなってやがる!」
「え、俺に聞くの?」
ラックらしきその人物はまん丸と開いた服の腹部に手を当てながら、うーんと、と思い返す。
「写し見の感覚はあったんだ。何かが抜けてく感覚も。けどそれだけで、その後気を失ったのかよくわかんねえけど、なんか、目が覚めたらまだこの身体で…」
「…あぁ、写し見は成功した。本人確認も俺がした。念のため聞くが、名前は?」
「エンカードラック・サンフロスト・アルバニスタ」
「だよなぁ…」
当たり前のように帰ってきた名前に大きなため息をつき、頭を抱えた。
大型のマグナイトにも使うことがある写し見だ、正しい手順を踏めば失敗はありえない。ただ今までこの事例は聞いたことがない。
(魂の一部を器に置いてきたってのか?)
ただ、そうとしか考えられないその現象に、ルーニーと同じくラックも頭を抱えた。
「んと、ラックだけどラックじゃない? ってこと?」
「いや、ラックなことにはラックなんだが…」
「俺が二人いるってことか…?」
「じゃあこっちのラックは呼び方変えよっと。んー、アル!」
エマが思いついた名前をつける。二人目のラック改めアルはそれでいいよと諦めたように畳に上がって胡座をかいた。
「あ、ねねアル、この服どう? おじいちゃんがくれたんだよ!」
「おじいちゃんて…おう、似合ってんじゃねえの? にしても臙脂色なんてよくここにあったな。雀の色じゃん」
「昔の名残だよ。かみさんのだ」
襖の閉じられた仏間を親指でさして、アルはあぁ、と頷いた。
「にしてもお前よく色がわかっ…た…な?」
ハッと二人が顔を見合わせる。
「「色が…わかる…?!」」
大きな声にルッカとエマがビクッと反応する。お互いを指差したまま固まる二人に、困惑を隠せない。色がわかることの何が不思議なのか、当たり前のことすぎて今更驚くようなことでもないはずだ。
だがルッカは少し心当たりがあった。
「もしかしてラックさんて…六道だったんですか?」
「え!そうなの?!」
その言葉に固まっていたアルが反応する。しまったという顔がもろに出ている。その顔を見て、ルーニーは不思議そうに首を傾げた。
「なんだお前さん、言ってなかったのか」
「あの国で六道になったとか大っぴらに言える訳ないでしょ。王都に拉致られますよ」
「それもそうか」
「で、どうなんですか?」
「ルッカの言う通り、俺は六道だよ。この国で六道になった。そのせいで、俺からは色が欠落したんだ。だから今まで俺には色がわからなかった」
でも、今はわかる。
ルーニーは戯言だと思っていた自分の言葉が真実味を帯びてきたことに驚きを隠せなかった。
欠損したはずの魂が、実は欠損しておらず、失った部分を持ったまま身体の中に居た。何の因果か、入るときに一緒に入ったはずのその一部は、元の体には戻らずこうして一人として動き出した。
いくら流体金属を生体用に調整したとはいえ、その身体を使うなんて発想は一度もなかった。
その中で、ルーニーの中で仮説が新たに生まれる。
アルは写し身を起動するまでの記憶を持っていた。であるならは、同じ身体で過ごしていたときの記憶も当然持ち合わせているだろう。
もしこの二つを統合できたとしたら?
擬似的ではあるが、ヒトは欠落を克服したと言えるのではないか?
方法は後で考えりゃいい。自分の硬い頭より、若く柔軟な頭に任せたほうがいいことだってある。まずはラックに知らせなければ…。
そう思ったところで、アルが頭を抱える。苦しそうな呻き声を上げ、目をギュッと瞑った。
「アル?!」
「おいどうした!」
「わかんねえ…けど頭が…滅茶苦茶いてぇ…! なんだこれ…なんか…見える…?」
そういうと、フッと、力が抜け、その場に崩れ落ちる。その視界に見えていたのは、おかっぱ頭と、白い軍服だった。
§
何だったんだ…?
突然の強い頭痛、視界に映った色彩のある景色、目の前に居たのは、驚いた顔の師匠とエマとルッカの三人。視界を共有してするような魔導機は作った覚えはないし、あの視界の動き方は人間か、動物のそれだった。俺と同じような視界だったから人間だろうが、それにしてもだ。
色が見えていた。理由はわからない。単純に視界情報が共有されたとして、俺に色はわからない。
なのにあそこの色ははっきりとわかった。
薄緑に所々はげた畳、黒檀の柱、しばらく障子は変えてないのか所々黄ばんだ障子戸。波と、水の流れが綺麗に描かれた袴、アメジスト色の瞳、臙脂色の着物。
久々に見えた景色に、嬉しさよりも困惑が勝った。
「体調が悪いので?」
「…いや、大丈夫だ。もう治った」
治まった頭痛と景色を頭に残しつつ、その…いいや男物の軍服だし男だろ。その男と対峙する。低くもなく高くもない声では判別がつけられない。
ぱっちりとした目元は俺をじっと見てから笑顔によって細められた。
「それはよかった、ここではなんですから、少し早いですがお食事でもいかがでしょう?」
「あぁ、俺もちょうど物色しようと思ってたとこだ」
「私の行きつけが近くにありますから、そちらへ行きましょう」
そう言って歩き出す。その後ろについていきながら、身なりをもう一度確認する。
向き合った時に、胸元には何かバッジのようなものを付けていたのはわかる。ただ、その紋章は残念ながら俺には見覚えのないものだった。服に華美な装飾はなく、武装も刀だけに見える。懐からは擦れる音がしないから何か隠し持っている可能性は低い…たぶん。
顔は良い、俗にいうイケメンだ。おかっぱ頭だというのに釣り合う顔立ちをしている。目は大きいが、目元はキリッとしてる。鼻筋も通っているし口元も大きくなく小さくなく、まさにちょうど良いと言ったところか。
着いたのはこじんまりとした居酒屋風の店。一応昼間もやっているようで、中はなかなかの盛況ぶり。人が多いところであれば、表立った手出しはされなさそうだが、どうかな。
店員に案内された席に腰掛ける。お冷やを出されたところで、メニューを手渡される。
「食事を決めてしまいましょう。お腹は減っていますか?」
「多少はな、まぁゆっくり食べるさ」
そうしましょう。
メニューには定食が多かった。昼間用のメニューなようで、紙っぺら一枚のメニューに五つほどの名前が載っているだけだ。
焼き魚、煮魚、肉料理、麺類、軽食。港町なだけあって、おすすめのマークは焼き魚、煮魚に付けられている。
「煮魚にすっかな」
「奇遇ですね、私もそれにしようと考えていました。すみません」
店員に注文し、メニューが下げられると、男は机の上で手を組み前のめりになった。
「トリマニアの職人さんとお見受けします。私は魔術協会管理課のエリアルと申します。急なお誘いにお付き合いいただき、まずは感謝します」
「ご丁寧にどうも。トリマニアの六仙、エンカードラック・アルバニスタ・サンフロストだ、ラックでいい」
「リクセン…? 新しい階位ができたので?」
「そうらしい、俺も詳しくは聞かされてないよ。それで?魔術協会の管理人さんが俺に何の用で?」
「それなんですが…」
言葉が濁る、視線が少し彷徨った。
俺なんか悪いことしたっけ?
…したわ、傭兵ギルドでやらかしてきたばっかじゃん、俺のばか。
「いえ、すみません、なんと説明したものか…、魔術協会の仕組みについてはご存知ですか?」
「まぁちょっと聞いたくらいだな。国民から魔力をくすねて運用してるとか、犯罪抑制に使われてるとか、そんなもんだ」
「えぇ、おおよそその通りです。付け加えるなら、国民の健康管理にも一役買っている、と言ったところでしょうか。身体の不調は魔力にもでます。そう言ったものを探知していち早く駆けつけるのも我々の仕事です。これで少しお察しいただけたかと思いますが、この効力はこの国の領海に踏み入れた時からずっと行われており、失礼ながら我々はあなたのことを監視させていただいておりました。理由としては、トリマニアからの定期便に乗らず、自前の龍で入国されましたので、何かあるかもしれない、という警戒です。こちらに関しては既に容疑は晴れておりますので、ご安心ください」
なるほど、時折感じた視線はそれか。
まぁ確かに、定期便もあるはずの国から、なぜか不法侵入紛いのことをされたんだから疑うわな。むしろ謝る必要があるのはこっちの方だ。
だが、俺が口を開く前にエリアルは続ける。
「しかしながら、あなたからは不思議な反応が検知されておりまして、つい先ほどその反応が強くなりましたので、お伺いにきた、というところです。この反応が、我々も今までに見たことが無いものでして、であれば、本人に直接お伺いするのが早かろうということで、今回、お声をかけさせていただきました」
「なるほど…? 事情は理解した。その反応っていうのはどういう反応なんだぃ? 生憎と、俺もこの国に来て何かした覚えがなくってな」
いやあるけど、これとは別問題っぽいからな。
ないものはない、ないからな!
「その…なんと言いますか、繋がっているんですよね、あなたと、遠い誰かが」
「…繋がってる?」
なんだなんだ、さっき見えた物となんか関係があんのか?
「そう、繋がっているのです。ただ、あなたの魔力は途中で変質することなく、あなたの魔力として繋がっている。これだけの長距離をつなぐ魔術なら相互に発動していることが基本、途中から何かしら別の魔力が混ざってきてもおかしくない。だというのに、あなたから伸びるその魔力線は純粋にあなたのものだ」
これがわからない。
そう告げた男の顔はわからないと言いつつ滅茶苦茶楽しそうだ。未知の発見が楽しいのはわかる。俺も知らないものを見るとワクワクする。
「そういうわけで、何かご存知ないかとお尋ねしたいわけですが…先ほどご自分でおっしゃってましたね、覚えがないと。そうすると、逆に犯罪の匂いを感じるわけですが、この二日、あなたを監視させていただきましたおり、特段何か悪いことがあったようには思えませんでした。本当に心当たりはないのですね?」
「ないねぇ…」
お互いに頭を抱え始めたところで、料理が到着する。
一尾丸々入った皿から立ち上る湯気は、いい匂いを俺の鼻に運んでくる。さっきまでそんなに減ってなかった腹が、急激に場所を空ける。
食器を手にとり、エリアルと目が合う。
「いただきましょう」
「そうだな」
切り分けて口に運びながら、エリアルが別の話題を口にする。
「そういえば、ヨイチさ…んとはお知り合いなのですか?」
一瞬言葉に詰まりつつも聞いてくる。
「俺がアーカイブトルムにいた時から世話になってる行商人さんだよ。ヨイチさんがこの辺の出身とは知らなかったけどな」
「ほぉ、そうなんですね」
「にしてもヨイチさんピンポイントとはどういう了見だ? 行商人は仮の姿で、どっかの貴族様とかか?」
「…なぜそう思われるのですか?」
「だってそうだろ? 監視っつったって会話が聞き取れるような距離にいたとは思えないし、俺に接触したのは一人じゃない。街の人全員の名前をいちいち全部覚えている、ってのも現実味がない、それに加えて、あんたは国の重要機構のお守り役、そこまで気にかけてるとは思えない。なのに、ヨイチさんだけは名指しで、わざわざこの場で聞いてくるとくりゃ、誰だって疑う」
実際、俺に直接聞く必要はどこにもない。自国民なのだから、よそ者の俺に聞くよりも権力をかざせるし、口を割らせることだって難しくないはずだ。さっきの件で俺に聞くことがあったとしても、少なくとも俺よりは情報を得られるはずだし、なんなら俺より先にヨイチさんに確認が行くはずだ。
それをしなかったということは、できなかった、もしくは出来ない相手である、と言ってるようなもんだ。
エリアルは途端に顔が曇る。俺は横目でその様子を見つつ、口に魚を運んだ。
「ま、別にヨイチさんが誰だろうが、俺は付き合いを変えるつもりはねえよ。今まで通り、お世話になった商人と職人ってだけだ。どうこうしようとは思っちゃいねえ」
これは本当。
ヨイチさんは個人的にとてもいい人だと思っている。村に足りないものや発展に利用できるもの、必需品も含めて色々と融通してくれたし、人柄もとてもいい人だ。
辺境の村の一職人であった俺に、閉鎖的な環境における物の値段の測り方とか、商人からしたら高く売りつけるチャンスを捨てて教えてくれたりもした。
そう考えると、あんまり商人らしくはなかったかもしれない。
だが、俺のその言葉を否定したのはエリアルだった。
「それが…そうもいかないのですよ。あの方がよかったとしても、周りが動き始めている。あなたにもお伝えしておきましょう。我が国クリスタリアは自由です。伴侶がいようがいまいが、どんな生活を送ろうとも気にしません。気にしないからこそ厄介なこともあるのです」
俺はよく意味がわからず首を傾げる。
「すぐにわかります。お連れのお二人にも、お伝えください。あなた方は近いうち、首都クリスタリアにお招きいたしますので」
…は?
「は?」
やべ口に出た。
俺の疑問はもっともだろうというのは本人もわかっているようで、細かいことはヨイチさんへ、と促される。知ってはいるが話すつもりはないらしい。
それはそれで面倒なんだよなぁ、この後のお話も、いったいどれくらいかかるか分かったもんじゃない。




