どうして?
夢じゃありませんでした
「瑠璃華!! 戻ってこい!!」
真君の声? どこから?
目を開くと周囲は薄暗い。
誰かがあたしを覗き込んでいる。
「目が開いたぞ」
真君の声?
「真君?」
違った。リアルだった。
「どうした? 瑠璃華」
え? 今、返事をしたのはリアル?
どうしてリアルが?
「もう、大丈夫ね」
博士がAEDを持っている。
「ここは、どこ?」
「船の上だ。おまえ心臓止まっていたんだぞ」
心臓が?
「何する!! 放せ!!」
突然リアルがあたしの視界から消えた。
首を動かすと、リアルはポールに首輪を掴まれてジタバタしているのが目に入る。
「話が違うわ!!」
博士がポールに掴みかかった。
しばらく二人はもみ合う。
ビリ!!
もみ合っているうちに博士のブルカが破れ、顔が露わになった。
その顔は!?
どういうこと?
あの人がここにいるって?
博士の正体が真君のお母さんて……
それじゃあ、リアルの脳にインストールされた記憶って!!
ポールの手を逃れたリアルがあたしの方へ駆けてくる。
「瑠璃華!!」
あたしはリアルを抱きしめた。
「おい……瑠理華。ちょっと苦しいよ」
「どうして?」
「だから苦しいって」
「どうして、蛍公園に来てくれなかったの?」
「え?」
「真君……真君なんでしょ?」
リアルは宝石の様な目で、あたしを無言で見つめていた。
「真君……」
「違う」
リアルは首を横にふった。
「違う。俺はリアルだ!!」
「え?」
「田崎真という人間はもう死んだ。俺は黒猫のリアルだ!!」
「真君?」
「その名前で俺を呼ぶな!! 確かに俺は真の記憶を持っている。でも、俺はもう人間には戻れないんだ!!」
「どうして、そんなこと言うの?」
ひどいよ、真君。あたしがどれほどあなたに会いたかったと思ってるの。
「どうしてって? それが現実だから……受け入れるしかないんだよ。もう、元には戻れないんだ」
真君……
辛かったのね。戻したくても、戻せない現実を目の前にして……
「でも、リアルの中に真君はいるのよ」
「俺は田崎真の記憶を入れたUSBメモリーのような物にすぎない。田崎真にはなれない」
「だから……なによ」
「え?」
「真君が死んで、あたしがどんなに辛かったか。近くで見ていたならわかるでしょ」
「瑠璃華」
「人間に戻れなくたっていい!! 猫のままだっていい!! リアルは真君だよぉ!!」
あたしは一層強くリアル=真君を抱きしめた。
「瑠璃華……すまない」
「いつ、記憶が戻ったの?」
「今朝、頭をぶつけてから、少しずつ記憶が戻ってきていた。でも、言い出せなかった」
グッキーがあたしの身体に這い上がってきた。
リンダに捕まった時に、とっさにリードを外して逃がしたけど無事でいてくれたのね。
グッキーはリアルにじゃれつく。
「グッキーはわかっていたのね。リアルが真君だって」
「俺も、なんでこいつの名前がわかったか不思議だったんだ」
「真君。もうどこにも行かないで……」
「それは……」
リアルが何かを言いかけた時、あたしは背後から伸びてきた手に首を絞められ、ナイフを突きつけられた。
リンダだ。
リンダは英語で何か言った。リアルはそれに返事をする。
「この人、なんて言ってるの?」
「抵抗せずついて来いって」