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かすかな希望と……

ピヨピヨ、と小鳥のさえずりが聞こえる早朝。

日差しが窓のガラスを透過して部屋の中に入り込む。

それでもまだ部屋の中は薄暗い。

ケイトもエリーシアもまだ眠りについていた。


パカ、と冷蔵庫から卵を2つ取り出し、台所でそれを割る。

しかし、力加減が分からず、1つの卵をダメにしてしまった。


「くそ、左手じゃ微妙な力加減が分からねえ」


俺は誰よりも早く起きてきて、家族の朝飯の準備をしていた。

右手がまだ痺れて感覚がないため、仕方なく左手で卵を割る。

殻は入ってしまったが、まあ何とか割ることはできた。

それをかき回して、フライパンに落とす。

ジュウウウ、という音がする。

更に切っておいた正方形のパンを入れて、しみ込ませる。


「砂糖は入れるんだっけな」


俺はうろ覚えのフレンチトーストのレシピを思い出しながら、どうにか完成させた。

皿に2枚ずつ、そしてコップに牛乳を注ぐ。

それをテーブルに準備した。

ガラじゃなかったが、これくらいならしてもいいだろう。


「あれ?父さん、珍しいね」


その後に続いてエリーシアがチラっとテーブルを見る。


「……」


黙ってテーブルに着き、俺とケイトもテーブルに着いた。

カチャカチャと食器の音だけが聞こえる静かな食事だが、そこにはこの前の気まずさはなかった。

俺は2人の反応を伺いながら飯にありついた。

どうなんだ、うまいのか?と聞きたかったが、イマイチ切り出せない。


「父さん……」


「なんだ?」


「殻、取ってよ」


プッ、とエリーシアが噴き出した。

俺はなんだか、嬉しいような、恥ずかしいような、妙な気持になった。


「す、すまん」


しょうがないなあ、とケイトが言う。

何だろうか、この暖かい気持ちは。

今日、俺は早起きして朝食を作って良かったと思った。






それから数日は、こんな風な静かな日々を過ごした。

昼間はケイトに魔力の扱いを教え、うちではポールとエリーシアが俺の悪口を言い合ったり、適当な雑談をしたりして過ごしていたようだ。

夕食は俺とケイトで準備するようになり、3人で一緒に食べる。

たまにポールもそれに混ざる。


少しずつ会話も増えた。

相変わらず、話題を振ってくれるのはケイトかポールなわけだが……

いつかエリーシアの病が回復して、俺を許してくれるようになるのなら、俺は何でもする。

家族のためになら、死ねる。






しかし、事件は起こった。

吸血鬼が釈放されるという連絡が入ったのだ。

デモが大きくなり、警察の手に負えなくなったためである。

ただし、釈放する際に見張りをつけるという条件付きだ。

それに俺が抜擢された。

吸血鬼が妙な動きを見せたら即、斬ってもいいという条件だ。

俺は家族と別れなければならなくなった。


家を出る際に、俺はこう言った。


「次からは、できるだけマメに帰る」


そして、生まれて初めてかもしれない。

謝罪の言葉だ。


「今まで、すまなかった」


それを聞いたケイトは目に涙を浮かべた。

エリーシアも黙って部屋に戻って行った。

扉の向こうからは、すすり泣く声が漏れてきた。


「ポール、お前はこの家に残れ。ケイトが学校に行けるようにな」


ポールは驚いてジタバタした。

こいついつもジタバタしてんな。


「ディック、マジかよ。オレがいなくて平気か?」


「ああ、剣はミスリルに鞍替えだ。要するに、お前は用済みってことだ」


「ひでえっ、あんだけ助けてやったのによっ」


そして俺は扉を開けた。


俺は本部に向かい、ミスリルの剣を受け取った。

鞘に納められている時は抑えられているが、剣を抜くとそこから強力な魔力が放たれる。


その足で刑務所に向かった。

警備に案内され、通路を進む。

独房に入ると、一番奥の牢屋に吸血鬼がいた。


「釈放だ」


俺がそう言うと、警備員がカギを開けて、牢屋から吸血鬼を出した。


「これから俺がお前の相棒だ。妙な動きを見せたら、即座にこのミスリルソードを胸に突き立ててやるぜ」


吸血鬼は何も言わず、こちらを一瞥するだけだった。

何を企んでいても、これがある限りこっちが絶対優位だ。

この前みたいな小細工はいらない。

ただ剣を抜いて斬りつけるだけで終いなのだ。


車で吸血鬼の屋敷に向かう道中も、俺は片時も離れずついていた。

しばらくはずっとこんな感じになるのだろうか?

だいぶ窮屈だな、と思った。

なにせ、常に監視していなければならないのだ。

やつがトイレに行く時も、入浴する時も一緒なのだ。

こんなやつと恋人同士みたいな関係かよ、とため息をつく。


車が屋敷に到着し、中に入る。


「早速会社の営業を再開するのか?」


「ああ、だが、その前にお前を何とかしないとな」


「何?」


俺は剣を抜こうと構えた。

が、体が動かない。

何かされたか!?


「お前は前に私の攻撃を受けていたな。それは私に噛まれたことと同義だ」


こいつの胸に剣を突き立てる直前に受けた腕の傷。

あれはこの吸血鬼の一撃によるものだ。

噛まれたらその本人は吸血鬼になる、ということは知っていた。

しかし、まさかやつの剣で斬られても同じことだったのか……


俺の意識は暗闇に飲まれていった。











右手が使えないことを思い出したw

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