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銀子、学ぶ

不意に目が覚めました。


私はあまり寝起きが良い方ではないのですが、今日はぱっちりと目が覚めて頭も冴えています。くぁと欠伸をして踏み出した足がとても小さく白いことに気付いて、ああ転生したんだったと思い出しました。


昨日自分が猫の姿になっていることを確認した後、私は吹雪から身を隠せるような場所を探しました。幸いこの姿は寒さを感じない––––厳密に言えば感じますが、それで震えたりするようなことはなくむしろ心地良い––––ので、とりあえず死ぬことはないと判断し、ひとまず休息をとることにしたのです。何せ精神的に疲れていたので。

そして見つけたのがこの洞窟。決して大きくはありませんが、仔猫1匹身を隠すには充分すぎる大きさです。


「にゅう……」


外を見ると、吹雪はおさまっているようでした。今は大粒の雪がしんしんと降っています。


猫の鳴き声というと「にゃー」のイメージが強いですが、私の場合「にー」とか「にゅー」とかが主です。「にゃー」も出ないことはありませんが、自然とは出てきません。「みー」も同じく。

思い返すと足無しの彼女は鳴いたことがありませんでした。いったい彼女はどんな風に鳴くのだろうと興味が湧いてきましたが、今となってはどうしようもないことです。


前世のことを思い出すとなんだかとても悲しくなって泣きそうになるので、できる限り思い出さないようにすることにしました。やはり私は情緒不安定というか、自分で感情を制御できなくなっているようです。それもこの世界ではまだ赤ん坊だからかもしれません。


ですが本当に、これからどうすれば良いのでしょう?

そもそも、私は普通の猫ではないようです。目の色も普通の猫ではありませんし、それは異世界だからと言い伏せられるとしても、普通の猫なら寝てる間に凍死しています。


ならばいったいなんなのか……そのくらいのことは教えてくれないと困ります。



ピロリロリン♪

ミニメールが届きました!



「にゅ?」


何か奇妙な音がしましたね。キョロキョロと辺りを見回しますが何も見当た……りました。私の右斜め前あたりに、透明の液晶画面が浮かんでいます。透明なので気付けませんでした。

なぜ気付いたのかというと、画面の一番上に『ミニメールが届きました!』というテロップが流れていたからです。異世界はなんでもありなんだなぁと思いながら、そのテロップを押します。


……あれ、反応がありませんね?

何度も何度も押しますがイマイチ手応えがありません。前足を見ると、ぷにぷにピンクの肉球が私を癒しました。って、こいつの所為か!


このぷにぷにの肉球、衝撃を吸収しすぎてうまく画面が認証してくれないのです。

ええい、私はミニメールが見たいのにぃーー!



ピコン♪

神サマ☆からミニメール(動画)が一件届いています

確認しますか?



おや、画面が変わりました。

どうやらタップしないでも念じれば動いてくれるようです。まったく早く言っていただきたい。


神サマ☆からのミニメールを確認する、と念じるとまたも画面が変わり、昨日見たばかりの神様の姿が映りました。というか神サマ☆なんてふざけたネーム、自分で付けたんでしょうか?棒読みのように感情の込もらない声でつらつらと話す神様は、それに似合わずおちゃめなようです。


『はろー銀子ちゃん。異世界生活エンジョイしてるかな?』


エンジョイなにもここに来てからまだ1日も経ってませんけどね……たぶん。ずっと雪が降っていて空は雲に覆われているので、どのくらいの時間が経ったのかよくわかりませんけど、体感ではまだ1日も経っていません。


『ちゃんと説明してないことがあったから、軽く説明しておくね』


ですよね、全然説明してませんよね。軽くじゃなくてしっかり説明してくれても構いませんよ。


『て言っても、ほとんど言うことはないんだ。今君が見ているこの画面、私が付けておいたオプションなんだけど、これにだいたいのことはプログラミングしてる。君の情報とか、この世界のこととか、地図とかね。少しゲーム仕様にしてみたから使い方はすぐわかると思うよ。ちなみにこの画面は他人には見えないから、ないものとして扱わないと変な目で見られるから気をつけてね』


変な目で見られるもなにも、私の周りに誰もいないんですけど。


『突然猫になっててびっくりしたと思うけど、今の君がいったいどういう存在なのか、それは後でこの画面で確認しといてね。でも良かったよ、トカゲとか選ばれたらアイドルは難しいと思うし。モモンガも良いけど、やっぱり猫が王道だよね』


確かに、トカゲでアイドルは無理がありますよね……いやちょっと待って、神様はこの姿でアイドルをしろと?確かに今の私は前世の私とは違う意味で可愛いですけど、私の想像していたアイドルと違うような……。


『また伝えたいことがあったらメール送るけど、基本私から干渉するつもりはない。そういうルールなんだ。だからしばらく異世界生活を満喫すると良いよ。もちろんアイドル活動も忘れずに。じゃあね〜』



––––プツッ。

動画の再生が終了しました。この画面を閉じますか? Yes/No



……本当に軽くしか説明してくれませんでしたね。

心の中でYesと念じて画面を閉じると、元の透明画面に戻りました。ですが左端にステータス、わざ、基本情報、マップという欄が追加されています。これが先ほど神様が言っていたやつでしょう。ひとまず自分のことを知っておいたほうが良いと思うので、ステータスを見ることにします。



名前:ギンコ

種族:精霊(雪)

称号:仔猫ちゃん



……ステータスと言って良いのかというくらい簡素ですね。こんなの自己紹介レベルじゃないですか。せめて血液型くらい入れてくれても良いものを。


というか、私って精霊だったんですか?雪の精霊……なかなか良い響きですが、称号にもある通り私仔猫ちゃんですけど。あ、もしかして最初にふわふわ漂ってた時のが本当の精霊としての姿なのでしょうか。精霊がいったいどういったものなのかよくわからないのでなんとも言えませんけど。


続いてわざを見てみます。ですが開けませんでした。どうやらまだわざを覚えてはいないようです。

まあ覚えれば教えてくれるでしょう。では基本情報にいきます。



この世界について

この世界は神アリシアスが管轄する世界であり、いくつかの大陸で出来ている。地球とは違い科学は発展しておらず、中世風ファンタジー的世界と思えば良い。



なるほど、よくある世界観ですね。短いですがわかりやすくてよろしい。



この大陸について

この大陸に正式な名前はなく、『精霊に愛されし大陸』と呼ばれている。その理由はこの大陸にのみ精霊が住んでいるから。その恩恵で、魔術師が生まれるのもこの大陸だけである。大陸にはいくつの国があるが、険悪な状態にはなく、共存している状態である。大陸の中央部には通称オアシスと呼ばれる場所があり、この場所のみどこの国にも属していない、人間不可侵の領域となっている。



この大陸って、私がいる大陸のことでしょうか。ここが大陸であるという認識もありませんでしたけど…….ああ、精霊が住んでいる大陸ということならここですね。私住んでますから。まだ1日ですけど。



精霊について

精霊とは、この世界において人間より神に近いとされる存在である。火、水、地、風、雷、光、闇、雪、花といった種類があり、どれが強いということもないが相性はある。しかし精霊同士が戦うことはまずない。人間の使う魔法は精霊の力を借りたものであり、精霊に認められないと使うことができない。また、精霊が住む環境が限られているのもこの大陸が『精霊に愛されし大陸』と呼ばれる所以である。

精霊の寿命は1000〜5000年程度。これは精霊の力が弱まった故の消滅であるため、死には当てはまらない。なお、精霊は基本的に動物の姿をとっており、成長すれば人型の姿を得られる。不可侵の存在であるため、触れることはできるが危害を加えることはできない。よって、自然消滅以外に世界から消えることはない。



精霊の説明だけ長いですね。私が精霊だから詳しくしてくれたんでしょうか。サンクスです。

とりあえず、私は雪の精霊であり、雪の精霊の動物としての姿が猫なのだろうということはわかりました。きっと、残りの選択肢のトカゲとモモンガも精霊の動物としての姿だったのでしょう。空きがないというのは、先代が消滅して今は世界にいない精霊の種類のこと、でしょうか?


もしトカゲかモモンガを選んでいたらなんの精霊になっていたのか気になりますが、雪の精霊というのはなんだか可愛らしい感じがするのでOKです。それにこの白い毛も、よく見ると少し銀が混じっていて白銀といった感じなので、私の名前にピッタリで気に入りました。実は、前世は髪も目も真っ黒だったのでちょっと恥ずかしかったんですよ。


さて、これからどうしましょうかね。洞窟から外を覗くと、相変わらず大粒の雪が降っています。


この世界で私がすべきことはアイドル活動でしょう。猫の姿でアイドルってどうすんだと思っていましたが、どうやら神様は猫の姿でアイドルになることを望んでいるようです。確かにこの愛らしい容姿なら皆さんの癒しになること間違いなしですが、なんだか私の望んでいたものと違います。

まあ成長すれば人型の姿を得られるようですし、それまでは猫として愛想を振りまくとしましょう。人型の姿は前世の私のように超キュートなはずです、きっと。


ですが今私が気になっているのが、開けなかったわざの欄です。どんなわざがあるのか、一刻も早く知りたい。私昔から好奇心が強いんです。そういえば好奇心は猫を殺すという言葉がありましたね。……死にませんよね?


いえとにかく、私はなんでも良いからわざを習得したいと思うわけです。どうすれば習得できるのかもわかりませんが、あまり手間取っていたらまた神様が連絡をくれるでしょうし、大丈夫です。たぶん。


ということで、わざを習得するがてら、この辺りを探索してみるとしましょう。今は吹雪も止んでいるので散歩には申し分ないですし、これからこの雪山は私の住処になるでしょうから、住処のことはちゃんと知っていないといけません。

それに、なんででしょうかね。なんだかすごくあの真っ白な雪にそそられるんです。積もった雪に埋もれたい。肉球の足跡つけたい。ちらちらと舞う雪にじゃれたい。


上機嫌の時、猫の尻尾はピンとまっすぐにたつと言います。きっと、今の私の尻尾は曲がっている先っぽを除いてピンとたっていることでしょう。


それではlet's go!

私は真っ白な雪の中に飛び込んでいきました。



異世界にきてからはっちゃけ気味の銀子ちゃんです。

これは銀子ちゃんの考察通り、いちおう生まれたてだから精神が成長しきっていないことと、前世のこともあってもっと自由に生きてやるとヤケになっていること、それと猫としての本能が原因です。ヤケになっているというよりは、本来の自分を取り戻したという感じですが……

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