花火
ミスリルソードを受け取り、俺はある人物のもとに向かっていた。
同僚のユフィのところだ。
彼女は女子寮に住んでいて、警察本部の近くにそれはある。
物騒なのでミスリルソードは家に置いて、そのまま女子寮にやって来た。
女子寮の前に着くと、ポールが聞いてきた。
「おいケイト、男が勝手に入っていいのかよ?」
「え、いいんじゃない?ダメなのかな……」
言われて気が付いたが、どうなんだろうか。
しかし、せっかく来たので、バレないように素早くユフィのいる106号室に向かうことにした。
幸い誰ともすれ違うことなく扉の前に来れた。
コンコン、とノックする。
「はあい」
この声はユフィだ。
「ユフィ!俺だよ。開けてくれる?」
「ケイト!?あ、あんた何しに来たの?」
「頼み事があるんだ。中に入って話してもいい?」
すると、バタバタと部屋の中で音がし、10分ほど待たされた挙句、ようやく中に入れてもらえて。
「ずいぶん待ったけど、何してたの?」
「いや、あはは。部屋汚くってさ、入っていいよ」
部屋の中に通されると、確かに床一面にゴミやら服やらが散らかっている。
「オエエッ、クセエッ」
「ポール、失礼だよ」
でも確かに、ちょっと生臭い匂いがするし、何か飼っているのだろうか?
獣臭が漂っていた。
ペット禁止だよなあ、と思いながらも居間に通される。
居間は案の定、ほとんど座れる空間がなく、さっき急遽作ったと思われるスペースがあるのみだ。
そこにどうにか腰を下ろす。
「で、頼み事って?」
ユフィは食べかけのお菓子をほおばりながら聞いてきた。
「うん、実はさ、吸血鬼の討伐に協力して欲しいんだ」
「えええーっ、私が?」
「仲がいい女の子って君くらいだもの。吸血鬼を誘い出すのに君の力を借りたいんだよ」
俺は作戦の詳細を説明した。
それは、まずファンを装ったユフィが吸血鬼に手紙を送る。
そして、今度2人だけで会いたいです、といった内容を伝えおびき出す。
俺は待ち合わせ場所に身を隠し、ユフィが吸血鬼を連れ出してきたところを叩く、という内容だ。
なぜこの作戦を使うかというと、理由は2つある。
1つは厳重な警備の中をかいくぐるのは至難の業という点。
そしてもう1つは、親父が関係している。
今も親父は吸血鬼の側近として、ついて回っている。
もし中央突破でやつのもとに向かった場合、どうしても相手をしなければならない。
親父を斬ることは俺にはできない。
一晩考えた結果、この作戦に至った。
吸血鬼の女好きは結構有名だから、この手ならうまくいくだろうと思った。
ユフィはしばらく、首をかしげながらウンウン唸っていたが、やっと俺の方を向いてこう言った。
「じゃあさ、お祭りに行ってくれるならいいよ」
え、お祭り?
ユフィとお祭りに行けばいいの?
「お祭りに行けば協力してくれるってこと?」
「そうそう」
よく分からなかったが、とりあえず承諾した。
ユフィがお祭り好きだったなんて初めて知ったな。
帰り道、ポールにこう言われた。
「ケイト、それってデートの誘いじゃんかよっ」
「で、デートなの?俺たち付き合ってないんだけど……」
「付き合ってなくてもそういうのをデートって言うんだよっ」
俺は少し戸惑いながらも、その祭りに参加することにした。
祭りはセントラルから少し離れた河原沿いで毎年行われている。
俺は興味がなかったが、壁に貼られた宣伝のポスターは目に付くため、祭りの存在自体は知っていた。
当日、待ち合わせの夕方に女子寮の前で待っていると、ユフィが現れた。
「おまた~」
「うん、行こうか」
「って、ポールもついてくんの」
「悪いかよっ」
空は薄暗くなって来ていた。
このまま歩いて行けば、会場に着くころにはもう暗くなっているだろう。
祭りでは500発の花火が上がるらしい。
まともに花火を見たことなかった俺は、ちょっと楽しみだった。
しばらく歩くと、河原に到着した。
しかし、すでにいい場所は陣取られていて、後ろの方しか空いてない。
仕方なくそこに向かい、ユフィの持ってきた布を床に敷く。
「ケイト、花火ってどんなんだろうなっ?」
「俺だって見たことないから分からないよ」
2人で話が盛り上がってくると、突然ユフィが強い口調で話しかけてきた。
「ねえ!何で2人だけで話してるの?」
俺はびくっとしてユフィの方を振り向いた。
すると、なぜか目に涙をためている。
俺はめちゃくちゃ動揺した。
「ど、どうしたの?」
「なんで、ポールを連れてきたの?」
「何でって、こいつも花火が見たいって……」
「ケイトのバカッ!」
そう言ってユフィは走り出した。
このまま帰っちゃうの?と思った時、ポールが言った。
「ケイト、追っかけろ!」
「わ、分かった!」
俺はすぐさまユフィを追いかけた。
人混みに紛れる前に、どうにかユフィを捕まえることができた。
そして、
「はあ、はあ、ごめん、ポールはもういないから」
すると、ユフィは笑っていた。
「あはは、ずいぶん必死だったね!」
すると、ドーーーンという音がした。
真っ暗な空一面に、花が咲いていた。




