5話 王様
馬車に乗って2時間程度経つと、次第に王都―というか巨大な壁が見えてきた。
壁は王都全体を囲っているようで、東西南北に1つずつ門が設置されているようだった。
北側の門に到着すると、安そうな槍を持った門番が近づいてきた。王女だと確認すると、あわてて跪いた後すぐに門を開けてくれた。
中に入ると門番が通達したのか、王女様が帰ってきたと、国民が騒がしかった。
中には花束を投げている人もいた。その光景を見た俺は、馬車の隙間から顔を出して手を振っているテトラに言った。
「慕われているんだな」
するとテトラは、少し頬を引きつらせて微笑んだ。
俺達はパレード状態の大通りを越え、城と思わしき場所へ着いた。城はそれなりに大きく、この国の規模を実感させられる。
俺は馬車を降りテトラと護衛の者達と頑丈そうな門を通り、城へ入って行った。
城に入ると、騎士と思わしき格好をした者たちが跪いて道を作っていた。
中は広々としており、最奥に王様と思わしきオッサンが座っていた。
俺とテトラと護衛はレッドカーペットを通って王様の前で跪いた。俺は跪くという行為に若干の抵抗があったが、そこは我慢だ。
すると王様は、見た目のオッサン感とは裏腹に、威厳はあるがどこか優しげな声で声をかけた。
「面を上げよ。……テトラよ、良く戻ってきた。お前が無事で何よりだ」
するとテトラは顔を上げず、ただ暗く、悔しそうな顔で王様に言った。
「はい……ですが、途中、グールフラワーと遭遇し護衛の者を大勢亡くしてしまいました」
王様は驚いた顔をした。
「なにっ!?グールフラワーだと!?」
「はい、ですがこの方が全滅寸前の我々を助けてくださったのです」
テトラはそこで顔を上げると、俺を前に出し王様に紹介した。
「そなたは?」
王様は疑うような眼で俺を見た。
「俺の名はレギオン。ただの旅人だ」
俺は王様の前に移動し跪いて名乗った。何故フルネームではないかというと、この世界の人間は貴族しかファミリーネームを持っていないようだったからだ。
「……ふむ、面をあげよ。お主、レギオンと言ったか、聞かぬ名だな。あの凶悪なグールフラワーをどうやって倒したのだ?」
俺の言葉使いに近くの大臣が文句を言って来たが、王様が娘の恩人だという事もあってか、『よい』と言って大臣を黙らせた。
俺は気にせず、王様の質問に答えた。
「魔法で内部から爆破した」
そう言うと周りの騎士たちがざわついた。「ま、魔法で倒しただと!?」「あり得ない、グールフラワーを一人で倒せるなんて……」何てことを言っている。
あのでかいだけの花って強かったのか?
俺がそんな疑問を抱いていると、テトラが言った。
「それだけではなく、怪我をした我々に治癒魔法まで施してくれたのですよ」
すると王様は、驚いたような顔をした。
「なんじゃと?治癒魔法まで!?お主、何者だ!?」
「何者って、ただの旅人だぞ?」
俺がそう返すと王様の目が変わった。
「そうか、何か事情があるのじゃな。詳しくは聞くまい……」
親子そろって勘違いしだしたが、こっちとしても好都合なので黙っておく。
「ところでお主は魔術師か?見たところ杖は持っていないようだが」
「あぁ、俺は魔術師じゃあない。言うなれば魔法剣士ってとこだ」
そう言うと王様は眉をしかめた。
「魔法剣士……なんじゃそれは」
あれ、この世界には魔法剣士は居ないのか。元の世界でも珍しくはあったが、勇者が魔法剣士的戦闘スタイルなので知っている者は多かったのだがな。
「あー、魔法剣士とは剣と魔法の両方を駆使して戦う、という者だ」
王様はまた、驚いた顔をする。騎士たちもざわついていた。何かおかしいこと言ったか、俺?
「なんじゃと!?剣と魔法の両方が使えると言うのか!?それに治癒魔法まで使えるとなると……」
王様はしばらくうーんと何かを考え、何らかの考えに辿り着いたようだった。
「お主、勇者になる気はないか?」
王様がそう言うと、騎士たちが大きくざわついた。勇者か、人々を助ける象徴ではないか。
「国王様!何を仰っているのですか!?どこの馬の骨とも知れぬ者に勇者なぞ!!」
そう叫んだのは王様の隣の方に居た大臣のようだった。確か俺の言葉使いに文句を言っていたやつだな。
まぁこいつの言い分はもっともだ。いきなり現れた俺が勇者になっても誰も納得も安心もしないだろう。
「静まれ、確かにそうだがグールフラワーを単独で撃破できるような奴で、しかも剣と魔法と治癒魔法まで使う、これ程腕が立つ者はいないだろう」
「ですが、強いだけでは勇者とはいきません!」
すると王様は少し考え、言った。
「ふむ、ならこの者に冒険者をやらせて、Sランクになれたなら勇者になってもらう……これでどうじゃ」
大臣は「ぐぬぅ……それならば……」と渋々といった顔で納得していた。
「どうじゃ?冒険者となりSランクとなったなら、勇者にしよう。どうじゃ?」
ふむ……冒険者か。前の世界でも冒険者は居たな。マコトも冒険者だったし、何より冒険者となれば、多くの人の役に立つだろう。
しかも折角勇者となれるチャンスなのだ、逃すわけにはいかない。
「分かりました。冒険者となりSランクとなって、勇者となって見せましょう」
「そうか!ではテトラを助けてくれたお礼じゃ、100万ガバルを送ろう」
「ありがとうございます」
どうやらガバルとはこの世界の通貨の名前のようだ。
「では、もう下がってよいぞ」
そう王様に言われたので、俺は元の位置に戻った。
その後はテトラと王様が少し話をして、俺はテトラと別れ、城を出た。