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秘密兵器猫壱号  作者: 津嶋朋靖


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リアルとの再会

 連れてこられたのは四畳ほどの狭い部屋。博士にあてがわれた部屋だという。

「ヒマワリの種には気付いてくれたようね」

「すみません。せっかくのチャンスを」

「仕方ないわ。私もあんなに早く出航するとは思わなかったし」

「いったい、何があったんです?」

「さっき、私達が話をしている間に第六台場で取引があったらしいのよ」

「取引? じゃあ、リアルは第六台場に来たんですか?」

「来たことは来たわ。ただ、内調の少年スパイは偽の黒猫を用意してきたの」

「じゃあリアルは?」

「別のところから上陸して、杭に縛られているあなたを助けようとしたらしいわ」

「え? だってあたしはここに」

「奴ら、3Dプリンターであなたの人形を作ったのよ。それにまんまと騙されたのね」

「それで、どうなったんです?」

「騙された事に気が付いたリアルと内調の少年が暴れたの。それが、強いのなんのって、シーガーディアンも十人ぐらい傭兵を雇っていたのに、三分足らずで壊滅したんですって」

「そりゃあ、糸魚川君は強いですから」

「そんなわけで、掴まった傭兵達がスコットアーウイン号……つまりこの船の居場所を白状する前に逃げだそうという事になって、さっきの緊急出航という事に……え? あなた今なんて言った?」

「え? あたし変な事言いました?」

「内調の少年スパイの名前。なんて言ったの? それに敵であるはずの内調と、あなたがなぜ一緒に行動していたの?」

 そうか。この人まだ知らなかったんだ。

「あのですね」

 かいつまんで糸魚川君との経緯を話した。

「なんですって!? 糸魚川の息子? しかもプロポーズされた?」

「いや……プロポーズじゃなくて、告白されただけで……」

「駄目よ。あの男のデオキシリボ核酸を受け継いでいる男なんて。絶対浮気者だから」

 それ言ったらリアルもなんだけど……

「ええっと……あたし別に付き合うつもりはありませんから」

「それが正解ね」

「そんな事より、あたし達これからどうなるんですか?」

「そうね。なんとか、リアルともう一度連絡を取りたいけど……」

「連絡を取ってどうするんです?」

「もちろん、動物部隊の存在を公表するための動画を作るのよ」

「待ってください。なんでシーガーディアンなんかに頼るんです? 他に方法はなかったんですか?」

「実を言うと、最初は野党の議員に相談しようとしたの」

「野党の議員?」

「政友党の幹事長にね。政敵のスキャンダルだし、協力してくれると思ってアポもとったのよ。ところが、屋敷に行ったとたん、奥さんが怒り出して追い返されてしまったの」

「なぜ?」

「さあ? 私が浮気相手とでも思ったのかしら? アポを取ったと言っても、非公式の面談だったし、私も素性を隠していたし」

「それで、シーガーディアンに」

「ええ。また、あの屋敷に行くのは怖いから」

「シーガーディアンの方が怖いと思います」

「そんな事ないわよ。確かに彼らはテロリストだけど、普段はまじめな人達よ。現に、さっきあなたがエンジンルームで乱暴されそうになった時、助けてくれたでしょ」

「え? 博士、あの場所に居たんですか?」

「え? いや、小さな船だから噂が伝わってきたのよ」

 不意にグッキーがブルゾンのポケットから顔を覗かせた。

「そうそう、あなたもご主人様を必死で守ったのよね」

 博士はグッキーの頭を撫ぜる。

 そうだ!! 博士にあの事を話さないと。

「博士、もうシーガーディアンなんか頼らなくても大丈夫です。あたしの友達が、リアルの存在を公表する準備しているんです」

「どうやって?」

「たぶん、ネット動画だと思うけど。でも、リアルを保護したあたし達が勝手にやるんです。誰にも迷惑掛かりません」

「そう。確かにそれなら誰も迷惑しないわね」

「だから、早くこの船から逃げましょう」

「そうね。だとすると」

 不意に博士が押し黙った。

 どうしたんだろう?

「人が来たわ。隠れて」

 トントン。

 ノックの音がしたのは、あたしが折り畳み式のベッドの下に隠れた時だった。

「ハミルトンです。入って良いですか?」

「どうぞ」

 ドアの開く音がする。

「夜分失礼します。博士にちょっとお願いがありまして」

「どうしたの? あら。あの子のスマホね」

「これで猫と連絡を取って欲しいのです」

「私に?」

「我々は猫から信用されてません。ですから、博士の口から説得していただきたいのです」

「最初から乱暴しなければこんな事にならなかったのよ」

「面目ありません」

「いいわ。私が連絡するから。でも、その間私を一人にしてくれません」

「もちろんです。終わったらインターホンで連絡してください」

 突然、轟音が聞こえてきた。

「何の音?」

「ヘリコプターですよ。第六台場で無事だった傭兵達が戻ってきたようです」

「ずいぶん時間が掛かったのね」

「エンジンをやられまして、修理していたのです。それでは猫との連絡お願いします」

 扉の閉まる音が聞こえた。程なくしてあたしはベッドの下から出される。

「今の話聞いていたわね」

 博士の手にスマホが握られていた。

「それ、まだ返してもらえないですよね」

「ごめんなさいね。でも、リアルとの通信手段は手に入ったわ」

 あれ? スマホの画面に着信がある。

 この番号って!?

「博士。この番号って」

「え?」

 博士はスマホを覗き込んだ。

「リアルの首輪通信機じゃないの。何やってるのよ。居場所を探知されちゃうわよ」

「それが、処分命令が凍結されたとか」

「凍結? どういう事?」

「さあ? 詳しいことを聞く前に捕まっちゃったから」

「いいわ。ちょっとリアルを呼び出してみて」

 博士はスマホを差し出した。

「いいんですか? あたしが出て」

「まず、あなたの声を聞かないと信用しないと思うわ」

 あたしはスマホを受け取った。

 最後の着信履歴を見ると一分前。

 今かけたばかりなんだ。

 かけ直そうとした時、先に着信が入った。

『瑠璃華。やっと出てくれたか』

「え? リアル!? なんであたしがスマホを取り戻したって知ってるの?」

『窓の外を見ればわかる』

 船室には小さな窓があるけど……なにあれ? 大きな鳥が夜空を飛んでいる。

 鳥って夜は目が見えなかったんじゃなかったっけ? あれ? 鳥が足で何かを掴んでいる。あれって……リアル!?

 あたしは窓を開いた。

『今、窓から飛び込むから、離れててくれ』

 大きな鳥は一度船から遠ざかると助走をつけて戻ってきた。

 反動をつけてリアルを空中で放す。 

 狙い違わず、リアルは小さな窓から飛び込んできた。

「リアル!!」

 空中でリアルの身体を受け止め抱きしめた。

「会いたかったよ。リアル」

「俺もだ。瑠璃華」

 リアルはしきりにあたしの顔を舐める。

 ザラザラした感触がなんか懐かしい。

「いつから、外にいたの?」

「三十分くらい前に、この船を見つけた。それから窓という窓を覗いて、瑠璃華がいるのを見つけて、中の様子を窺っていたんだ」

 だからスマホがあたしの手元にあるってわかったのね。でも、一緒に博士がいるのに警戒しなかったのかな? 

 グッキーがポケットから這い出してきてリアルにじゃれつく。

「ところでリアル。処分が凍結されたってどう言うこと? もう逃げなくてもいいの?」

「いや、凍結はあくまでも凍結。状況によっては、再開されるかもしれない」

 リアルの話では、政府のコンピューターがハッキングされて知性化動物達のデータが漏れたらしいというのだ。

 それも、映像や研究データや内調で活動した記録まで。

 今のところ犯人は不明。データが公表される様子もない。しかし、もしそれが公表されたら知性化動物を処分する意味がなくなる。

 それどころか、情報隠蔽のために動物達を殺した後で、その事が発覚したら、ますますやっかいなことになるというのだ。

 それで、総理は内調に『殺すな』と命令したらしい。それにしても自分勝手な話よね。

「もっとも、俺は犯人を知ってるけどね」

「え?」

「トロンがやったんだよ」

「トロンて、あのニホンザル?」

「あいつ、大使館から毎日政府のコンピューターにハッキングをかけていたんだ。いつもなら証拠なんか残さないんだけど、昨日はうっかり残してしまった。猿も木から落ちるっていうからな。ところが政府の方ではトロンの仕業とは思わないで、アノニマスに進入されたんじゃないかと大騒ぎさ」

「へえ」

「まあ怪我の光明で処分命令が凍結されたものだから、トロンとサムは大使館を抜け出して俺に会いに来てくれたってわけ」

「ちょっと待って。なんでトロンとサムにリアルがあたしの家にいるってわかったの?」

「伝書鳩でトロンとサムに定期的に通信を送っていた人がいたんだ。その人からの情報なので、なぜわかったか本人に聞くしかないよ」

 え? 本人て? 

 リアルは博士の方に目を向けた。

「なんで俺の居場所がわかったの?」

 博士はゆっくりとこっちを振り向く。

「私が誰だかわかるの?」

「あのさあ、いくら顔隠したって、声を変えたってわかるよ。ここに居る事はトロンとサムに聞いてたし」

 そうか、リアルは博士の正体がわかっていたんだ。

「そう。トロンとサムに会ったのなら、私がなにをしていたかも聞いたのね?」

「シーガーディアンと手を組んだんだね」

「利口なやり方じゃないというのはわかっていたわ。でも、私にはこれしか方法がなかったの。さっきまでは」

 博士はあたしの方へ歩み寄る。

「シーガーディアンとは手を切るわ。公表は瑠璃華ちゃんの友達に任せようと思うの」

「それがいいよ。ママ」

 ママ!? リアルって博士をそう呼んでたの?

 ん? リアルが耳元に口を寄せてきた。

「勘違いするなよ。ママって言うとこの人が喜ぶから仕方なく……んにゃ!!」

 あっという間もなく、博士はあたしの手からリアルを奪い取り、無言で抱きしめた。

 そうか。この人も、ずっとリアルから離されて寂しかったのね。

「ごめんなさいね。あなたを内調なんかに預けたりしたばかりにこんな事になって」

「いいよ。それに俺、内調の仕事って結構好きだったし……」

「私を許してくれるの?」

「許すもなにも恨んでないって。それより、さっきの質問がまだだけど。なんで俺の居場所がわかったの?」

「それは……」

 博士の答えは、突然鳴り響いたインターホンの呼び出し音で中断された。

 慌てて、あたしとリアルはベッドに下に隠れる。それを待って博士は電話に出た。

「どうしました? ああすみません。リアルの首輪通信機が圏外でまだ連絡が取れないんです。もうしばらく待って下さいね」

 どうやら、あんまり待たせるからハミルトンが催促しているみたいね。

「え? 日本の領海から出る?」

 通話が終わるのを待って、あたしとリアルはベッドの下から這い出す。

「巡視船がこっちへ向かってるそうよ」

「知ってるよ。糸魚川が呼んだんだ」

「え? 糸魚川君が? だって内調をやめるんじゃ……」

「内調にはまだ裏切りがバレていなかったようだから、それは延期だって。それに内調の力を借りないと瑠璃華を助けられないし」

「じゃあ、あたしを助けるために、内調に残ってくれたの?」

「そこまでは知らんけど……」

「博士。巡視船が来てくれるなら、もう安心ですね」

「巡視船が来るとわかって、シーガーディアンが大人しく待ってるわけないでしょ」

「あ!! そっか」

「ハミルトンは最大速度で領海外へ逃げ出すから、電話は早くすませろと言ってたのよ」

 そうか。圏外になっちゃうからね。

「でも、巡視船から逃げ切れるんですか? こんな民間船で」

「元は軍艦よ。ガスタービンエンジンを装備しているわ。ディーゼルエンジンの巡視船じゃ追いつけないわね」

 船がガクンと揺れた。動き出したようだ。

「でも、いくらこの船が速くたって、ヘリコプターで追いかけてきたら」

「その前に、巡視船が逃走に気が付かないと、ヘリを飛ばしてくれないわ」

「巡視船と連絡取れないかな」

 スマホを見ると、さっきまで三本立ってたアンテナが残り一本。

 あ!! 今、圏外になった。

「ねえ。リアルの首輪通信機は?」

「圏外になった。これも所詮携帯だからな」

「あちゃあ」

「リアル。首輪通信機にはトランシーバー機能もあるのよ」

「ママ。知ってるだろ。このトランシーバーは短距離しか使えないんだよ」

「サムがまだ近くにいるでしょ」

「そうだった」

 リアルはさっそくサムに連絡。サムはどうやら、船のマストで羽を休めていたらしい。

 連絡を受けたサムはしばらく窓の外を滞空して、巡視船に向かって飛び立っていった。



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