2話 親友(勇者)
「魔王様、120人目の勇者撃退、お疲れさまでした」
俺が自分の強さに後悔していると、どこから現れたのか、スーツを着た美女が歩いてきながら言う。
透き通るような美しい青髪に若干控え目な胸、背は170cm程の女性にしてはやや高くすらりと伸びた足や、キュッと引き締まった美しいくびれがスーツ越しにでも分かる。
しかし、スタイルのよい華奢な体には似合わず、背中には彼女の背と変わらない大きさの大剣が彼女が唯者では無いことを表していた。
彼女は人間ではない。
見た目は完全に人間の女性と変わらないが、人間を圧倒する強さを持つ魔族である。
そして俺の秘書だ。彼女は武力にも頭脳にも長けていて、魔王軍の事は殆んど彼女に任せている。 俺は軍を動かすなんて事は苦手なので、殆んど何もしない。
する事と言ったら、やって来た勇者と戯れることぐらいか。
「いや、全然疲れてないぞ、途中で逃げ出したしな」
俺は玉座に座りつつ言った。
「勇者と戦って疲れないのは普通はおかしいです。しかも勇者が逃げ出すなんて、魔王様くらいですよ」
まぁそうなんだろうな。俺以外のほとんどの奴は、勇者と互角か劣っている奴しかいない。
俺が異常なだけで、勇者は普通に強いのだ。人間を圧倒する力を持つ、俺の秘書でも苦戦するほどに。
苦戦なので、今日ぐらいの勇者なら何とか倒せるかもしれないが。
この世界は、勇者以外にもたくさんの職がある。戦士や魔術師、大工や漁師にいたるまで。
その中でも、勇者は限られた極一部のものにしかなることができない。だが、ステータスの伸びや覚えられる技は強力かつ、多彩である。
ゆえに勇者は、俺以外の相手には無敵なのである。
「はぁ……もっと勇者強くならねぇかな~」
「魔王様がメタルモンスターを根絶やしにしたので、なかなかレベルが上がらないんですよ」
そうなのだ。俺がまだ若い時に、レベル上げのためにメタルモンスターを殺しまくってしまい、つい夢中になってレベル999になる頃には文字どうり根絶やしにしてしまって、世界の勇者達の平均レベルが下がり、今では後悔しかしてない。
「簡単に根絶やしになるメタルモンスターが悪い」
俺が開き直ると、彼女は呆れながらいい情報をくれた。
「……そうですか、まぁそれはそうと、“マコト”様がいつものところに来ているようですよ」
おお!“マコト”か久しぶりに会うな。
「よし、じゃぁさっそく行ってくる」
そう言い残して、俺は玉座の間を後にした。
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魔王城地下
どこまでも続く様な薄暗い階段を下りてゆく。
どこまで続くんだと思っていると、うっすらと隙間から光を漏らす、人一人分の高さ程の扉が見えた。
俺はその扉を勢いよく開き、じとじとした地下とは思えないような温かい空間で、ひとり、ふかふかとしたソファーに座りくつろいでいる、黒髪黒目の青年に飛びついて、ハグする。
「うっぉおおおおおおおぉおぉ!!! マコトぉおおお久しぶり!!!」
「ちょっおま、やめろ!死ぬ!マジで死ぬ!」
ボキボキと不穏な音がしたので、離すことにする。ついでに治癒魔法もかけておく。
「ゲホッ!ゲホッ……魔王、お前のせいで死ぬところだったぞ!!それといきなり抱きつくんじゃねぇ!やるならせめて、女になってからやれ!!」
「いやだね!女になったらステータスが極限まで落ちる」
「極限ってお前、俺を焼き殺す事くらいできるだろうが!!」
まぁそうなんだが。 俺は女体化することは出来るがステータスが極限まで落ちる。主に攻撃力と防御力が。
どれぐらいかというと、攻撃力は猫パンチぐらいで、防御力は紙ぐらいに落ちる。
魔力は半分くらいになり、MPは100分の1くらいになる。HPはそのままだが防御力が紙なので勇者の攻撃を3発も耐えきれない。
なのであまりなりたくないのだ。
「絶対にならんからな」
「ならもう、ハグという名の圧縮殺人はやめてくれ」
「……わかった」
別にこいつとハグしたいわけではない。久しぶりにあった唯一の親友にテンションが上がってただけだ。
決して俺はゲイではない。
と、そんなことを考えているんじゃなかった。
「今日はどうしたんだ?」
無駄に真剣な顔で言ってみた。
「いや、たまたま遺跡が近くにあったからきたたけだ」
「そうか」
遺跡とは古代から魔王城と繋がっている転移魔法陣が隠された場所だ。世界各地にあり、ここに繋がっている。今は俺とマコトしか使っていない。
ちなみにマコトは冒険者兼勇者をしている。
本名は木崎真琴、なんでも魔獣の草原に異世界から転移してきたそうだ。
元々は敵対関係―一方的に敵対視されていたのだが―だったのだが、いろいろあって親友になった。
最初は俺を倒そうとやってきたのだが、戦っている間に和解、今にいたる。一応世間的には、まだ俺を倒そうとしていることになっているが、たまにここに遊びに来ている。
こちらとしても異世界の話は飽きないし、いい暇つぶしになっている。
俺の【サーチ】はマコトの世界にある、ゲームというものを参考にさせてもらった。
分かりやすくてとてもいい。
それと、秘書のスーツもマコト考案だ。『秘書と言ったらスーツだろ!』と言って来たので、無理やり防具職人に作らせた。
他にも異世界の技術や文化を参考にさせてもらったものは多いが今はいいか。
「そうだ魔王、異世界転移門は完成したのか?」
俺が思い出に浸っていると、マコトはソファーに転がりながら言った。
「ああ、できたぞ」
そう言うと、マコトは顔をソファーにうずくめながら、ふーんと言った。
「あんまり興味なさそうだな」
「まぁね。もとの世界よりこの世界の方が楽しい」
「じゃあなんで聞いたんだ?」
「お前が前に会った時に作ろうとしてたからな」
俺は以前から異世界転移門を作ろうとしていた。マコトの世界には興味があったからな。
「今から使用実験をするが、使うか?」
「いや、遠慮しとくぜ」
「そうか……なら、俺が使うか」
俺はそう呟いた。