9話 魔王の娘とドラゴンとの死闘(笑)
何故だ?何故魔王の娘がいる?しかも奴隷……Lvは320か。それでこのステータスという事は、魔法特化なんだろう。
これなら俺の仲間としても申し分ない。疑問は残るがとりあえず、実際に会ってみるか。
俺は装備を整え、宿を飛び出した。【エリアサーチ】は対象の場所も分かるので、居場所は分かっていた。
王都の最西端に、隠れるようにある店に俺は着いた。中に入ると、テカテカした小太りの男が近づいてきた。
「いらっしゃいませ。ここに来るのは初めてですね?何か身分証明になる物はございますか?」
「これでいいか?」
俺はそう言ってギルドカードを男に渡す。ステータスは魔力を込めれば隠せるようなので安心だ。
「はい、ありがとうございます」
男は名簿のような物に何かを書き入れ、カードを返してきた。
「では、こちらへどうぞ」
俺は男に連れられ、奥の部屋へ入った。窓もなく殺風景な部屋だ。
「どのような物をお探しで?」
「魔法が得意な奴を頼む」
「分かりました、少々お待ちください」
そう言って男は部屋を出て行った。
それから5分ほど待つと、男が何名かの奴隷をつれて帰ってきた。
「どうでしょうか」
奴隷達を【サーチ】してみる。しかし魔王の娘はいなかった。しかも、ここに居るのはステータスも状態も悪い者達だった。
「これだけか?」
「いえ、まだいますが……少々値が張りますよ?」
「大丈夫だ、見せてくれ」
「……分かりました。ついてきてください」
男についていき部屋を出ると、違う部屋に連れて行かれた。
中には鎖で繋がれた奴隷達がいた。みな、美しいが服装はみすぼらしかった。【サーチ】を使うと……いた。
鎖に繋がれ、ぼーっとしている無表情な少女が。
近寄ってよく見てみると、俺の妹にどことなく似ていた。違うのは黒髪黒目ではなく、金髪金眼なところか。
「おい、こいつはいくらだ?」
「90万ガバルになりますね」
男は無理だろ?って顔で言った。金が殆んど吹っ飛ぶがまた稼げばいい話だ。
「買おう」
そう言いながら、90万ガバル入った袋を渡した。男は1枚1枚確かめて、確かにあるという事を確認すると、驚いた顔をしていた。
「では、契約の儀式を行いますので、血を一滴この魔法陣に」
男は少女を魔法陣の上に立たせて言った。俺はその魔法陣の上に血を一滴垂らした。
すると魔法陣が光りだし、少女を包み込んだ。しばらくすると光りは消えた。どうやら儀式は終わった様だ。
少女はまだぼーっとしていたので、軽く覇気を込めて声をかけるとビクッとして俺に気がついた。
「あなたは……だれ?」
「俺はレギオン。お前のご主人様だ。お前の名は?」
「……サレナ」
大丈夫か?目が虚ろだがとりあえず宿まで連れて行って事情を聴くとしよう。
契約で俺を攻撃することはできないので、暴れることはないだろう。
俺はサレナを連れて店を出た。まっすぐ宿へ帰ろうとしたが、何やら騒がしかった。
「ど、ドラゴンだ!!」
「何でドラゴンがこんなところに!?」
「いやぁー!!死にたくない!」
「早く避難してください!早く!!」
なんだって、ドラゴンだと!? 元の世界にもドラゴンは居たが、人を襲うような事はしないはず。
俺は走って町の中央あたりまで来ると地上を観察するように見る、黒いドラゴンが上空に居た。
「あっあれは……」
サレナが驚いた顔で言った。
「何か知っているのか?」
「……あれは、おとう…魔王のペットのヴァーギグルドラゴン」
なんだと!?魔王のペット?まさか娘を取り返すために魔王が送ってきたんじゃ……
そう思っていると、ヴァーギグルドラゴン、略してヴァードラはこちらに気付いたのか、急降下してきた。
とりあえず俺はヴァードラを【サーチ】しようとした。だが、何かに掻き消されるように見えなくなった。
どういうことだ?そうしてる内のもヴァードラはどんどん近づいてくる。ちっ倒すか?
もうあと少しで来るかと思ったら、ヴァードラは急停止した。どうしたのかと思っていると、ヴァードラの周りに青い火球が無数に現れた。
まさか、攻撃する気か?
火球は勢いよくこちらへ飛んできた。俺を狙っているのかと思ったが軌道的にサレナを狙っているようだ。
「なんでお前を狙ってるんだ?」
俺はサレナを狙う火球を握りつぶしながら聞いた。驚いた顔をしていたが気にしない。
「……わからない」
ふむ、ならあの上から見下しているドラゴンから聞くしかないな。
「あいつって倒してもいいよな?」
「えっ?いいと思う……けど」
よし、なら話を聞ける程度に痛めつけるか。
俺は【飛行】を唱え浮遊し、亜音速でヴァードラに突っ込んだ。
ヴァードラは、咄嗟に回避しようとしたが自身の大きさがあだとなり、翼の部分にあたってしまった。
俺はヴァードラのよろけを逃さず、呪文を唱えた。
「【稲妻】」
俺の手の平から蒼白い稲妻が溢れだし、ヴァードラを襲った。
「なにっ!?」
俺の最も得意な雷魔法なのだが、蒼白い光りが消えた後に残ったヴァードラは完全に無傷だった。
「どういうことだ?」
そう呟くと、地上の方から声が聞こえた。
「……ヴァーギグルドラゴンに魔法は効かない。吸収して回復するだけ」
ヴァードラの翼を見ると砕けたはずの場所が綺麗サッパリ修復されていた。
なるほど、だから【サーチ】できなかったのか。魔法が効かないとなるとやることは一つだな。
物理で殴る!!
俺は拳を握りしめ、ヴァードラの背後へ【瞬間移動】した。
ヴァードラは突然消えた俺に反応できずに、背中に打撃を食らった。そのままヴァードラは、凄い速度で墜落していく。
ちょっと力入れすぎたな……そう思いつつ、墜落するヴァードラに【瞬間移動】し、尻尾を掴んでゆっくりと地面に着地させた。
ヴァードラは気絶していたようなので、顔をぶん殴って起こさせる。
ヴァードラは気がつくと目の前に居た俺に噛みつこうとした。俺はそれを回避し、上顎を下顎に抑えつけて無理やり口を塞いだ。
このままでは話せないので、【念話】で話しかける。
『お前、何が目的でサレナを襲う?』
『フンッ人間風情に喋ることなぞないわ!!』
『ほう、俺が人間だと思うのか?』
俺の事を人間だと勘違いしているようなので、俺はヴァードラにしか分からない程度に魔王のオーラを解放した。
首飾りはオーラを抑えるのではなく、抑える力を完全に抑える程に増幅させる魔道具だから、こういうこともできるのだ。
『き、貴様、人間ではないな……魔王様ほどの力、いやそれ以上か』
『それで、お前の目的はなんだ?』
『言わん。死んでもな』
『そうか、ならば死ね』
俺はそう言ってヴァードラを殴り殺した。