3話 異世界転移門
俺が呟くと、マコトは目を見開いて慌てるように言った。
「はぁ!?お前、行く気か!?」
「ああ、楽しそうだしな」
俺はあたりまえのようにそう答えた。するとマコト呆れたように言う。
「楽しそうだからって...お前、魔王だぞ。そんな奴が現れたらあっちの世界は大パニックになる!それにこっちはどうするんだよ、いきなり魔王が居なくなったら魔王軍は統率がとれなくなるぞ!」
なんだ、そんなことか。俺はドヤ顔で言う。
「大丈夫だ。こんなこともあろうかと、自分のオーラを完全に抑えるための魔道具も作っておいた。外見も黒髪黒目だからな、お前の世界でも別におかしくはないだろう。
魔王軍の方は殆んど秘書にまかせているからな、統率がとれなくなることはまず、ないはずだ。
勇者が来たら、今は不在いうことにでもすればいい、というか今日撃退したばっかりだから当分は来ないだろう。どうだ?なんの問題もないだろう」
俺はこの世界では珍しく、黒髪黒目だった。魔法を使うときに目が一瞬赤く光るが、それ以外は黒目のままなので大丈夫だろう。
そういえば、マコトに初めて会ったときに『日本人か!?』と言われた事があったな。
昔は自分の髪の色や目の色が好きではなかったが、あちらでは黒髪黒目が普通だそうなので、今は感謝している。
まぁ髪の色はそめるなりできたのだがな。
「……うーん」
まだマコトは悩んでいるようだ、何が心配なのか。と思っているとマコトが言った。
「じゃあ……魔王、言ってもいいが俺と一つだけ約束をしてくれ」
マコトは渋々といった感じだった。
「なんだ?」
「あっちの世界に行ったら、何があっても悪さをせず、出来るだけ人の役に立ってきてほしい」
「お……おう」
マコトがすごい迫力で言って来たので、思わず了解してしまったが……俺、魔王だぜ?俺の存在意義を否定するようなたのみだな……まぁいっか。唯一無二の親友の頼みだ、全力で守ろうではないか。
それに俺は、あちらの世界に迷惑をかける気は毛頭ない。
「たのんだぞ」
「ああ、頼まれた」
俺は力強く返事をし、異世界転移門に行こうとした。が、マコトに呼びとめられたので振り返った。
振り返ると、マコトはどこか寂しそうな顔をしていた。
「もう行くのか?」
「ああ、善は急げだ」
「……そうか」
「安心しろ、すぐに戻る。 帰ってきたらまた、殺し合いをしようぜ」
全力の笑顔で言うと、マコトは微笑んで言った。
「遠慮しておく」
俺はその言葉を聞いてすぐに、異世界転移門へと【瞬間移動】した。
=========================================
自室
が、すぐに自分の部屋へ戻った。旅の支度を何もしていなかった事に気付いたからだ。
いやーうっかりしてたぜ、準備は大切だよな。そう思いつつ、俺は人が4人は転がれるような大きなふかふかベットに横たわった。
するとベットの上にもう一人、勢いよく転がってきた。
「レギ兄さんどこかいくの……?」
眠そうな顔で俺のことをレギ兄さんと呼ぶ、黒髪黒目で俺の背より30cmくらい低いちびっこもとい、妹が言う。ちなみに俺の背は180cm程度だ。
「ああ、ちょっと遠くにいってくる」
「ふーん……」
あれ、心配してくれるのかと思ったのだが……興味なさそうだ。
まぁ俺は今までもどこかへふらっと行く事は多かったからなぁ。最初のころは『行かないで!ずっと一緒にいて!!』なんて言ってくれてた気がするのにな……
「なぁ?心配してくれないのか?」
気になったので聞くことにした。すると、呆れたように妹は言った。
「レギ兄さんが強すぎて、心配する意味がない」
「あぁ、なるほどね」
納得してしまった。
「じゃあ、俺は少しの間居ないから留守は頼んだ」
「あいあいさー」
眠たそうにしつつもビシッと敬礼する妹だった。
さてと、ちゃっちゃか準備を終わらせて行くとしますかね。
=========================================
武器庫
俺は自室で少し準備をして、今は武器庫にいる。
武器庫は色々な物がしまっており、禍々しいオーラを放つ呪われた魔剣から、使用用途のわからない振ったら花が飛び出る布まで、様々だ。
基本的に俺は剣と魔法を併用して使う、魔法剣士的な戦闘スタイルだ。
魔法は無詠唱で使えるので、詠唱を短縮する杖はいらないな。剣は取り出そうと思えばどこでも取り出せるので、剣も持っていく必要はない。
持っていくとしたらローブと各種効果がある魔道具くらいか。
そう思い、俺は武器庫からから真っ黒いがどこか神秘的なローブと指輪型の魔道具を取り出し装備した。
それと、俺のオーラを完全に抑えるための首飾りを装備した。特に変化した様子はないが、他の者から見たらオーラは出てないんだろう。
昔からオーラを抑える練習でもしていればよかったのだろうが、魔王だから抑える必要性を感じていなかった。
しかし、オーラを抑えたら他の者に舐められないだろうか……いや、来たら(死なない程度に)ぶっ飛ばすか。
そんなことを考えながら準備を終わらせ、今度こそ異世界転移門に【瞬間移動】した。
=========================================
異世界転移門前
異世界転移門……それは、俺がマコトのためという建前で開発した、超大型転移魔道具である。
マコトが異世界から来たのなら、こちらからでもいけるだろうと思い、長い年月をかけて完成させたのである。
というのは少し嘘でまだ完成はしていない。
だが、理論上行けるはずだ。この異世界転移門は、莫大な魔力を消費する―俺からしたら莫大ではないのだが―ので俺かマコトしか使えない。
なので起動するのは今回が初なのだ。
部下達から危険すぎると反対され続けたが、ごり押しで黙らせた。
まぁ俺も次元の狭間とかで暮らすのはマジ勘弁なので、調整に調整を加えている。
これでだめなら笑うしか無い。
俺は意を決して異世界転移門を起動させた。
すると、ゴゴゴゴ と音を鳴らしながら巨大な扉が開かれ、黒い闇が現れた。
次の瞬間、体からMPが少し減り体が黒い闇へと吸い込まれた。
そして気付いた時には……
森の中だった。
自分のオーラを完全に抑える魔道具から、自分のオーラを完全に抑えるための魔道具に変更しました。