プロローグ
青い肌、金色の瞳、赤紫に変色した長い髪を揺らし、屈強な兵士に挟まれ少女は歩く。
自分が一体何をしたと言うのだろう。言われるがままに、勉強して、魔法を覚えてきた。礼節だって弁えてきたつもりだった。拾われた自分がここまで高等な教育を受けられたのだから、感謝の念を忘れたことはないし、恩を返そうと頑張ってきた。
だと言うのに、ようやく望む形で恩を返せると思ったのに、何故こんな目にあわなければならないんだろう。
大きな力を習得するには何かを代償にしなければならないのはわかっていた。何を失っても文句は言わないつもりでいた。
だがこの代償は、あまりにも大き過ぎる。
目の前にある絞首台を見上げ、込み上げてくる悔しさに、思わず涙がこぼれ出る。
「首を出せ」
冷たい声がその場に響く。
「………、」
「おい」
「……だ」
「何?」
「…やだ……、死にたくない…」
闇が渦を巻く。彼女を中心に、ドス黒い液体が溢れ出す。
「な…!大人しくしろ! 魔法士を呼べ!」
粘り気を持った黒い液体は彼女を守るようにより高く渦を巻き、やがて天井に達したところで、一気に崩れ出す。
「押し流せ…!!」
崩れた黒い水は何もかもを飲み込んでいく。
とある国が、喧騒に包まれた。