8話 大発見
宿に戻ると、ミナが鼻歌を歌いながら、花壇の植物に水をかけていた。楽しそうなのはいいのだが、緑ずくしなので、花壇の植物と一体化していた。
「よう、ミナ、水やりか?」
ミナは俺に気付くと、鼻歌をやめてこちらを見た。夢中で水やりをしていたのを見られ恥ずかしいのか、少し顔が赤くなっていた。
「―っ!う、うん、植物は水が命だからね。毎日やってるの」
「そうなのか、植物が好きなんだな」
「ええ、母親譲りよ。こんな宿建てるぐらいに植物好きな、ね」
なるほど、母親も植物好きか。
そういえば食堂に、ミナと似た女性を見たな。同じ緑髪だったはずだから親子なのだろう。
「そういえばレギオンさん、冒険者登録はもう終わった?」
「ああ、さっきしてきた。ていうか、名前覚えててくれたんだな」
ちょっと嬉しいな。今までは、魔王とかしか呼ばれなかったからなぁ……
「まあね、ここに一カ月も泊ってくれるんだから、名前ぐらいは覚えるわよ。ここはあんまり人もこないしね」
そうなのか、殆んどが緑な事以外いいところなんだかな。経営とか大丈夫なのだろうか。そう思い聞いてみた。
すると、ミナは苦笑いをしながら言った。
「まぁ、ぎりぎりね。今やっていけてるのは、植物好きな常連さんがいるからなの」
ふーん、植物好きにはたまらないかもしれない。
外の壁どころか内装にまで植物が生えているからな。部屋にはないが。
「レギオンさんも植物好きなの?」
上目使いで聞いてきた。可愛いな。ここは無難に答えておこう。
「んー、嫌いではないな。どっちかっていうと好きな方?」
そう言うとミナは笑顔で言った。
「じゃあ、もっと好きになってね!」
一瞬、世界中の植物を守りたいと思ってしまった。しないけど。
そういえば、この前倒したグルフラ(グールフラワー)は植物に分類されるのか?見た目は馬鹿でかいチューリップだったが。まぁいいや。爆発四散した奴のことは忘れよう。
「努力する」
そう言って俺は宿に入り、ちょっと動いてる気がする植物を眺めつつ、緑のドアをあけ、自分の部屋へ入った。
俺は装備を脱いで、ベットに横たわった。
「ふぅ……とりあえず、色々整理するか」
そう思い、今まで得た情報を整理することにした。
まず、この世界についてだ。この世界はマコトの居た世界とは全く異なる異世界だろう。魔法や魔物が存在していることからも、これは確定だな。
あっ、テトラにこの世界が何て名前なのか聞くの忘れてた。しかたない、後で調べておこう。
次に勇者についてだな。勇者とは、魔王を倒し世界に平和をもたらさんとする者を指す。つまり、この世界にも魔王が居るのだろう。
人助けになるのならば倒すが、同じ魔王なので倒すのは気が引く。話し合いで解決したいところだが、まぁここは後々考えていこう。
最後に、俺の今後だ。元の世界に帰るのもいいが、折角の異世界なので人の役に立って帰りたい。マコトとも約束したしな。
そのためにも、まず、冒険者として人助けをして、功績をあげてから勇者になろう。Sランクなんて俺のステータスなら簡単になれるだろうけど、急ぎすぎても駄目だと思うからな。
しかし、一人では色々不便だな。この世界での知識が圧倒的に足りないし、荷物を持つのもめんどくさい。
俺は収納魔法を使えないので、使える奴が居てくれるとうれしいのだが、いないだろうな……元の世界でも収納魔法を使える奴は極稀だったし。
俺は期待せずに【エリアサーチ】で持っている奴を探した。
「うーん、やっぱいないか……って、え!?」
俺は収納魔法を持っている奴を見つけてしまった。だが、それ以上に衝撃的な情報も一緒だった。
名称:サレナ・べルクルンド
年齢:170
種族:魔族
職業:奴隷
称号:魔王の娘
Lv:320
HP:12000/12000
MP:25000/25000
攻撃力:500
防御力:420
魔力:4800
魔防:3000
俊敏:600
幸運:100
俺は、魔王の娘を見つけてしまった……