「なんでリアルと名付けたんですか?」
ここでは一度瑠璃華の視点に戻します
「なんでリアルと名付けたんですか?」
長々と続いていた博士の話にあたしは口を挟んだ。
「それはね」
博士はハミルトンに一瞬目を向けた。
「ひ・み・つ」
「ええ!? どうして」
「ごめんなさいね。リアルという名前は息子に由来しているの。ここで由来を話したら、私の素性を彼らに知られる恐れがあるのよ」
「でも、あたしに話しても……」
そう言いかけて、あたしは振り返る。
ハミルトンが慌てて視線を逸らした。
そうか、こいつに聞かれてたんだ。
「クローンはあきらめて、リアルを息子と思って手元に置こうかとも考えたわ」
「なぜ、そうしなかったんですか?」
「その矢先にあいつらが科研に乗り込んできたのよ」
「あいつら?」
「国会議員の蓮田邦子の率いる事業仕分け人達よ。動物の知性化など予算の無駄だから、実験などやめて動物は処分しろと乗り込んできたのよ」
「処分って? だってリアル達は生きているんですよ。お金がないからって殺すの?」
「残念だけど、あの人達は動物の命なんかよりお金が大事なのよ」
「そんな」
「仕方なく、私は元彼に相談に行ったの」
「元彼?」
「私が生涯でたった一人だけ愛した男性。今にして思えば、なんであんなクズ男好きにな
ったのかわからないけど……」
「クズ男なんですか?」
「そりゃあもう。顔は俳優並にいいんだけど、女にだらしなくて、あっちこっちに愛人を作っていて……」
「でも、なんでそんな男に相談したんです?」
「彼ならなんとかしてくれると思ったのよ。なんたって日本の諜報機関のトップだから。そして、何より彼がリアルの父親だから」
諜報機関? それって、まさか?
「内調ですか?」
「あら? よく知ってるわね。そうよ。彼は内閣情報調査室室の長糸魚川流」
ガッタン!!
あたしは盛大にこけた。
それって、糸魚川君のお父さんじゃないの。なるほど、そういう事か。
養成所の生徒達に禁欲主義を強いていたのは、要するに自分が女で散々失敗したから。……あれ? ということは、リアルと糸魚川君は、腹違いの兄弟?
「どうしたの? 大丈夫?」
博士が差し伸べてくれた手に掴まりあたしは立ち上がった。
「だ……大丈夫です」
「そう」
そして博士は話を続けた。リアルを連れて、元彼のところへ会いに行ったところから。
次でまた博士の視点にします。