4話 なんで魔物?
「ここは...?」
目の前に広がるのは、広大な森。前後左右、どこを見回しても木しかない。
うーん、ここがニホンなのか? マコトから聞いたイメージとかなり違うが……まだ、ここは開拓していないということなのかな。
とりあえず、ステータスを見る。特に異変は無い……と思ったが謎のスキルが増えていた。これは後で確認しておこう。
今は魔法が使えるかを試してみる。
軽く火属性魔法を使う。すると、手の平の上に拳大の火の玉が現れた。
どうやら魔法は使えるようだ。MPの減りもいつもと変わらないし、体調が悪くなったりする様子はない。
威力の方はどうだろうか?近くにあった木に手の平を向け、撃ってみる。火の玉は軌道を全く変えずに、木に直撃した。
するといっきに燃え広がった。
あ、やべぇ!こんな燃えるとは思わなかった。
慌てて水属性魔法を使う。すると燃え広がろうとしていた火がジュウっと音をたてて消えた。
こちらの世界の木は燃えやすいんだな。魔王城近くに生えている木は、この程度ならちょっと焦げるくらいなのに。
まぁいいか、木一本が犠牲となったが、魔法が使えることが分かったからな。感謝感謝。
俺は燃え尽きて炭化した木に合掌する。
魔王が何してんだって思うかもしれないが、この世界では出来る限りいいことをしようと思っている。
誰も俺が魔王だって知らないだろうし、マコトとも約束したしな。『何があっても悪さをせず、出来るだけ人の役に立ってきてほしい』これは全力で守る。そう決めたのだ。
木を燃やしたのは悪いことだろうが、今後に関わることだからノーカンだ。
さてと、とりあえずここに居ても何も始まらんな。
俺は頭の中で言い訳をしつつ【エリアサーチ】を使った。
【エリアサーチ】とは、肉眼で捉えたモノの詳細を見る【サーチ】の上位魔法で、自分の周囲一帯に居るモノの詳細を肉眼で捉えなくても見ることができる、というものだ。
自分の周りに生命体が居るか居ないか分かるので、今の状況にぴったりだ。
生命体と言っても、アンデットなどの詳細も見ることができる。死体は見れないがな。アンデットも死体だと思うのだが……どういう判定になってるかが謎だ。
と、そんなことを考えていると頭の中に情報が入ってきた。
どうやら5人の人間と魔物が戦っているようだ。
ん……?あれ、この世界には魔物は居ないとマコトが言っていたはずだが……まぁいっか。
さっそく人の役に立ちに行きますか。
俺は【飛行】の魔法を使い、浮遊する。そして、何も問題が無いことを確認しその者達が居る場所へヒュンッと音をたてて飛んで行く。
森の若干開けた土地に、俺は10秒程で着いた。決して近かった訳ではないがそれぐらいの時間で着けるようなスピードが出ていた。
そういえば途中で人間が1人死んだ。満タンだったHPが一瞬で0になったので、特攻でもしたのだろう。
どうする、生き返らせるか……?
いや、人の役に立つために生き返らせたら、世界中の人間を生き返らせないといけないことになる。
流石の俺でもそんなことは不可能だ。やめておこう。
と、そのとき4人の中の一人が攻撃されそうだったので、とっさに移動し魔物の攻撃を弾く。
グールフラワー、それが魔物の名前だった。軽く5mは有りそうな巨体で、本体は動かず、根元から生えている触手で攻撃しているようだ。
いきなり現れた俺に、人間も魔物も戸惑っていた。
するとグールフラワー略してグルフラは俺を本能的に危険と判断し、俺に鋭い刺を生やす触手を、人間から見るとすごい速度で伸ばしてきた。
だが、俺にはそれがスローモーションのように見える。俺は触手を悠々とかわし、手刀で細切れにする。
するとグルフラは恐れをなしたのか、触手を引っ込めて這うように逃げ出そうとした。
当然俺が見逃がす訳もなく、素早く相手の正面へ移動し巨体に触れて魔法を発動した。
「【爆破】」
黒目が一瞬赤く光り、グルフラは内部から弾けるように爆散した。ついでにピロロンと音がした。
「ふん、きたねぇ花火だ」
よっしゃぁぁぁ! マコトに教えてもらった漫画の、一度は言ってみたいとある野菜人の格好いいセリフ言えた!
ああ、それとピロロンという音は空耳だろう。何故ならそれはレベルアップした時の音なのだから。
俺はレベル999なのでこれ以上は上がらない。
と、俺が心の中で歓喜していると、生き残った人間が歩いてきた。そして4人の内の一人が前に出てきて言った。
「助けてくださってありがとうございます!!貴方様が来ていなかったら死んでおりました」
そう頭を下げ礼を言う人間は、気品を漂わせる美しい装備(汚れてはいるが)を着た可憐な少女だった。
少し汚れてしまった金髪が揺れる。
「いや、礼を言われるような事はしていない。たまたま戦っているところを見かけて邪魔だったから倒しただけだ」
ここがどこなのか聞く必要もあったからな、そのために魔物が邪魔だったから嘘ではない。
「それでも、私は礼を言わなければ気が済みません!」
「そうか」
俺は素っ気なく返し、周りを見渡す。どうやら、最初【エリアサーチ】をした時に分かった人間以外にも10人ほどいたようだ。
もっとも、全身穴だらけになって死んでいるがね。
よく見ると生き残った人間も怪我をして少女以外は血を流しているようだった。
俺はその者たちに近づき、治癒魔法をかける。すると見る見るうちに傷が塞がった。俺が当たり前のように治癒すると、目を見開き頭を下げてお礼を言って来た。
オッサン共にお礼を言われても、全く嬉しくない。
「治癒魔法まで……この人なら」
と、少女が呟いていた。普通なら聞こえないような小さな呟きだったが、生憎俺は耳がいいんでね。
「あっあの……もし良かったら、一緒に王都までいきませんか?お礼をしたいですし、それに……」
「護衛をして欲しいんだろ?」
俺はローブに着いたグルフラの細かな肉片を払い落しながら言った。流石に護衛が三人しかいないとなると、この先を進むのは困難だろう。
「話が速くて助かります。私はアルディート王国第43代目王女、テトラ・リィ・アルディートと申します。貴方様のお名は?」
【エリアサーチ】した時に、職業が王女ってなっていたから知ってるんだけどね。
「ただの旅人のレギオンだ、宜しくな」
俺はそう返すと、王女は少し顔を顰めた。どうやらただの旅人というところに引っかかったようだ。
「ただの旅人……本当ですか?」
「ああ」
俺は少し俯いて言った。すると彼女―テトラは何か勘違いをしたようだ。
「ただの旅人がこんなに強い訳ありません……何か事情があるんですね。何か有るのでしたら私に相談してください。命の恩人です。精一杯、力になりましょう」
彼女は無い胸を張ってそう言ってくれたが、自分、実は魔王でこの世界に遊びに来たんだ。なんて言えない。
「気が向いたら話そう」
俺はそう答えて倒れていた馬車を直し、馬を治癒魔法で回復させ、王都へ向かった。
ピロロンという音は空耳だろう。何故ならそれはレベルアップした時の音なのだから。俺はレベル999なのでこれ以上は上がらないはず。
というセリフを追加しました。