決着
俺がホテルの一室で待機していると、窓に何かがぶつかった音がした。
「何だろ?」
窓を見ると、ポールが窓にぶつかってのびていた。
「ど、どうしたの?」
窓を開けてポールを中に入れる。
「や、やべえよっ、ユフィが屋敷の方に向かってるんだ」
「!?」
どうしてそうなったのか?
間違いなくここに予約の連絡が入って来たハズだ。
「オレは先回りして屋敷に向かうから、お前も車で追いついてこい!剣を忘れるなよっ」
俺は急いでホテルを抜け出し、車に乗り込んだ。
ポールが全力で屋敷を目指す。
眼下に吸血鬼の車を発見し、どうにか先に屋敷に到着した。
数分後、車が屋敷に到着し、中から吸血鬼とユフィが出てきた。
ユフィは酔っぱらっていて、足がおぼつかない。
ポールは吸血鬼に接近し、火球を吐こうとした。
思いっきり息を吸い込み、狙いを定める。
(くらえっ!)
すると突然屋敷の扉が開き、そこにいる人物に目を奪われた。
「ディック!」
吐きかけた火炎がのど元で詰まる。
ディックはポールに向かってこう言った。
「モード・剣」
しまった!と思ったのもつかの間、体が変化し、剣となりその場に落ちた。
「お楽しみの前に、もう一人始末しなければならないな」
吸血鬼はそう言って、屋敷の中に入っていった。
俺は警察官の運転する車で屋敷までやって来た。
そして、勢いよく扉を開けて、屋敷に入ろうとした。
「ん?」
足元を見ると、剣になったポールがいた。
「戻れ」
「ぶはっ、やられたっ」
ポールが事情を説明した。
どうやら完全に出し抜かれたらしい。
そして、俺が思っている最も良くないパターンに陥ってしまったようだ。
ユフィを取られ、今から乗り込むこの屋敷には親父が待ち構えているだろう。
だが、俺の責任だ。
詰めが甘かった。
「行くぞ、ポール!」
俺は勢いよく扉を開けた。
そこに待ち構えていたのは、人質に取られたユフィだ。
首に鎌を当てられている。
そして、親父……
「はじめまして、ケイト君」
「どうも」
手に汗が滲んだ。
冷静を装っているつもりだが、いざこの光景を目の当たりにしたら嫌でも鼓動が早くなる。
「今宵は本当に私を楽しませてくれるな。極め付けは君たち親子の殺し合いだ。どんなショーよりも面白くなるだろう」
吸血鬼がそういうと、ディックは剣を抜いた。
もう一本のミスリルソードだ。
「モード・槍」
俺はポールを槍に変化させた。
槍ならば、力量に差があっても応じることができると踏んだからだ。
親父がこちらに駆け出し、剣を振り下ろす。
ガキン、と槍の十字部分で受け止める。
このまま横にいなせば、槍の先端を当てることができる。
そこまで想像して、手が止まってしまった。
(できない……)
親父に槍を突き立てるなんて、俺には……
その時、親父が剣を振りはらって来た。
逆に槍を弾かれてしまい、隙ができる。
「モード・盾」
俺はとっさに槍を盾に変化させ、どうにか剣を凌いだ。
ガンガン、と猛攻が続く。
くそ、どうしたらいい……
ユフィは首に鎌を添えられ、声が出せないでいた。
目の前ではケイトが一方的な攻撃を受けている。
無力な自分が情けないと、ユフィは思っていた。
(私が足手まといになってる……)
その時、ふと鎌を見ると、小刻みに震えていた。
吸血鬼の方を見ると、片方の手で胸を押さえている。
その胸からは、血が滲んでいた。
かつて、ディックにつけられた古傷が、ミスリルソードの魔力に当てられて開いたのであった。
「ぐうっ」
吸血鬼は苦しそうな表情をし、とうとううめき声を漏らした。
(今なら逃げだせる!)
ユフィは鎌から逃れ、扉に向かって走り出した。
しかし、足がもつれてその場に転倒してしまった。
まだ酔いが残っていたのだ。
「小娘がっ!」
吸血鬼が鎌を剣に変化させ、ユフィの背後から突き立てようとした。
「ユフィ!」
俺は盾で剣を防いでいるため、動くことができなかった。
ユフィが剣を突き立てられるのを見ているしかないのか。
だが、吸血鬼は苦しそうに胸を押さえて、その場に固まってしまった。
「剣を……しま……え」
そう命じると、親父は剣をしまった。
「はあ、はあ、死ねっ!」
俺はすかさずミスリルソードを抜いて、吸血鬼の方に走り出した。
ミスリルを感じた吸血鬼は再度苦しみだしたが、構わず剣を振り下ろした。
グサリ、と剣が突きさった。
ユフィの体に剣が触れた。
が、体を貫くことはできなかった。
一瞬早く、俺の方が吸血鬼に剣を突き立てていた。




