表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

銀子、下山する

きゃーーーー!

たーのーしーいー!


……はっ、ついはしゃぎすぎました。

犬は喜び庭駆け回り猫はこたつで丸くなる、って歌がありますけど、どうやら私は駆け回る猫のようです。


雪の精霊として転生して、5日がたちました。この間何をしていたのかというと遊ん……いえ、修行してました。嘘じゃありません。おかげで少しわざも覚えました。わざOpen!



木登り ?

ひっかく ?

甘える ?



はい、3つも覚えました!

ちなみにはてなマークを押すとわざの説明が出ます。私の場合念じると、ですけど。


木登りはそのまんま木登りができるわざ。ひっかくはそのまんま爪でひっかくわざ。甘えるはそのまんまごろにゃんと甘えるわざ。

私は思いました、思ってたのと違うと。内容がレベル低いポケ●ンレベルなんですよね。ギンコのひっかく!急所にあたった!とか言われてもおかしくありません。


まあどれも役には立つんですけど。私手足短めなので木登りも一苦労で、このわざがあれば失敗して恥を描く心配がなくなるわけで。ひっかくは敵がいないので使い道がないといえばないのですが、落ちてる木の枝とかひっかくのは楽しいです。爪とぎにもなりますし、精度を上げれば切り裂く、なんてわざも覚えられるかもしれません。ポケ●ンと違ってわざを何個でも覚えられるので、今後どんどん覚えていくとしましょう。


そして、甘える。これが一番役にたちました。


こんな寒い雪山に生き物がいるのかと思いましたが、いるものなんですよね。ふわふわの毛を持ったきつねさんとか、真っ白なうさぎさんとか、大きな犬みたいなたぶん狼さんとか。


狼さんに会った時はもう死んだと思いました。精霊は殺されることはないとわかっていても、目の前に獰猛な狼さんがいたらそりゃ食べられると思いますよ。その時思いっきり可愛い顔と動作をしたら、急に狼さんの顔が変わりまして、わかりますかね慈愛に満ちたような……可愛い子供を見つめるような顔になったんです。今思えばあの時にわざを覚えたのでしょう。

それからは甘えるを使いまくり、たくさんお友達ができました。みんな私より年上なので、なんか子守されてるような感じがしないでもないですが、楽しければそれで良し。


「きゅんきゅん」

「にぃ?」


雪にじゃれついたり自分の尻尾を追いかけたりしていると、きつねさんがやってきました。よく見るとうさぎさんと狼さんもいます。これきつねさんとうさぎさん狼さんに食べられちゃうんじゃね?と思うでしょう。ですが不思議、私と仲良くなると襲わなくなるんですね。友達の友達は友達的な?


「……」


うさぎさんは基本的に鳴かないのですが、鼻をひくひくさせて超可愛いです。無表情に見えて実は結構顔に出ます。


え、なに?今日も遊ぼうって?

仕方ないですねぇと返しながらも尻尾はピンと立っているので喜んでいるのがバレバレです。仔猫の体はすぐ感情が出るので嫌ですね。


今日はなにをしましょうか。おや狼さん、口にくわえているそれはなんですか?あ、ネズミですかそうですか。食べろって?せめて調理してくれないと食べる気にならないんです私。狩りを覚えろって?うーんわざは覚えられるでしょうけど、狩る気がないのでやめておきます。


結局狼さんがとってきたネズミはきつねさんが食べました。うわぁ、グロテスク……。私結構グロいの平気なんですけど、自分が血を撒き散らしながら食べようとは思えないんですよね。それに精霊はご飯なくても生きていけますし。食べれないこともありませんけどね。


それでどうしますか。今日も雪遊びですか?飽きた?でもここは雪しかないので……私は飽きないのかって?飽きたって思うんですけど、遊び始めると止まらないんですよね。自分でも不思議です。


うだうだ話していると、狼さんが自分の住処に連れて行ってやると言いました。でも狼さんって群れで生活してますよね。他の狼さんに食べられません?と聞くと自分がボスだから大丈夫だと言われました。意外とすごかったんですね狼さん。奥さんも紹介してくれるそうです。めっちゃのろけられました。リア充か!


私の住む洞窟は、限りなく雪山の頂上に近いです。頂上には精霊を祀る祠があり、そこに精霊はいると思われているそうな。すみません、そこに精霊はいません。だってあそこ落ち着かないんですもん。

狼さんの住処はここを少し降りたところにあるということだったのでみんなで走ります。私は仔猫で手足も短いので、当然走るのは遅いです。途中から狼さんに首根っこをくわえられてしまいました。力を抜いてぷらーんとすると楽しいです。


「ぐるる?」

「がうがう」

「がう!ぐるるー」


そいつらはなんだ?餌か?

食うなよ。いつも話しているだろう、精霊の赤子と友だ。

ああわかった!入ってもいいぞ。


そんな感じの会話を他の狼さんとして、狼さんは住処へと足を踏み入れました。そろそろ首根っこを離して欲しいのですが、ちゃんと他の狼さんたちに説明するまでは離してくれなさそうです。ちょっと過保護なんですよね。

狼さんの住処は、私が住んでいるのより大きめの洞窟がいくつもある場所にあります。洞窟の中に何匹かずつ住んでいるようです。狼さんの毛皮もなかなか立派ですが、吹雪いている中外で寝るのは流石に辛いのでしょう。


「ゔぅ〜〜……」


あれ、数匹の狼さんがこちらを睨んで唸ってますよ?ヨダレ垂らしてますよ?これ絶対食べる気ですよね?


「ガウッ!」


やめろ!とボス狼さん––––たくさん狼さんがいてややこしいので、そう呼ぶことにします––––が一喝すると、狼さんたちはびくっとしてしゅんとうなだれました。可愛いなぁおい!

ちなみに一喝した時に私の首根っこを離してしまったので、ボスンと雪の中に落っこちてしまいました。別に痛くありませんが痛いよ〜と鳴くと、きつねさんとうさぎさんがぺろぺろ舐めてくれました。嬉しすぎます。


というか私は精霊だからいいですが、きつねさんとうさぎさんは完璧に捕食される側ですよね?なんで狼さんの住処に来てこんなに平然としているのでしょう。

そう聞いてみると、ボス狼さんで慣れたと言われました。まあ見てみるとボス狼さんは他の狼さんと比べて一回りくらい大きいですし、ボス狼さんに慣れてしまえばたいていのことは怖くないですよね。しかもボス狼さん、めっちゃ強面ですし。


「ぐるる……」


どうやら話はついたようです。ボス狼さんが遊んで来いと鼻先で私を押し転がしました。

いつの間にか狼さんたちはめっちゃウェルカムな雰囲気になっています。ボス狼さんすげー。


「にゅ?」

「ぐるぅ」

「がうがう!」

「にっ!」


洞窟からぞろぞろと出てきた子狼さんが遊ぼうよーと誘ってくれました。もちろん遊びますよ!


そしてみんなで鬼ごっこを始めました。みんな私より大きくて足が速いので明らかに手加減されてますけど。


たーのーしーいー!



***



あ〜モフモフで気持ちいい〜。

前世の干したての布団を思い出す〜。


……けど、暑いですね。


「……にっ!?」


目が覚めると、辺り一面が灰色でした。驚いて小さく鳴くと、灰色のモフモフが唸ってもそもそと動きます。


そういえば、昨日散々遊んだ後、せっかくだから泊まっていくか?というボス狼さんのお言葉に甘えて子狼さんたちと一緒に寝たのでした。ここは住処の洞窟のひとつでしょう。辺り一面の灰色は他の狼さんたちだったわけです。



ミニメールが届いています



む、画面にまたもテロップが。

ちなみに画面は基本的には出ていなくて、私が見たいと思った時と通知がある時のみ出てきます。

でも、ミニメールの相手って神様くらいしかいませんよね?


確認してみるとやはり神様でした。あまり干渉しないって言ったばかりなのに。今回は動画ではなく文章のようです。

開いてみると、それは簡素なものでした。



銀子ちゃんへ

順調に適応してるようで安心です。でもできれば早くアイドル活動してね。雪山のみんなにとってはもうアイドルみたいなものだから、これ以上関係を深めなくてもいいよ。次は人間にチャレンジしよう。

P.S.マップを見るといいよ。



……えーっと、はい。

なんかすみません。


きっと私があんまり雪山生活を楽しんでるものだから、本来の目的を忘れてるとでも思ったのでしょうね。まぁちょっとは忘れてましたけど、おいおいしようとは思っていたのに。神様はせっかちなようです。

ですが、アイドル製造計画という名の神たちの遊びにも期間があるのでしょう。私が遊んでいる間にも他の人がナンバーワンアイドルに輝いてしまうかもしれません。そろそろ本格的に活動すべきでしょうか。


こんなノリなので怪しまれるかもしれませんが、私はナンバーワンアイドルを目指すことに結構な乗り気だったりします。アイドルって、女の子なら一度は憧れるものではないですか。そりゃ神様に望まれてるアイドルは私のアイドル像と少し、というかかなりズレていますが、要は癒し系アイドルを目指せばいいわけです。アイドルに変わりはありませんたとえ猫であっても。

それに人型の姿を得ることができれば、私の考えるアイドルにもなることができるはずです。この私の転生体ですから、きっと美少女でしょうし。


とにかくアイドルになろうという気は私にもあって、どうせやるならナンバーワンになってやろうという気概もあります。これでも割と負けず嫌いな方なので。願い事をひとつ叶えてくれるというのも魅力的ですしね。今は美桜に復讐することが願いですが、これから他に願い事ができればいいと思います。


さて、神様の言う通りマップを見てみましょう。よく考えるとマップだけ確認してませんでした。きっとマップを見てさっさと人里に下りて人間と接触しろってことなんでしょうね。まわりくどい。


マップを開きますが、この大陸全体を表しているので範囲が広すぎてよくわかりません。とりあえず、現在地を示す赤い丸の位置からしてこの雪山が雪精霊の山ということがわかりました。そのまんまですね。それと雪精霊の山を含む国がオスフェ王国という小国であることを確認して、マップを拡大します。

拡大したマップはオスフェ王国全体のマップのようです。オスフェ王国は小さな国なのでこの状態でもわかりやすいですね。


雪精霊の山は大陸の最北端に位置しています。ここから真南に降りていくとデイス、南東に降りていくとサムディナ、南西に降りていくとペインという街に出るようです。このうちデイスとペインは王都に面しており、王都は国の中心にあるので、このことからもこの国が小さいことがうかがえます。


一番大きな街はサムディナですが、他の街と比べて王都から遠く、あまり賑わってはいないようです。デイスは街というよりは町、cityというよりはtownって感じですね。ペインは大きさこそサムディナに劣りますが、ギルドもあり人口もこの中では一番多いようです。


色々悩んだ結果、まずはペインに向かうことにしました。人口が多い方がアイドル活動には向いているだろうということと、ゆくゆくは王都にもいかないといけないと思うので王都に比較的近いことが理由です。あと、山から降りてすぐのところに大きな門があるらしく、そこに雪の精霊の像が建っているそうなので、なんだか自慢げな気分というか。どや、私が雪の精霊様やぞ!って感じですかね。まあ今の私は喋らないので、精霊であることを伝える術は持たないわけですが。いずれは喋れるようになることでしょう。


では思い立ったが吉日と言いますし、早速今日からペインを目指しましょう!


「ゔぅ〜……」


おや、少し騒ぎすぎましたかね。子狼さんを起こしてしまったようです。

慌てて画面を消します。見えないとはわかっていますが、まあ一応。


「にぃにぃ」

「がう?」


昨日出会ったばかりとはいえ、この子たちにも別れの挨拶は必要でしょう。神様のことやアイドル活動のことは伏せ、今日ここを出なくてはならないこと、恐らくしばらくは帰れないことを伝えました。


「がうぅ〜……」

「ぐる……」


するとえらい意気消沈されました。なんか罪悪感がすごいです。行くのやめようかな……いやそれは神様に悪いですし。


「がうっ!」


そんなところにボス狼さん登場!


「がうがう!ぐるる」

「くぅ〜ん……」

「がう」


こいつにもやるべきことがあるんだ。それに一生会えないわけじゃないだろう。

お父さ〜ん……。

友人なら応援してやれ。


みたいな会話をしています。ボス狼さん超良い人!いや超良い狼!ダンディーです。

ていうか子狼さんってボス狼さんの子供だったんですか!?言われてみれば少し似て……いませんね、子狼さんの方が数百倍可愛いです。将来はボス狼さんのようになってしまうのでしょうか。悲しいです。


「にぃ」

「ぐるる……」


ありがとう、と伝えると、気にするな、と返ってきました。

お前にもすべきことがあるんだろう。ならば引き止めて邪魔をすべきではない。だが覚えておけ、ここにはみんながいることを。俺たちはいつでもお前を待っている。だから安心して行ってこい。


そんな内容をひと鳴きにまとめ、私をその大きな鼻先でつん、と押しました。


ボス狼さん……何コレめっちゃ泣きそうなんですけどーーーっ!

やだ急に行きたくなくなっちゃった!みんなと離れたくない!明日も明後日もこれからずーっとみんなと遊びたい!アイドル活動なんて知ったことか!人間は汚いじゃない、それを私は前世で知ったじゃない!なんでこんな良い動物たちと離れてまで人間と関わらなきゃいけないのーっ!


泣きそうどころかもう泣いてました。猫の姿で泣けることを初めて知りましたが、いつの間にか流れていた涙をボス狼さんが舐めてくれます。


「にっ……にぃにぃ!」


ホントはみんなと離れたくないの。人間の街に行くなんかイヤ。


泣きながら一生懸命意思を伝えます。ボス狼さんは何も言わず、優しく頷いてくれます。

一通り言い終えると、ボス狼さんは言いました。


お前が行きたくないなら行かなくても良い。俺たちはお前を歓迎しよう。だけど本当に、お前はそれで良いのか?


良くありません。私がここを離れないということは、アイドル活動を放棄したということです。神様は、わたしがナンバーワンアイドルを目指すことを条件に転生させてくれました。アイドル活動を放棄することはすなわち、神様との約束を破ることです。


落ち着いて考えると、やはり私はここを離れなければなりません。前世の私なら自分の感情なんて抑え込んで、笑顔でさよならを伝えるのなんて簡単だったはずなのに、なんで泣いてしまったのでしょうか。やはり生まれたての存在だからなのでしょう。なんだか恥ずかしいですが、感情を表に出すことができるようになって良かったとも思います。きっと、それが前世の私に足りなかったもののひとつだから。


やっぱり行く、とボス狼さんに伝えると、ならみんなにお別れを言わないといけないと言われました。言われなくてもそのつもりです。洞窟を出て、まずはお世話になった狼のみなさんにありがとうとさようならを言いました。子狼さんは少しぐずっていましたが、おとなたちは頑張れよ〜と声援を送ってくれました。ありがとうございます。

今度はずっと一緒に遊んでいたきつねさんとうさぎさんです。きつねさんは「きゅん……」と少し寂しそうに鳴きましたが、応援するように毛繕いしてくれました。うさぎさんは相変わらずの無表情ですが、鼻のひくひく具合からして悲しんでくれているようです。こちらは細い人参もどきをくれたのでひと口食べました。あまり美味しくありませんでしたが、せっかくくれたので旅の道連れにしましょう。


「にぃ〜、にゅにゅっ!」


みなさんありがとう、さようなら!


そう告げて私は住処を去りました。1週間にも満たない期間なのに、とても愛着が湧いてしまいました。きっと今の私にとっての故郷はここなのでしょう。そして、故郷とはいつでも帰れる場所なのです。


さて、目指すはここから南西の街ペイン。


アイドル活動開始です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ