急展開
「あなたは私と同じ、チート能力持ちの転生者ね?」
曾祖母の思いもよらぬ言葉に、思考がストップしてしまった。想像していなかった言葉から立ち直るのに数秒掛かったが、何とか考えをまとめようとする。
まずはチート能力だとか転生者という単語、転生者は大体分かるがチート能力とは何だろうか?能力というから何か特別な能力を言うのだろうか?そして曾祖母も俺と同じと言うが、何故断定できるんだ?何か確信があるのだろうか。
「実はあなたの事は、あなたが生まれた頃から知ってるの。これでもペンデュラン本家の当主よ?曾孫が生まれると聞いたから、見に行こうと考えたのよ。」
「それはひいお婆様自らですか?」
「いいえ、使い魔でよ。使い魔と視覚を共有することができるから、生まれたばかりのあなたを一目見ようとしたのだけど、その時に双子だと分かったの。双子は昔から片方が落ちこぼれになると言われてるから、またある程度成長したら見に行くつもりだったの。」
どうやら曾祖母は、俺を生まれた頃から知っていたようだ。しかし、なら何故今になって直接会いに来たんだろうか。
「確か三歳くらいだったかしらね、あなた高熱を出して三日間危ない状態が続いたのよ。クルガとクリアはあらゆる手を使ってあなたを治そうとしたのだけれど、一向に良くなる気配がなかったわ。そうしたら四日目の朝、まるで何事も無かったかのようにあなたは回復して見せたわ。」
「それは母から聞いたことがあります、母の回復魔法でも医者の調合薬でも全く効果が無かったのに、突然元気になったと。」
「私はあれを見て思い出したの、あれは転生者特有の高熱の出し方だって。あの状態はいわばチート能力をインストールしている状態、生まれたばかりで直ぐにチート能力が使えるわけじゃなく、ああいったお約束な展開を通して初めてチートが身に付くのよ。それから私はあなたをつぶさに観察してたわ、そうしたらあなたの行動と言動が一致してないのが分かったの。」
まさかそのチート能力とやらのせいで危篤状態が続いていたとは、ある意味自業自得のようだ。父や母には要らない心配をかけてしまっていたんだな。
「強くなるって言うわりには、全く稽古には力を入れてないし、魔法だってクリアやミリアのを見てるばかりで、あなた自身ろくに魔法の練習なんてしてなかったじゃない。それどころか、自分よりミリアやララばかりを持ち上げてばかり。あれは何がしたかったのかしら?」
「失礼ですが、ひいお婆様が言うチートとか転生者が何なのかはよく分かりませんが、僕がミリアとララを誉め続けていたのは二人を愛してるからです。もちろん家族としてですが。」
「えっ、あなたシスコンなの?それはちょっと引くわね…。ダメよ?欲情なんかしちゃ。魔法で避妊はできるけど、周りがうるさいわよ?」
失礼な、あの二人に手を出すつもりは全くないのに。健全な家族愛だと言うのに、こればっかりは心外だ。
「違いますよ、ただの家族愛です。」
「どうだか、まぁ精々気を付けることね。それといつまでもとぼけるつもりなら、私にも考えがあるわよ?」
「考え、ですか?…というより、とぼけているつもりはないんですけど。」
どうやら曾祖母は、俺がごまかして話を進めていると勘違いしているようだ。曾祖母が指を鳴らすと、今まで居なかった曾祖母お付きのメイド二人がどこからともなく姿を表した。
「道中この子達とも一緒だったから分かるでしょ?アリサとマリサ、一卵性の双子よ。そっくりでしょ。」
アリサとマリサは静かに頭を下げて礼をする。曾祖母の言うとおり、二人は瓜二つの顔付きで身長から見た目までほぼ同じに見える。肩まである水色の髪色で、やはり黒と白のメイド服を着ていて唯一の違いがあるとしたら、二人の首のチョーカーが色ちがいというくらいだ。片方は白で、もう片方は黒になっている。ちなみに今の時点で、どちらがどちらかは全く分からない。
「改めまして、姉のアリサです。」
「妹のマリサです。」
白のチョーカーがアリサで、黒がマリサのようだ。二人は表情を変えずに、淡々と自己紹介だけしてきた。
「さぁアル、今からこの二人と模擬戦をしてもらうわね。ルールは簡単よ、相手を気絶させたら勝ちとするわ。殺さなければ他は大丈夫とするから、気張って頑張りなさい。」
「えっ?ちょ、ちょっと待ってください。いきなり過ぎて意味が…。」
分からない、と言おうとしたら顔の横をナニかが飛んで行った。数瞬遅れて、後ろの方から爆発音が聞こえてきた。振り向くと庭に生えていた木が、根元だけを残して後は爆発で吹き飛んでしまったようだ。あんなのが当たったら死ぬよ?
「それではアルドラド様、参ります。お覚悟を。」
呆然としていたら、どちらかの声が聞こえ慌てて二人に向き直ると、すぐ目の前にアリサかマリサどちらか分からないが、いつの間にか接近していた。訳が分からないまま、とにかく離れようと思い切り横に飛び距離を取る。
「ちょ、ホント意味が分からないから!いきなり何なの!?」
「言ったでしょ?二人と模擬戦って。ほらほら、そんな喋ってる余裕あるかしら?次がくるわよ。」
曾祖母に言われ先ほど接近してきた双子の片割れの方を見ると、既に俺との距離を詰めてきていた。その際に首のチョーカーを見たら、色は黒だった。どうやらマリサが接近戦を仕掛けてきているみたいだ。
「ふっ」
「危なっ!」
マリサの拳が顔面を殴りにきていたので、何とか顔を動かし回避するも回避した瞬間、腹に激痛が走った。
「がはっ…!?」
「せぃっ!」
どうやら顔面のパンチはフェイントで、本命は左ストレートで俺の腹を打ち抜くつもりだったようだ。マリサはそのまま左腕を振るい、俺を思い切り吹き飛ばすように殴り飛ばした。
「かっはっ…!?」
肺の空気が全て出たのではないかと思うくらい、かなりの衝撃で殴られ地面を転がりながらマリサから再び距離を取る。しかし転がった先で今度は、マリサの横をかなりの速さで火の玉が通過するのが見えた。その火の玉は、未だに地面を転がっている俺に着弾した。
「熱っっっ!!」
飛んで来る火の玉を防ぐ術も無く、見事に火の玉は俺の腹に命中した。火の玉はかなり熱く、腹が燃える程に感じた。ようやく転がるスピードがゆるまり、マリサの方を見れば後ろの方でアリサが右手の掌をこちらに向けて立っていた。どうやら姉のアリサが、魔法で追撃してきたようだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…!ヤバっ、いって、ホント…!?」
息も絶え絶えに二人に抗議してみるが、当然アリサとマリサが聞き入れるはずも無く、再びマリサが猛スピードで追いかけてきた。
「いつまで寝転んでいるつもりですか?」
マリサがそう呟くと、未だに地面に転がっている俺に勢いの付いた右足で蹴りを入れてきた。咄嗟に両腕をクロスして顔を守るが、マリサはその両腕ごと蹴り抜いてきた。当然蹴りの方が威力が強く、顔は何とか守れたが両腕にかなりの激痛が走った。
蹴られた衝撃で少しではあるがマリサと再び距離が空き、体勢を立て直そうと起き上がろうとしたら今度は氷の塊が大量に飛んで来るのが見えた。氷の塊は俺の頭程の大きさで、それが視界いっぱいに飛んできているので最早回避のしようがなく、亀のように地面に伏せて頭を守るように丸まって防ぐことにした。
「いっったっ!」
それでもやはり何発かは肩や体のあちこちに当たり、その度に痛みに耐えながら氷塊の嵐をやり過ごすしかなかった。不意に氷塊が当たらなくなったと思ったら、突然顔に激痛が走ると同時に首が仰け反り顔が上を向いた。何が起こったのかと思い痛みに耐えながら前を見ると、マリサが右足を蹴りあげた状態が見てとれた。どうやら氷塊の嵐が終わった瞬間に、マリサが俺の顔に再び思い切り蹴りを入れてきたようだ。
「っ~~!!」
顔を蹴られた衝撃で後ろに転がり、痛みに耐えながら何とか立ち上がる。今の蹴りで鼻が折れたかと思ったが、鼻血が出るだけで済んだようだ。鼻を蹴られ涙目になりながらも、アリサとマリサの方を見る。最早身体中ボロボロで、息も荒い中次の攻撃に耐えれるのかと考えているとマリサの後ろにいるアリサが口を開いた。
「あなた様では私達には勝てません、どうか早々に降参してくださいませ。」
アリサの言葉を聞き、プチっとナニかが切れる音がした。いきなり曾祖母は訳の分からない事を言い出すは、当たり前のように目の前の二人は俺を殴るは蹴るは魔法を撃ってくるは、かと思ったら俺では二人には勝てないからさっさと降参しろって言うし、なら最初から降参しろって言えよって思う。そうすればこんなボロボロにならずに済んだのに。……もう怒ったぞ。
「調子に乗るなよ、小娘どもがっ!!!」
後に俺はこのときの事を後振り替える、ぶちギレたっていいじゃない、男の子だもん。