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銀子、見守る



私たちが案内されたのは、鉱山の中でした。


といっても、実際に掘るような場所ではなくて、ちゃんと舗装された通路的な場所です。よほどのことがない限り崩れることはありません。


ゴーレム、というのは初めて聞きましたが、恐らく魔物の類でしょう。ここは雪精霊の山からそれなりに離れていますから、強い魔物がいてもおかしくはありません。弱い魔物は獣とさして変わらないので一般人でも充分討伐可能ですし、たくさんの鉱夫がいるはずのこの場所であれだけ狼狽えるということは、それなりに強い魔物なのでしょう。


何故中に入れられたのかというと、どうやら中で冒険者たちが会議をしているそうなのです。ヴィルさんのように依頼を受けた冒険者ではなく、一時的に鉱夫として働く依頼を受けた冒険者ですが。


それでも冒険者、しかも鉱夫として働けるくらいですから、体力はあります。鉱夫よりも戦闘能力も戦闘経験もあるでしょう。ゴーレムのことは彼らに一任しているようです。


先ほどの鉱夫たちと同じようにかたまって話している冒険者たちに、先ほどと同じようにヴィルさんが言います。


「冒険者ギルドの者です。状況の説明をお願い––––」

「ヴィル?」


聞き覚えのある声でした。

ヴィルさんは驚くでもなく、それが当然であるかのように、円を描くように座っている冒険者たち、その中の1人に視線を落とします。


「ああ、ギルド長が言っていた"助けになるかもしれない人"は、やはり貴方でしたか。まあ予想はしていましたが」

「いや俺は全然話についていけてねぇけどな。なんでお前がここにいる?」

「それは私が聞きたいくらいですよ、ガイアさん」


そう、我らがガイアさん参上です!

いやどちらかと言えば参上したのは私たちの方ですけど。


「にぃーっ!」


私は感動のあまり、ヴィルさんの肩からガイアさんへと飛び乗ります。

ガイアさんに会えないこの1週間、どれだけ苦痛だったことか……ヴィルさんは怖いし、何か面倒なことに巻き込まれるし!自業自得だとはわかっていますが、それとこれとは別です。理解はしますが認めません。


「うお、ギン!?なんで連れてきてんだよ!?」

「ギルド長に押し付けられたので。別に連れてきたくて連れてきたわけではありません」


ちょっとなんですかヴィルさん、まるで私を面倒ごとのように言って!

でも今は気にしないであげましょう、私はガイアさんにスリスリするのに忙しいのです。


「ん、ギルド長帰ってんのか?」

「ついさっきですけどね。……この話はひとまず終わりにしましょう」


そう言ってヴィルさんは私をガイアさんから引っ剥がしました。

ちょっとヴィルさん、私とガイアさんを引き離そうとは……


……あれ、ちょっと待ってください、離れた途端に恥ずかしくなったというか、改めて見るとやっぱりガイアさん顔怖いというか、何言いたいのか自分でもわかりませんけどとりあえずですね。


「にぃぃ……」

「おい、なんか急に俺怖がられてねぇか?」

「最初に戻ったかのようですね」


熱が冷めました。


ああ、別にそういう趣味があるわけでもないのに顔面凶悪な中年男性にスリスリするなんて……恥ずかしい……ちょっと変な臭いついた……。


恥ずかしいのを誤魔化すようにヴィルさんにスリスリしてなかったことにしました。臭いも消えて一石二鳥ですね。ヴィルさんの衣服は貴族御用達だけあっていい香がしますから。


いきなり始まった謎のやり取りにやや引いている冒険者たちに、ヴィルさんはぺこりと頭を下げます。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした。冒険者ギルドペイン支部から参りました、職員のヴィルヘルムと申します」

「お、おお……」


ヴィルさん、頑なに私については触れないつもりですね。冒険者たちはどう反応していいのか困っているようです。


「状況の説明をお願い––––しようと思いましたが。採掘中にゴーレムを掘り当ててしまい、暴れたゴーレムによって一部が崩壊、何人かが閉じ込められた、ということでよろしいですか?」

「うん、だいたいそんな感じ」


そう答えたのは、紺色の髪の男性でした。体格はヴィルさんよりも細くて、どう考えても冒険者という感じではありません。恐らくこの中では一番年下でしょう。


「そうですか。一応、皆さんの名前と扱う武器を教えていただけますでしょうか。ゴーレム討伐のヒントになるかもしれないので」

「いいよ〜。僕の名前はリンク。武器は杖と魔法かな」


そう言って紺色の髪の男性は傍に置いてあった大きな杖を持ち上げました。杖と言っても前世で世界的に有名だった魔法学校の物語で使うようなものではなく、最早鈍器の域に達しています。あれで思いっきり叩かれたらかるく骨折しそうです。


ですがヴィルさんが反応したのはそこではありませんでした。


「魔法、ですか?ということは貴方は」

「うん、この国の人じゃないよ。水の国から旅をして来てね、だから使えるのは水の魔法。あまり派手なのは使えないけど、それなりに便利だよ」


どうやらリンクさんは、この国の人ではないようです。水の国というのは、この国のお隣にある国です。この大陸の人は安直なのか、住んでいる精霊をそのまま国名にしてしまいます。なので私が今ここにいる国は、雪の国というわけです。


精霊が消滅すると、加護が消えます。すなわち、その精霊が消滅している間は魔法を使うことができません。

今の私には、人々が魔法を使えるようにするだけの力がありません。そのため、今は雪の魔法を使える人はいません。……まあ、皆さんは新しい雪の精霊がまだ誕生していないと思っていますから、私の事情は関係なく魔法は使えないと思っているようですが。


「俺はアレス、武器は剣だ」

「俺はディーン、武器は槍だ」

「俺は––––」


後は、時計回りに紹介してもらいました。


ヴィルさんを含め、ここにいる冒険者は8人。体格や年齢の差こそあれど、全員が男性です。

ギルド職員に女性がいることもからもわかるように、女性冒険者がいないわけではありません。ただ、男性に比べたら少ないのです。それに、鉱山での力仕事は、女性には向きません。


「……討伐隊が編成できないレベルではありませんね。後は相手の力量にもよりますが。ゴーレムの姿を見ることは可能でしょうか?」

「ああ、閉じ込められてる奴らの前でうろちょろしてるぜ。おかげで助けにも行けねぇが、刺激しなければこっちを襲って来ることもない。見に行くか?」


ヴィルさんは冒険者の1人の言葉に頷きました。冒険者たちの案内で、ゴーレムがいるその場所へと向かいます。


私は鉱山に行ったことがないので、どこの鉱山もこうなのかここだけなのかはわかりませんが、広い場所と狭い道が交互になっているようです。休憩や運搬の都合上の設計なのかもしれません。ゴーレムがいるのはそのうちの広い場所で、その奥の道に鉱夫達は閉じ込められているようでした。

広くなったり狭くなったりの道をひたすら進んでいると、冒険者の1人が声を潜めて言いました。


「……この向こう側だ。覗くんなら静かにしろよ」


勿論ヴィルさんがぎゃーぎゃー騒ぎながら入っていくなんてことはありませんが、念のためでしょう。ヴィルさんは頷いて、ゴーレムが見えるギリギリの場所まで近付きました。


ゴーレムは、言ってみれば古びたロボットのようなものでした。丈夫な金属が使われているわけでもなく、装飾されているわけでもなく、ただゴツゴツと角ばった体を動かして歩いています。人間の3倍ほどもありそうな背丈で、石でできた赤い瞳はこちらを見下ろしているようにも見えました。


「体長約5メートル、見たところロックゴーレムでしょうか、核は……一番頑丈なところですから胸か、或いは狙いにくい頭部ですかね。どちらにしろ末端から潰していく必要がありますが……」


じっとゴーレムを見つめながらぶつぶつと呟いたヴィルさんは、後ろに控える冒険者たちを振り向きました。


「鉱夫たちはいつから閉じ込められているのですか?」

「もう半日は過ぎてるだろうな。非常食はあるからまだ持つだろうとは思うが」

「精神的なものもありますからね、出来ることならあまり長引かせるべきではない。他の援護が来るまでにまだ時間がかかるでしょうし、では、」


ヴィルさんは一つ頷くと、事も無げに言いました。


「このメンバーで、討伐隊を編成してしまいましょう」




***




冒険者たちは、息を潜めて狭い道で構えていました。

ヴィルさんは、その一番後ろで剣を抜く事もなく立っています。勿論、その肩には私です。


どうすればゴーレムを倒せるのかを考え続け、結果「援護を待つべき」と判断を下した冒険者は、ヴィルさんの意見に反対しました。無謀な討伐は、犠牲を増やすだけ。彼の言うことは尤もです。

しかし、ヴィルさんに考えがなかったわけではありません。


「一刻も早く閉じ込められている人たちを助けたい、というのはあります。ですが、その所為で焦って無謀な戦いに挑むつもりは毛頭ありません」


ヴィルさんは腰にさした剣を少しだけ抜いて、また戻しました。


「ゴーレムは頑丈な身体が特徴です。こちらの攻撃は通らないし、あちらの攻撃は重い。––––ところで、この中にゴーレムと戦ったことのある方はいらっしゃいますか?」


手を挙げる人はいませんでした。前世ではゴーレムという魔物モンスターは割とメジャーだったように思うのですが、こちらではそうではないのでしょうか。


「ゴーレムは普通地表に住みませんからね、今回のような事故や討伐依頼がない限り戦うことはないでしょう。私は一度だけ討伐に参加したことがありますが、ほとんど役に立ちませんでした」


何度も言っていますが、ヴィルさんは強いです。直接その強さを目の当たりにしたわけではありませんが、今ギルド職員と働いているということは、そういうことです。


そのヴィルさんが役に立たなかったということは、それだけゴーレムという魔物が強敵であるということで、このメンバーで討伐するのは不可能なのではないかと思えてしまいます。

ですが、ヴィルさんは無駄なことは話しません。この後、全員を納得させるように論理を持ってくるでしょう。肩で期待を込めて待ちます。


「見ての通り、私の武器は剣です。剣は獣を斬り殺すには非常に便利であるのは確かですが、防御力が高い相手に対してはほぼ無力です。私が全力で振るった剣は、多少ゴーレムの身体を欠けさせることはできるかもしれませんが、相手を倒す前にこちらの剣が折れます。

逆に言えば、有利な武器もあります。たとえばガイアさん」

「ん?」

「少し武器を貸して頂けますか?あ、放り投げないでくださいね普通軽々と持てるものではないので」


ガイアさんは背中に固定していた武器を手に取り、ヴィルさんに渡しました。


初めて見たそれは、とても大きな戦斧でした。柄も太いし、刃の幅も広いです。そんでもって、すごく重そうです。ヴィルさんは両手で持つのがやっとのようでした。


「ガイアさんの武器は戦斧ですが、戦斧は……特にガイアさんのものは、斬ると言うよりは叩きつけるといった感じです。まあ厳密に言うと叩き斬る、ですが。

このように、刃物ではなく鈍器のような武器は、ゴーレムには有効です。こういった武器の欠点として小回りがきかないというのがありますが、基本的にゴーレムの動きはさほど早くないので問題はありません。例外はありますが、今回のゴーレムは恐らく大丈夫でしょう」

「でも、君を含めて、今いる冒険者の中では剣や槍を使う人の方が多いよ?僕のは鈍器といえば鈍器だけど、真骨頂は魔法だし」

「そう、今回はその魔法に活躍していただきます」


リンクさんの疑問に対して、間髪入れずにヴィルさんが答えます。まるで、その質問が来ることを知っていたかのように。


「ゴーレムの中にも種族があります。今回のものはストーンゴーレム、岩を主成分としたゴーレムの中では下位の種族です。そしてストーンゴーレムは、水との相性が悪い。貴方の魔法がどの程度であるのかにもよりますが、水を生成してゴーレムにかけるだけでも充分に有効です」

「なるほど」


リンクさんは頷いてそれ以上は特に何も言いませんでした。納得していただけてよかったです。

勿論自分の命がかかっていますから慎重になるのは当然のことですが、私としてもヴィルさんが––––と言うよりはヴィルさんのその判断が疑われるのは、面白くありません。私が信じるものを疑われるのは、私を疑われるのと同じことです。


ヴィルさんは決して無謀なことはしません。ならば、一刻も早く閉じ込められている人たちを助けるに越したことはありません。


それでも、疑う人が出てしまうのは、残念ながら仕方のないことで。


「だがそれでも、戦える奴は限られてくるだろ?鈍器じゃない武器の奴を除いたら、戦力は半減だ。どんなに理論が正しくても、絶対に安全とは––––」

「言えませんよ」


そう答えたヴィルさんの目には、ここに来て初めて感情という感情が浮かんだように感じられました。"呆れ"です。


「ですが、絶対に安全な場所などありますか?今私たちがいるここだって、いつ崩れるかわからないしいつゴーレムが襲ってくるかわからない。私は生存率より死亡率の方が高い戦いに向かわせるつもりはありません。ですが、危険でない戦いなどありますか?危険の代わりに報酬を得るのが冒険者です、安全を追求すればきりがありません」


私の前世の世界は、特に私の住んでいた国は、とてつもなく平和な場所でした。それでも、人はいつ何があって死ぬかわかりません。あの日の私のように。


この世界はあの場所よりもずっと危険で、あの場所に住んでいた私には、常に死の隣に生きているようにすら見えます。そんな、皆の隣にある"死"を少しでも減らしてあげるのが、冒険者の仕事なのだと、私は思います。本当は彼らも安全な場所で平和に暮らせるのが一番良いことなのですが、残念ながらそれは叶いません。冒険者が安全を求めれば、他の人たちが危険に晒されていくだけです。


そして、彼らもそれを知らないわけではないのです。ただ今この一瞬の間に、忘れてしまっていただけのこと。


「……ああ、そうだな。当たり前のことなのにすっかり頭から抜けちまってた。悪い」

「いえ、よくあることですから。人間は本来とても臆病な生き物です。危険を目の前にして、何も疑わずに挑んでいく方が人間としておかしいんですよ」

「おい、それは俺のこと言ってんのか?」

「いえいえ、ガイアさんとはそれなりの信頼関係がありますから、疑われても困ります。ただ普通、自分より年下であまり戦ったことがなさそうな奴の言うことは信用しません」


私でも疑うと思います、と言ったヴィルさんは自虐なのかなんなのかよくわかりません。

確かにヴィルさんはあまり戦ったことがあるようには見えず––––というか最近気付いたのですが、この世界では平民と貴族の間に大きな隔たりがあるよう思えます。勿論身分的なものもありますが、ヴィルさんと街の人たちを見比べると、明らかに何かが違うのです。だから、冒険者たちもヴィルさんが貴族であることは感づいていると思います。


そして、冒険者は貴族というか権力者を嫌う傾向にあります。貴族にも色々いますから仕方がありませんが、 ペイン支部を拠点としている冒険者のようにヴィルさんと交流がない限り、明らかに貴族であるヴィルさんを信頼する冒険者はそういないでしょう。

ギルド職員になるのがとても難しいということは知っていても、「金でも積んだんだろう」と思ってしまうのが冒険者です。貴族がそこまでしてギルド職員になるメリットなどないのですが、それに気付かないのもまた冒険者です。


要は少し、頭が弱いのです。それが彼らの良いところでもあるのですが。勿論みんながみんなそうなわけではありません。7割くらいの話です。

しかし、ここにいるのは頭が弱くても悪くはない冒険者のようでした。冒険者の中には、犯罪まがいのことをするチンピラのような輩もいるのです。


「いや、もう信用するよ。ガイアが信頼するくらいだから、有能なんだろう。正直俺にはそこまでの知識はねぇし、お前以外にまともな作戦を立てれるやつはいなさそうだしな」

「ありがとうございます」


笑顔を浮かべて、ヴィルさんは他の冒険者たちを見回しました。「てめぇらも異存はねぇな?」と言外に聞いているのです。

冒険者たちは快く、というわけではありませんが頷きました。先ほどの冒険者と同じで、それ以上に良い案が思い浮かばなかったからでしょう。


「では、詳しい作戦について話しましょうか。と言っても、説明する必要もないほどに単純な作戦なのですが––––」


それは、本当に単純な作戦でした。冒険者は勿論、私ですらそれで大丈夫なのかと思ってしまったほどです。


しかし、話を聞けば聞くほど、それが最善のように思えてきました。冒険者にとっても閉じ込められている人にとっても、最も安全で最も損がない。そういう風に作戦を立てているのでしょうが、私たちがここまで思えるのはヴィルさんの手腕によるものもあると思います。



そうして、最後には冒険者たちは快くこの作戦を実行することに賛成したのです。


「––––よし、行きましょう。レイさん突入してください」

「了解」


ヴィルさんが合図を出すと、冒険者の一人がゴーレムのいる空間に派手に突入しました。元からうるさい人ではありません。わざわざ音が立つように動いているのです。


耳があるのかは不明ですが、目の前で動いたり音がしたりすると、ゴーレムは反応します。しかし、ゴーレムは攻撃されない限り攻撃はしません。なんかいるなーと認識するだけです。

ですが今の目的は、ゴーレムの意識を完全に彼1人に向けること。レイさんは懐から短剣を取り出し、一本だけ投げつけました。


そんなものでは、ゴーレムの身体には傷1つ付きません。短剣は突き刺さりもせず地面に落ちました。

それでも、ゴーレムには攻撃されたと認識されたようです。ゴーレムは身体をレイさんに向け、そしてその太い腕を上から思いっきり叩きつけました。砂が舞い上がります。


「……っ、出来るなら早くしてくれ!逃げ続けるのもしんどい!」


砂煙の中から出てきたレイさんが叫びます。その間にもゴーレムはレイさんを追うので油断は出来ません。少し止まっては動く、上に跳ぶと見せかけて横に転がる、という風に変則的な動きをしてゴーレムを惑わします。


ここにレイさんを起用した理由はただ一つ。彼が冒険者の中で一番素早かったからです。

彼は短剣を好んで使う、実は男の冒険者の中では珍しいタイプの人です。力のない女性はともかく、男性は純粋な攻撃力を求める傾向にあります。剣と違ってリーチは短く、投げて使い捨てにしようとすれば金がかかる。そんなものを好んで使う人はまずいません。


レイさんはどのように戦うかというと、それは暗殺者に限りなく似ています。気付かれないように近付いて、気付かれないように命を奪う。しかし相手は人間ではなくケモノですから、気付かれることの方が多いです。そういう時に攻撃をかわし、命を刈り取る。或いは逃げるには、素早さは必須です。


「リンクさん、準備は大丈夫ですか?」

「うん、ばっちり」


とはいえ、レイさんの攻撃はゴーレムには通じません。だから彼はあくまでも引きつけ役、簡単に言えば囮です。


本当の攻撃は、これから。


「"滝"」


リンクさんが呟くと、杖がさす方向––––つまりゴーレムの頭上に何か靄のようなものが出来ました。

しかしそれに気付いたのも、もしかしたら私だけかもしれません。それだけ一瞬の間に、靄は大量の水に変わりました。


バシャバシャと音を立てて水がゴーレムを襲います。それはさながら小さな滝のようでした。


この世界の魔法は、創作の世界のように特別な詠唱を必要とはしません。ただ使いたい形状を頭の中で浮かべて、精霊による加護の力を込めればいいのです。

しかし、何らかの言葉を口に出した方が想像しやすいという人もいます。リンクさんもそのうちの1人なのでしょう。とはいえ、彼のはかなり短い方です。前世で中学2年生あたりの人がかかる病のような詠唱をする人もいるようですから。


ゴーレムは突然起こったことが理解できないようですが、水自体には何の攻撃性もありません。本当にただの水であって、ただゴーレムの体が濡れるだけです。

リンクさんはもっと攻撃的な魔法––––たとえば水を槍のような形にして猛スピードで敵に当てたり––––も使えるそうですが、今回彼に求めたのは水の"質量"です。攻撃になどならなくても構いません、ただゴーレムをびっしょびしょのぐっしょぐしょに出来ればいいのです。


「"水球""水球""水球"」


続いて、ただ水を球状にしただけのものを両足にひとつずつ、頭にひとつぶちかまします。ゴーレムは暴れますが、その動きが徐々に緩慢になっていきます。


すべてのゴーレムに共通する弱点は、あまり頭が良くないことと、動きが早くはないことです。ですが頭が良くないとは言っても、人間のように作戦立てて動けないだけであって、無謀な体当たりをしてきたりはしません。動きが早くないのも、体が頑丈ですから攻撃を受けてもあまり問題はありませんし、一撃当てれば充分相手を殺せるだけの腕力があります。


ですが、今回の相手はロックゴーレム。ゴーレムの中でも最下位に位置する種です。そのため、ひとつだけ致命的な弱点があります。


それは、水に弱いことです。

水を浴びせるだけで倒せるということはありません。けれど、水を含んだ岩は脆くなり、攻撃が通りやすくなります。


つまり、一人でも水魔法の使い手がいれば––––そうでなくても大量の水をゴーレムにかける手段さえあれば、倒さない相手ではないのです。


「これだけ濡らせば大丈夫でしょう。皆さんお願いします」

「「「おう!」」」


ここで、3人の冒険者を投入します。


一人はガイアさん、戦斧の使い手です。

二人目はダズさん、重そうなハンマーをブンブン振り回す筋肉ムキムキなお兄さんです。

最後にアレスさん、この中では比較的細身な剣士のお兄さんです。剣士なのに何故この中に入ってるかというと盾を持っているからです。盾は自分を守るためだけにあるのではありません、相手を殴るためにあるのです!


後は簡単、寄ってたかってガンガン攻撃すれば良いのです。勿論、ゴーレムもこの状況下で囮役のレイさんに執着するほど馬鹿ではありません。ですが水で脆くなっている岩を3人の男たちが袋叩きにすれば、どうなるか。


簡単です。

あっという間に壊れます。


ガガッだかドゴッだかよくわからない音がして、ゴーレムの右足が崩れました。次いで左足も崩れます。

足を失い倒れたゴーレムはそれでもぶんぶん腕を振り回しますが、それもガンガン殴って破壊します。ここまで来ると少し申し訳なくなってきました。ゴーレムだって、別に元々攻撃する気があったわけではなく、たまたま掘り当てられてしまっただけなのに……まあ今さらですけど。


両手両足を失ったゴーレムに、抵抗することはできません。解体されたまま起動したロボットのように、変な呻き声のようなものを出して捩るだけです。


「頭か胸に核があると思うので、そこを破壊すれば残りの体も壊れると思いますが。––––さて、ここからは商売の話です」


目の前で悲惨なことになっているゴーレムなど視界に入っていないと言わんばかりに、ヴィルさんは笑みました。今日見た中で一番良い笑みでした。ヴィルさんは、金が絡む話になると元気になります。なんで商業ギルドにしなかったのか不思議なほどに。


「ゴーレムの核は綺麗な紅の球体です。その美しさから宝石のように扱われることもありますし、その小さな球体が何故この大きな物体の動力となり得るのか、研究にも使われています。つまり、物凄く高く売れます」


ここにきて、冒険者たちの表情も変わりました。


「しかし、ゴーレムほどの強大な相手となると、核が採取出来るように手加減して戦うことは難しく、たいてい核は破壊されるか傷が付きます。そのためさらに希少価値が高くなっているわけですが。……貴方がたが核を採取してくれるのであれば、うち(冒険者ギルド)で手続きをして報酬に上乗せさせていただきます。勿論、貴方がたがそんな面倒なことはやりたくないと仰るのであれば、話は別ですが」


いかがしますか?と問われた冒険者たちは、顔を見合わせて一つ頷くと、ゴーレムに飛びかかりました。

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