帰還と爺さん
後一話で終わるとは何だったのか。ちょっとだけ続きます。
ひとまずは安全な事を確認した俺は、『アイテムボックス』の中からジョズを引っ張り出す。一応中を覗いてみたが、他の三人はまだ起きていないようだ。まあいろいろ大変だったし、無理もないか。俺も【神力(仮)】の反動抜きでも相当疲れた。
「うおっ!? 外か! 火竜は!?」
いきなり外に出されたからか、状況がつかめてない様子。まあ、いきなり右も左も良くわからん空間に投げ出されちゃ無理ないか。それに魔法がある世界と言っても、無重力状態なんてそんな簡単には味わえないよな。
「火竜は多分山に帰った……と思う。少なくとも俺達の方にも街の方にも行ってねえよ。大勝利だ」
いや倒してはないけど。逃げる事が目的だったのだから、見事逃げ切った俺は勝ったのと同じなんだよ。
「そうか……この後どうするんだ? 一旦街へ戻るのか?」
「取りあえず、援軍の冒険者達と合流だな。負傷者くらいはいるだろうが、火竜との戦いには巻き込まれて無いから、全員無事に撤退出来たみたいだ」
【索敵】で辺りを探ると、ここから2kmほど先に大量の人がいる。街に戻っているところを見ると、火竜の報告をする人だけ先に行かせて、負傷者を移動させているんだえろう。この辺りは視界も開けているし、すぐに見つけられるだろう。
「ってことで、俺は暫く弱くなってるからノワールの背中。ジョズは走ってついてこい」
俺はそうジョズに告げるとノワールに乗り撤退中の援軍と合流しに行く。後ろからは、「弱くなっても俺と同じくらい」とか「『アイテムボックス』の中に居たから冷えた」などと言っているような気もするが気にしない。ノワールが俺の事を気遣って、せいぜい小走り程度の速度に抑えてあるし大丈夫だろう。あんまり遅いと合流もできないしな。
「そういや、なんか【強欲の芽】が進化してたよな」
ノワールに乗りながら思い出した俺は、ステータスから【鑑定眼】を発動する。
[強欲の芽レベル3] 所有者が得られる経験値が五倍になる。また、所有者の経験値の半分を吸収する。
更に倒した相手のスキルのうち、自身が所有していないものを取得することができる。すでに持っているスキルについてはスキルの経験値が得られる。
また、目を合わせる、若しくは手で触れた相手のスキルまたは指定したステータスを奪う事が出来る(任意)。ステータスを奪う場合、10秒につき1奪う事ができる。
取得経験値の増加と、相手のステータスも奪えるようになったようだ。
10秒につき1奪うって言うのは若干地味に見えるが、例えば魔岩のような魔物ににへばりついて一時間いるだけで、ステータスが360も増える事になる。十分すぎるチートだ。後で試してみるか……
「そういや、結局なんであいつは【魔神の加護】が感知できなくなったんだ? やっぱ【神力(仮)】のせいか?」
俺は火竜の言動を思い出しながら考える。となると、やっぱり神の力っぽい何かが神の加護を隠したんだろうか。
ステータスを見ても別に加護が消えている様子はなく、念の為説明文も確認したが変わっていなかった。
「まあ、どうせそんな事がわかるのは火竜みたいな規格外だけだろうし問題ないか」
そうこうしているうちに援軍と合流する事ができた。大体30人ほどだろうか。火竜との戦いには巻き込まれなかったとはいえ、それまでの戦いで傷ついたり、俺が乱暴に投げたせいで結構な数の負傷者が出ていて、進行速度もそこまで早くはない。
その中でも怪我をしておらず、周囲の警戒に徹している冒険者の一人が俺達の事を見つけた。
「あっ、あんたはさっきの!」
その声につられて大勢の冒険者がこちらを振り向く。最初はいなかったノワールとジョズに戸惑っている人もいるようだが、誰かが馬に乗って凄いスピードで火竜の方へ向かっていく冒険者を見たと説明していた。
「あんた、大丈夫か? 怪我は? それに火竜は?」
最初に冒険者を率いていた隊長らしき人物が矢継ぎ早に尋ねてくる。そう言われてみて怪我を確認するが、ステータスは下がっているとはいえ、元々軽い骨折程度しかしていなかったので、いつの間にか【再生】スキルで元通りになっていた。
「怪我は大丈夫だ。火竜は多分寝床に帰った。少なくとももう襲ってくる事は無い」
俺が隊長さんに告げると、隊長さんはふっと息を吐くと、
「皆聞いてくれ! 火竜が襲ってくる可能性は限りなく低いそうだ! 警戒を緩めて、重傷者を運ぶのに人を回してくれ!」
それを聞いた冒険者たちは隊列を変え始める。普通だったら少しゆるすぎるくらいだが、この辺の魔物は魔物の波と一緒に片っ端から討伐されていたので問題は無いだろう。
俺は怪我が重く、歩くのに支障が出ている人に、魔力残量に気をつけながら回復魔法をかけて、応急処置をして回る。中には従魔士の人がいて、使役している狼の魔物を荷物運びに使っていたので俺も何か言われるかと思ったが、特に何も言われなかった。
「そう言えば、Sランクパーティーの『フェンリル』の三人はどうしたんだ? あ、いや別にお前を責めている訳じゃないんだが、やっぱり助からなかったのか?」
冒険者を治療している途中、そんな事を聞かれたが生きて連れてきているが今はいない、と適当に誤魔化しておいた。一応空間魔法は秘密だからな。
その後、山の麓に降りる頃には日が落ちていて、二、三度ほど魔物との戦闘があったがこれと言った問題はなく、俺達は無事にハーメルンへ帰還した。
街に入る途中、後ろの方に回ってこっそりと『フェンリル』の三人を取り出して置く。デリックは中で目が覚めていたようだが、他の二人はまだ眠っていた。
俺はデリックに簡単に説明をしつつ、この魔法の事はなるべく秘密にしておくようにと断っておいた。
「それじゃ、ギルドに依頼完了の報告に行くか。どうせ面倒なのが待ってるんだろうけど」
俺はそう言うと冒険者達に続いてギルドに入っていく。疲れたのでワイバーンの逆鱗だけ届けてとっとと帰って寝たいのだが、そう簡単にはいかないのだろう。
俺がギルド二階に行くと、ギルドは大混乱。いつもの五倍近くいる冒険者を、ギルドの真ん中で70歳くらいの爺さんがまとめているのが見えた。
「おお、帰ったか! 報告を聞こう。その前に……」
その爺さんは援軍に来ていた冒険者達が帰ったのを見つけると、咳払いをして、
「静まれっ!」
と、冒険者を一喝した。【威圧】か【咆哮】のスキルに加え、貫禄のあるその声でギルド内は一斉に静まりかえる。俺もちょっとびびった。それをみた老人は気を取り直して尋ねた。
「……それでは報告を聞こうか」
その声を聞いて隊長さんは報告を始める。
「はい。討伐隊52名はC+ランクパーティー『グランティア』の援軍として出発し、龍神の火山で千以上の魔物と衝突、Sランクパーティー『フェンリル』を筆頭に戦闘中、火竜が出現。『フェンリル』と『グランティア』の活躍により、負傷者は多く出たものの死者はなし、無事全員帰還しました」
報告はかなり簡潔な物だったが、一応今回の討伐隊の責任者なので形式的にやっただけで、おそらく報告のために一足先に帰還した冒険者によって報告は受けているのだろう。形って大事だしね。
「御苦労じゃった、今日はもう遅い。負傷している者もおるので今日はゆっくり休んでくれ。……皆の者! 聞いておったな! 後日、後処理も兼ねて偵察隊を出す。問題が無ければ火山の封鎖も解除になるだろう」
その言葉を聞くと、冒険者達がぞろぞろと帰り始める。俺も疲れたし、今日は帰ってゆっくりと身体を――
「ああ、すまんがアランと『フェンリル』の三人、後は『グランティア』の二人は残ってくれよ?」
ですよね。
グランティアについては63話「パーティーと依頼」を参照の事。作者以外にも忘れてる人がいるはず。




