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日本の科学技術バネェ……

 居ても立ってもいられなくなったあたしは、博士が止めるのも聞かないで部屋を抜け出した。いくら、糸魚川君が超人でもあんなミサイルで狙われたら助からない。

 なんとか、ミサイルを阻止しないと。

「どうやって?」

 通路を歩きながらリアルの発した質問にあたしは答えられなかった。

 いや、部屋を抜けだしたのはいいけど、なにも対策ないのよね。

「だと思った。とにかく、信号弾を探そう」

「そんなものどうするの?」

「スティンガーミサイルは熱線誘導式だ。つまり熱い物を追いかける。信号弾で偽の熱源を作ってミサイルの狙いを逸らすんだ」

「わかった」

 しばらく通路を歩いて倉庫らしき部屋を見つけた。

 部屋の中には木箱やダンボールが乱雑に置いてある。リアルの話では信号弾は船ならたいてい積んであるというけど……

 発煙筒を見つけたけど、これじゃだめよね。

「あったぞ」

 リアルが口で示した木箱に「Signal bullet」と書いてあった。

 蓋を開けると、金属の筒が数本。

 ピストルみたいな形のと、ただの円筒と二種類あるけど……

「ヘイ!! ユー!!」

 やば!! 入り口に女の人が。

 あの人って昨日あたしにピストルを突きつけた人。たしかリンダとかいったっけ。

 リンダがこっちへやってくる。

「フギャー!!」

 リアルがリンダに飛びかかるる。

 頭にしがみついて、ひっかいたり、猫パンチを浴びせたりするリアルを、リンダは必死で引っ剥がそうとする。

「リアル!! そいつから離れて!!」

 リアルが飛び退いた瞬間、あたしは発煙筒を点火してリンダの顔面に突きつけた。

 発煙筒の煙をもろに吸い込んでリンダは激しく咽せる。

 その隙にあたしは箱から信号弾を掴んで倉庫から逃げ出した。

 

       *


 どこをどう走ったのかわからないけど、あたしとリアルは後部甲板に出た。

 ラッキー!!  ミサイルを持っている人の真後ろだ。

 モーターグライダーのエンジン音が聞こえてきた。ようし、あいつがミサイルを撃つのに合わせて……

「おい、瑠璃華。おまえ何拾ってきた!?」

「え? 何って信号弾」

「それ信号弾じゃない」

「ええ!?」

 もう糸魚川君来ちゃうよ。

 ああん!! どうしよう!!

「まて、瑠璃華。これ使える」

「え?」

「説明している暇はない。そいつで射手の頭上を狙って打て」

 よくわからないけど、あたしはリアルの言う通り金属筒をミサイル射手の頭上に向けた。

 スイッチを押すと何かが筒から飛び出す。それは空中で広がって網になった。

 これって!?

「俺を捕まえるのに使ったネットランチャーの残りを、信号弾の箱に入れてあったんだな」

「オオ!! ノー!!」

 網に絡まれた射手がじたばたしている。

 モーターグライダーが現れたのはその時。

 モーターグライダーは一度前部甲板の上を通り過ぎ、反転して戻ってきた。

 後部飛行甲板の上で糸魚川君はグライダーから飛び降りる。

 空中で二回転してから甲板に着地。

 か……かっこいい!! 

 傭兵達が着地した糸魚川君に一斉に襲いかかった。糸魚川君は抜刀して迎え撃つ。

 自動小銃やピストルを向ける者もいたけど、引き金を引く前に懐に潜り込まれ峰打ちで打ち倒されていく。

「そこまでだ。糸魚川の小倅(こせがれ)

 日本刀を抜いて現れたのは村井。

「さすがだな。新中野学校のリーサルウェポンと言われるだけのことはある」

「リーサルウェポン? 僕はそんな風に呼ばれた覚えはないが」

「隠すな。糸魚川室長が我が子を最強の戦士にすべく英才教育を施していた事は内調にいたときに耳にしていたが、これほどとはな」

「ちょっと待てい!! なんだ? その英才教育って? 僕はそんなの受けた覚えはない」

「重りをつけて華厳の滝に沈められたり、養成ギブスを付けて熊と格闘させられたりするのは英才教育じゃないとでも言うのか?」

 そんな事されてたの?

 そりゃあ逃げ出したくなるって。

 てか、死ぬよ、普通。

「あの……それって、新中野学校の普通のカリキュラムじゃないの?」

「そんなのが普通なわけあるかあ!」

「え? そうなの?」

 騙されてたんだね。可哀そう。

「だいたい普通のカリキュラムしか受けてない奴が俺に勝てるわけないだろ」

 今朝、負けたことがよっぽどくやしかったようね。

「だが、俺もおまえのようなガキにやられっぱなしというわけにはいかない。今朝の雪辱、はらさせてもらう」

 村井は刀を構える。

 糸魚川君も油断なく構えた。

 誰もが、固唾をのんで二人の決着を見守る。先に動いたのは村井。

 え? なにあいつ、日本刀を投げ捨てた。

 バアン!!

 銃声が鳴響く。

 刀を捨てた村井の手にはピストルが握られていた。糸魚川君は仰向けに倒れている。

 きったねえ!!

「どわはははは!! 思い知ったかガキ!! 科学の力を甘く見るな。いくら剣術が強くたってな。所詮飛び道具には勝てっこねーんだよ」

 何が科学の力よ!! この卑怯者!!

「あなたこそ、科学の力を甘く見ないでくれ」

 え? 糸魚川君。大丈夫だったの? 

 動揺する村井の前にのっそりと立ち上がる。

 カラン!!

 ピストルの弾が床に落ちた。

 うそ!? 跳ね返したの?

「僕のエージェントスーツは、あなたが内調をやめた後で開発されたもの」

 村井が後退る。

「その素材は、日本の科学技術の粋を集めて開発された(モノ)結晶(クリスタル)カーボン・ナノチューブ。44マグナムごとき豆鉄砲で貫けるものか」

 44マグナムを豆鉄砲って……

 日本の科学技術バネェ……

「ちょ……ちょっと待て……せめて刀ぐらいは拾わせてくれ」

 村井が刀を拾う間、糸魚川君は待ってあげた。だが、結果は今朝と同じく、峰打ちで倒されて終わりだった。

「すごい!! 糸魚川君」

「ふん。まあ少しはやるようだな」

 トントン。ん? 誰? 肩を叩くのは?

 振り向くと、そこには鬼のような形相のリンダが立っていた。


        *


 捕まったヒロインが言うお決まりのセリフがある。『あたしはどうなってもいいから、早くこいつをやっつけて』だ。

 テレビでそんな場面を見た時、本当にこの人そんな事思っているのかな? タテマエじゃないかな? と思っていた。

 でも、今のあたしはそんな事を叫びたい。

 リンダに捕まったあたしはクレーンでつり下げられていた。足の下には海。

 あたしを人質に取られて、糸魚川君も抵抗できないまま捕まってしまった。

 リアルはなんとか、逃げのびてくれた。

 きっと、どこかであたしを助けるチャンスを窺っているんだと思うけど……

 甲板では博士がポールに抗議しているが、ポールは全く聞く耳を持たない。

『猫に次ぐ』

 ハミルトンの声がスピーカーから流れる。

『三つ数えるだけ待つ。我々の前に姿を現しなさい。現れないなら、こんな事はしたくないのだが、お嬢さんを海に落とす事になる』

 ちょ!! この寒いのに海に!?

『1』

 溺れる前に心臓麻痺で死んじゃうよ!!

『2』

 でも……

「リアル!! 出てきちゃダメー!!」

『3』

 あたしの身体は支えを失い、真っ暗な海面に向かっていった。

「瑠璃華!!」

 リアルの声!? 上を見上げるとリアルがあたしを追って飛び込んでくるのが見えた。

 次の瞬間、あたしは水中深く沈んでいく。




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