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真の目的

俺が屋敷に駆け込もうとした時、それを咎める声があった。


「まてっ!」


ポールが俺の前に躍り出て、それを制した。


「なんだ?」


「相手は吸血鬼だろっ、どうやって仕留めるつもりだよ?」


「……」


頭に血が上って、そのことまで考えが働かなかった。

俺は一旦冷静になって、どうすれば相手を仕留められるか考えた。

相手はミスリルの武器でなければ通用しない。

となれば目的を変更し、ここは相手を仕留めることでなく、ミスリルを手に入れるという方向で作戦を練らなければならない。


「お前に諭されるとは思わなかったぜ。ポール、この屋敷を一周して、潜入できる場所があるか探せ」


「了解っ!」


ポールは屋敷の外を旋回し、入っていける場所を探し始めた。

俺は意識を集中し、ミスリルの気配を探った。

強力な魔力が下から染み出している。

恐らく地下だ。

ヒューンとポールが戻って来た。


「ディック!正面は番犬が何匹かいてダメだ。裏口の扉からなら、柵を越えれば入れると思う。オレが屋根裏の窓をたたき割って入る。そしたら裏口の扉の鍵を開けるから、それで中に入るんだ」


「オーケー、頼むぜ」


手筈通り、俺は裏に回り込んで柵を飛び越えた。

案外楽勝で柵はこえられた。

一方、ポールの方は、小石を掴んでガラスにたたき込む。

ガシャアンという音が響き渡った。


(おいおい、聞こえてないだろうな……)


若干の不安を残しつつも、数秒後に扉の鍵の開く音がした。

慎重に扉を開けて、中に入る。


「!?」


扉を開けて玄関をくぐろうとした瞬間、犬が通路の横に座っていた。

俺は人差し指を口に持って行って、静かにしてくれ、と心の中で祈った。

その犬は吠えようとはせず、尻尾をブンブン振り回すだけだ。


「……バカ犬か」


俺はそうつぶやいて、そこを離れた。

ポールも後をついてくる。

背後を見渡し、吸血鬼に遭遇しないよう注意を払う。

そして、下りの階段を発見した。


階段の軋む音をできるだけ立てないよう、ゆっくり進む。

そして、通路脇の一つ目の扉を開けた時、それを発見した。

箱に入ったミスリルだ。


「あとは、こいつを運ぶだけか」


「それはどうかな?」


俺はその声に反応し、後方を振り向いた。

そこにいたのは、見た目は若々しい、銀髪の吸血鬼だった。

吸血鬼の横にはさっきの犬がいる。

吸血鬼はその犬に触れて、こう言った。


「モード・鎌」


すると、犬は大きな鎌に変身し、吸血鬼の手に収まった。


「そういうことか!」


横にいたポールが叫んだ。


「あの鎌でアルをやったんだ」


ポールの証言と照らし合わせて、どうやらこの目の前の吸血鬼こそ、アルを殺した張本人で間違いないようだ。


「モード・剣」


俺はポールを剣に変身させ、相手が不死身ということを無視して突っ込んだ。

一太刀浴びせなければ気が済まない。

相手の武器はでかい鎌だ。

攻撃範囲は広いが、内側に潜り込めば問題ない。


「オオオオオッ」


俺は叫びと共に、相手に斬りかかった。

しかし、


「モード・剣」


相手は再度、手に持っていた武器の形を変えた。

今度は剣だ。


(やばい!)


ザン、と相手は剣を振り下ろした。

俺の振り上げた手首に斬撃が決まる。

とっさに身を引いたが、俺の手首からは血が噴き出した。


「くっ!」


俺は飛びのいて距離を取った。

しかし、この傷はまずい。

剣を握ることができず、その場に落とした。


「お前がミスリルを狙った理由はなんだ?」


そう問いながら、吸血鬼が剣の切っ先を向けた。


「……お前らを殺すためだ」


「雇い主がいるのか?それともお前個人の恨みか?」


「それは言えるかよ。それより、お前が密造酒をやってた張本人か?」


吸血鬼はこの状況でそんなことを知ってどうする?と聞いてきたが、俺はどうせ死ぬんだから教えろ、と答えた。


「ならお前の情報と引き換えだ、それでいいなら答えよう」


「交渉成立だな」


相手は俺に逃げ場はないと思っている。

別に情報を漏らして相手が何もしゃべらなくても、その場で殺して終わりだ。

吸血鬼はしゃべり始めた。


「察しの通り、私は密造酒を作っている。しかし、金儲けが目的ではない。市民権を得るための行為だ。この不況時に雇用を拡大することで、市民を味方につける。加えて禁酒法を逆手にとって、裏で酒を恵む。これも同じ効果が期待できる」


そこまで聞いて大体分かった。

こいつは、選挙に出て政治家になるつもりだ。


(国の人間もこいつの目的を推測していたんだ。だから、ターゲットに選んだ)


「ペラペラとありがとよ、戻れ」


ポールがドラゴンに戻り、吸血鬼は俺を斬るべく、前に出た。


「言うつもりがないなら、死ね!」


その時、ポールは口から火を吐き、相手の目をくらました。

ゴウッと火球が吸血鬼に直撃し、火炎が広がる。


「今の内に逃げろっ!」


「逃げるかよ、俺の腕に巻き付け!」


「腕に!?そういうことかっ」


ポールが俺の腕に巻き付く。


「モード・剣」


その状態で剣に変身させる。

指が動かなくても、これなら剣を振れる。


「キサマッ」


吸血鬼が火を払いのけると同時に、胸に剣を突き立てた。


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