戦いの時!
ユフィを誘っておきながら、俺はためらっていた。
少しの間でも、ユフィを吸血鬼の前に差し出すことになる。
もし想定外のことが起こったら……
しかし、ユフィはむしろその作戦に協力的な姿勢を見せてくれた。
作戦を実行するにあたり、一番重要なのは手紙の内容だ。
手紙を吸血鬼に送って誘い出すことになるため、この内容が適当ではダメだ。
俺はユフィと二人で手紙の内容を練っていた。
「はじめまして、ユフィです。もしよかったら付き合ってください、はどう?」
どうと言われても……
「それってラブレターだよね?」
「あ、そっか」
ユフィはペンを鼻と口の間に挟んで考えるフリをしている。
……考えてるのかな?
こちらとしては、吸血鬼をホテルに誘い出して待ち伏せする形を作りたい。
だが、恐らく吸血鬼は簡単にこちらの準備したホテルには現れないだろう。
このホテルに待ち合わせしましょう、では怪しい。
では逆に怪しまれない方法があるのか?
もし相手が選んだ場所に待ち伏せすることができればどうだろう?
もちろん、吸血鬼の屋敷に連れ出されるとなると、分が悪い。
そこには親父もいるし、そこだけはこちらとしては避けたいところだ。
そこはユフィが行きたくない、の一点張りで回避する以外にないだろう。
「やっぱり食事に誘い出すのがいいと思う。そこで、もし相手が屋敷に招待すると言って来たら断るんだ。そして、もう一通返事を送る」
「そんなに食いついてくるかな?」
「確証はないけど、来ると思うよ。吸血鬼は若い女の子が好きらしいからね」
そういうとユフィはちょっと照れた様子で、やだーケイト、と言った。
俺が若い女の子が好きみたいになっちゃったよ。
とりあえず、内容は決まった。
私はあなたのファンです。一度お会いしたいので、お食事に誘ってもらえないでしょうか?
この手紙に加え、ユフィの写真も添えた。
数日後、すぐに返事が来た。
是非お会いしたい。
場所は私が経営している一流レストランにしましょう。
楽しみにしています。
といった内容であった。
時刻は明日の夕方。
待ち合わせ場所は議員会館の前だ。
ユフィはめかしこんで、議員会館の前に待っていた。
俺とポールは2人を尾行できるよう、警察の車で待機。
すると、建物から吸血鬼が現れた。
「はじめまして、ユフィ」
吸血鬼は、ユフィをエスコートして車の中に乗り込んだ。
少し感覚を開け、俺は警察官と共に、その車を追跡した。
到着したのは3つ星レストラン「シャンゼリア」である。
ここは本格ミラノ料理が堪能できるセントラル唯一のレストランだ。
俺は吸血鬼がこのレストランを選んだ理由を察した。
恐らく、禁酒を置いているに違いない。
吸血鬼が裏で酒を造っていることは知っているし、加えて自分の経営している店だ。
酒を勧めてユフィを酔わすのが目的だろう。
早速、警察官は近くのホテルを貸し切り状態にすべく、動き出した。
吸血鬼が選びそうな高級ホテルを満室状態にし、あえてひと部屋だけ空き室を作る。
ユフィにはこう言うようにいってある。
「酔っぱらったから、どこかホテルで休憩しましょう」
自然な流れなら、近くのホテルに連れ込むはずだ。
俺は先回りしてそのホテルに向かった。
一応、連絡係にポールをレストランに置いてきた。
レストランから、車で5分ほどのホテルに到着した。
受付に事情を説明し、鍵を受け取り103号室に向かった。
レストランでは、ウェイターが料理を運んでくるところだった。
「こちらが、当店自慢のミラノドリアです」
ユフィの目の前に、その料理が置かれる。
しかし、ユフィはドリアを食べたことがなく、戸惑っていた。
(これ、どうやって食べるのかしら?)
フォークとナイフを持って、表面に切れ目を入れた。
トロリ、と白い液体があふれる。
(これをすくって食べるのが正解?)
ユフィは、スプーンに持ち替え、それをすくって食べる。
「あっぢい!」
「ユフィ、ドリアはこうやって食べればいい」
吸血鬼が見本を見せる。
普通にスプーンですくって食べている。
何よ、それでいいの?と、スプーンで食べるが、もはや舌がやけどしていて味が分からなくなっていた。
(最悪……)
「ウェイター、例のものを」
吸血鬼がそういうと、ウェイターはしばらくして、ボトルを一本持ってきた。
ユフィの前にグラスが置かれ、注がれる。
「飲んでみなさい」
そう促され、恐る恐るユフィは目の前の飲み物を飲んだ。
「あ、甘い!」
「それはカクテルと言って、果実系の甘みのある酒だ。女性でも飲みやすい」
気づけは、ユフィはそれを5杯以上飲んでいた。
そして、自然とその言葉が出ていた。
「酔っぱらって気持ち悪いです、ホテルで休んでも……ウエエ」
「……仕方ないな、近くのホテルに連絡してみよう。大丈夫かい?」
吸血鬼が連絡を取り、レストランから出てくる。
すると、愛犬が吸血鬼のもとにやって来て、こう言った。
「あいつの匂いだ。これは罠だ」




