シーガーデアン殲滅作戦
この章は博士の視点でお送りします。
「これはすごい」
男はディスプレイの映像に驚嘆した。
そこに映っているのは十メートル離れたところにいる黒猫がその目で見た映像だった。
彼女は猫を抱き上げて男に歩み寄る。
「どうかしら? この子を使ってみない?」
「内調の任務はどれも危険なものばかりだぞ。大事な猫を危険に晒したいのか?」
「私だってこの子に危険な事はさせたくないわ。でも、何か実績を作っておかないと、この子達が処分されちゃうのよ」
「事業仕分けか。困ったものだな。うちもかなり予算を削られた」
「だから、この子達が政府の役に立つとわかってもらえれば」
「内調の任務は極秘だ。役に立っても、それを公表する事はできない」
「知ってるわ。でも、総理には伝わるでしょ」
知性化動物は役に立つと、総理に認めてもらえれば、仕分けの対象から外れると彼女は期待していたのだ。
「まあ、伝わるが……」
男は苦虫を噛み潰したような表情をした。
「あの総理が認めるかどうか?」
「なんで?」
「まあ、やってみない事にはわからん。ちょうど打ってつけの任務もあるし」
どんな任務かはその時は教えられなかった。彼女は部外者なのだから当然だ。
だが、知性化動物を実際にミッションに投入する事が決定すると、そうも行かなくなった。知性化動物達の調整には、どうしても科研の協力が必要だからだ。彼女は内調へ出向という形でミッションに関わることになる。
そのミッションとは、南氷洋での捕鯨活動を妨害している環境テロリスト対策だった。
シーガーディアンと名乗る自称環境保護団体によって、日本の捕鯨活動は長年にわたって妨害され続けていた。
今まで防戦一方だったが、ここで一気にシーガーディアンを潰す作戦が極秘のうちに計画されていた。
もちろんシーガーディアンをただ物理的に潰すのでは意味がない。海上保安庁や自衛隊が彼らの船を沈めるのは簡単だが、それでは彼らに同情が集まってしまう。そうなると、世界中から支援者が現れ、寄付金が集まり彼らが活動を再開してしまいイタチゴッコになるだけだ。
それを防ぐには、シーガーディアンはただの犯罪集団というイメージを世界中の人達に認識させる必要があった。
そこで考えたのが水産庁で飼育されているシャチを使って、シーガーディアンのボートを襲わせるという作戦。これでシーガーディアンがなすすべもなく、シャチに襲われて沈められていくならそれでもいい。
しかし、反撃のためにシャチに銃を向けるような事があれば、その映像をネットで世界中に流し、それによって海洋生物の守護者という虚像を破壊することができる。その作戦の補助に猿壱号、猫壱号、鷹壱号を投入することになった。
次からはずっと瑠璃華視点です。




