「告発って? ここでやるの?」
最初、巡視船に乗船した時、報道関係者に出迎えられたが、写真を数枚撮られて簡単な質問をされただけ。
後は巡視船の船長さんが『被害者は疲れているので取材はここまで』と無理やり取材を打ち切ってくれた。
その後、巡視船の中で与えられた一室であたし達は夜明けを迎える。
この部屋で話し合って、リアルの事はこれからもリアルと呼ぶことにした。今更、真君と呼ばれるのは本人が嫌みたいだし。
その後、真君のお母さんがあたしに謝ってきた。実は形見分けの日に、リアルがあたしの家にいる事がわかってから、グッキーに盗聴機を仕掛けていたというのだ。
あたしがどこまでリアルの事を知っているのか探っていたらしい。
ところが、盗聴機で得られた情報が不十分だったらしく、あたしがまだリアルの秘密を知らないでいると判断してしまったようだ。
そこで、元飼い主が名乗り出れば穏便にlリアルを連れてこれると判断して昨日の事態になったわけ。
「ごめんなさいね。瑠璃華ちゃん。怖い思いさせちゃって。最初から事情を話していれば……」
「いいんですよ。おばさん。だって、こんな事、簡単に話せるわけないじゃないですか」
船窓から朝日が差し込む。
「わあ!!」
お日様が水平線から出てくる光景に思わず見とれてしまった。
「おばさん、甲板に出てみようよ」
「ええ」
あたし達は船長さんに頼んで甲板に出してもらった。
飛行甲板の上に出た時には、お日様はすっかり水平線の上に出ている。
背後を振り返ると富士山が目に入った。
帰ってきたんだ。あたし達……日本に……
でも、すべてが終わったかのように思えたけど、あたしの心には不安が渦巻いていた。
その不安を言葉に出すのが怖くてあたしは黙っていた。
先に沈黙を破ったのはおばさんだった。
「瑠璃華ちゃん。辛いことを言わなきゃならないんだけど……」
「わかってます。リアルをおばさんに返さなきゃならないんでしょ」
「え?」
あれ?
「でも、時々遊びに行っていいですよね」
「それは……」
あれ? 目から汗が出るよ。変だな。
「大丈夫です。寂しくありません。あたしにはグッキーがいるし」
嘘つき!! 瑠璃華の嘘つき!!
本当は寂しいくせに……
「そうだ。グッキーの盗聴機はそのままにしていてください。グッキーに悩みを言えばそっちに伝わるし……」
「違うのよ。瑠璃華ちゃん。リアルは内調に返さなきゃならないの」
「え? どういう事ですか?」
「そういう契約なのよ」
「だって、処分しようとしたくせに、今度は返せなんて。勝手すぎます」
「それは……」
「瑠璃華……すまない」
「リアル!! あんたそれでいいの!?」
「俺だって。瑠璃華のそばにいたいよ。でも……」
突然轟いた甲高いローター音が、あたし達の会話を中断させた。
音の方を見ると、一機のヘリコプターがやってくる。
いやな予感……
ヘリからハーネスが垂れ下がる。
一人の屈強そうな男が飛行甲板に飛び降りると、ハーネスを持ってあたしの方へ……
「何するの!? やめて!!」
と言ったけど、男はやめてくれなかった。
男はあたしを捕まえると無理やりハーネスに固定。
あたしはリアルを抱いたまま空中に吊り上げられる。
「瑠理華ちゃあん!!」
飛行甲板でおばさんが叫んでいる。
何事かと、保安官たちが集まってくるがもう遅い。
あたしとリアルは否応なく吊り上げられ、ヘリコプターの中に引きずり込まれた。
中で待っていたのは……
「美樹本さん。無事でよかったわ。あれから心配したのよ」
ヘリコプターの中で待っていたのは星野さんだった。
「星野さん。これはなんのまね?」
「ごめんなさいね。お父様の指示なのよ」
「お父様って?」
「学校では黙っていたけど、私のお父様も政治家なのよ。リアルちゃんの事を話したら、こうするように言われたの」
なんて事。
星野さん……信用していたのに……
「できれば巡視船が港に入るまで待っていたかったんだけど、時間がないからこんな乱暴な方法をとることになったの。ごめんなさいね」
「時間がないって……いったい、あたし達をどこに連れて行く気?」
「着いたらわかるわ」
「今教えて」
「ううん……どうしようかな?」
窓の外を見ると東京タワーが見えた。
なんて早い。
ヘリはあっという間に、東京タワーと六本木ヒルズの間を飛びぬけていく。
そして、東名高速の上に来たとき……
「おい、瑠璃華。あれって」
リアルは操縦席の窓を前足で示した。
「このヘリ、あそこへ向かっていないか」
あれ? あの建物!!
「星野さん。まさか、あそこへ行くの?」
「ええ、そうよ。あそこにお父様がいるの」
「でも、あそこって……」
「社会科見学で来た事あるでしょ」
そりゃあるけど……
「六年の時だったな。瑠璃華はバスに酔って大変だったっけ」
わーわー!! リアルったら、余計なこと思い出さないで!!
「でも、あんな所で何をするのよ?」
「決まってるわ。柳川総理がリアルちゃんにやろうとした事を告発するのよ」
え? じゃあ、やっぱり星野さんは味方? でも……
「告発って? あそこでやるの?」
「そうよ。他にどこでやるというの?」
だってあそこって……
国会議事堂だよ!!
「どうやって!?」
「もちろん正々堂々と国会の場で」
「だって、あたし達中学生だよ」
「私達は、ただ証人として出るだけ。実際にやるのはお父様よ」
「星野さんのお父様って?」
「この事は学校では黙っていてね。私のお父様は政友党の幹事長で衆議院議員の星野郷造」
「ええ!?」
「名前ぐらいは知ってるでしょ」
そりゃあ、知ってるなんてもんじゃない。
色々と悪い話も……
あ!! もしかして、真君のお母さんが会いに行った人ってこの人では……
だとすると、奥さんに追い返されたのは、リアルの毛をいっぱいつけてきたからね。
「政治家だからね、悪い事もやってるのよ。そんな人の娘だから、嫌がらせもされたわ。そのせいで一年前に転校する事になったの」
「星野さん」
「今の学校ではこの事は誰にも言えないでいたの。話したのは、あなたが初めてよ」
「いいの? あたしにそんな事打ち明けて?」
「リアルちゃんの秘密を守り通したあなただから、信頼できると思って打ち明けたの」
ただの変人と思っていたけど、この人にそんな過去があったなんて……
「それとも、政治家に利用されるのは嫌かしら?」
「え? そんな事、考えてもいなかったわ」
「そう。でも、もしそういう思いが少しでもあるなら、こう考えてくれないかな。政治家に利用されてるんじゃない。政治家を理由してるんだって」
「うん。でも、ギブ&テイクと思えばいいんじゃない?」
「そうね。私達はリアルちゃんを守れて、お父様は政敵を倒せる。ギブ&テイクね」
やがてヘリコプターはヘリポートに降りた。
「さあ、行きましょう。美樹本さん」
「うん」
あたしはリアルを抱いて赤い絨毯を踏みしめた。
*
国会は荒れに荒れた。
外国に対して嘘をつき、その嘘を隠すために日本のために戦ってくれたリアル達を処分しようとした事で総理は叩かれまくった。
野党からも与党からも。
辞職を迫られた総理は、とうとう衆議院の解散権を行使した。
もちろんリアル達の処分命令は完全に取り消された。
でも、それはリアルとの別れを意味していた。
リアルは内調に連れて行かれたのだ。
否応なく。
こうして瑠理華たちの戦いは終わったのです。
後はエピローグ一話を残すのみ。