魔王と尻尾
前話が短かったんでもう一話、次の更新は多分来月です。
体を少し斜めに動かし、首をこちらに向けてきた火竜。その鋭い目が俺の方に向いた。
「――っ!?」
うん、無理だこいつ。絶対負ける。このままブレスを放たれたら……死にはしないだろうが、大火傷だろうな。『フェンリル』の三人は跡形もなく消し飛ぶと思う。
そんな事を考えていると、火竜が口を開く。ブレスかと思い身がまえたが、どうやらそうではないようだ。
「……貴様か?」
とんでもなく低く、威圧感のある声で話す火竜。俺としてはドラゴンが話すことも驚きだが、何の事かさっぱり分からない。
「な、なんの話だ?」
その声に怯みながらもデリックが問いかける。みると体中に魔力を巡らせ、いつでも動けるようにしていた。
「お前では無い。その、妙な杖を持った男、お前だ。お前から、奴と同じ力を感じる。お前は、奴の僕か?」
火竜さんからご指名が入りました。が、なんの話かさっぱり分からない。奴と同じ力? 僕? 俺は誰かの下に着いた覚えはない。
「だから、なんの話だ」
その返答に火竜は腹を立てたようで、声を荒げる。
「惚けるでないわ! 貴様から感じる魔力、間違いない。矮小な種族の身でありながら、我が主に牙を剥き、命を奪い去った忌々しい男よ……」
鼓膜が破裂するのではないかと思うほどの声に、思わず耳を塞ぐ。それにしても、ますます話の意味がわからなくなってきた。こいつにさえ勝てない俺が、そのボスを倒す? 無理に決まってんじゃねえか、本当に何を言っているんだ。いや、だから僕って言ってるのか?
「火竜の主……火龍を倒した者? まさか、勇者のことですか?」
アルベルトさんが動揺したように呟いた。こんなときだが、一応竜の強さについて説明しておこう。
一番弱い竜種は、ワイバーンや飛竜等の亜竜と呼ばれる種族。竜種としては最弱で、Bランク程度の実力で狩ることができる魔物だ。
その次に弱いのは、下位竜と呼ばれる竜。これはAランクパーティーが10人もいれば狩ることができる、「確かに強いけど大国なら大きい被害が出るほどでもない」程度の魔物だ。
そしてその次が上位竜。都市ジェークルの付近にもいたようだが、S-ランクの冒険者が20人は必要らしい。俺でも一対一じゃ倒せるかわからない程度。「大国でもある程度の被害は覚悟しなければならない」魔物だ。
そして竜種の中で一番強いのが属性竜と呼ばれる、つまりこの火竜をはじめとした各属性を持った魔物。討伐の目安はSS+ランクの冒険者が50人いればぎりぎり倒せると言われている。ちなみに世界中にはSS+ランクの冒険者は二人、SSランクの冒険者が七人しかいないので実質討伐は不可能。「こいつがきたら国を捨てて逃げろ」レベルの魔物だ。
そんで一番強いのは龍種と言われる魔物。とはいってもむしろ神に近い存在らしく、見たことのある人間はいない。古代の文献によると、「こいつがきたら来世で幸せになれる事を祈れ」と書いてあるらしい。完全に諦めちゃったよ。
もし、火龍を倒したのが勇者だとすると、やっぱり異世界の魔力的なのが関係しているのだろうか。
しかし、どうやらその予想は外れているようだ。
「勇者! あの忌々しい小僧か! 確かに奴は、我が主を倒すだけの、実力はあるが、奴が倒したのは、地龍と闇龍だ。我が主を倒したのは、奴ではない」
勇者じゃない?……ていうか勇者、地龍と闇龍は倒したのかよ。人類最強とは言え、正面から戦ったら普通に死ぬだろ。
「我が主を倒したのは、魔族を総べる王、魔大陸の主、魔族最強の男……人間の間では、魔王等と呼ばれておったか」
火竜の口から告げられる衝撃の事実。勇者が龍種を倒す化け物なら、魔王もまた化け物だったか。俺だったら死ぬまで修練しても魔王に勝てる気がしない。
「……ん? 俺と魔王に同じ力が通っている? どういうことだ?」
次から次に疑問が湧いて出てくる。俺にそんな化け物と同じ力が宿っているとは思えない。
「理由は知らぬ。しかし、貴様に、奴と同じ力が宿っている事は、確かだ。が、別に魔力の波動が似ているわけでは、無い。そして、貴様が、奴と比べれば、塵芥程度の存在だと言うことも、分かった」
そりゃそうだ。そんな化け物と比べられても困る。それよりも、この隙にステータスでも覗いておこう。
[火竜 lv12000くらい(詳細)
【生命力】2,500,000/2,500,000くらい(詳細)
【魔力】1,800,000/1,800,000くらい(詳細)
◆スキル
[神速 lv2]
[強靭 lv9]
[魔力支配 lv7]
[回復魔法 lv5]
[竜力 lv9]
◆エクストラスキル
[火精魔法]
[竜魔法 lv7]
◆固有スキル
[竜王覇気 lv9]
[竜眼]
[竜再生 lv5]
[絶倫 lv8]
◆称号
[竜王]
[強くてニューゲーム]
[下剋上]
[龍に近づきし者]
[魔物の天敵]
[人族の天敵]
[獣人の天敵]
[魔族の天敵]
◆加護
[火龍の加護]
]
[神速] 思考速度を高め、全てを見切る。また、発動中は魔力の消費と引き換えに敏捷のステータスが(スキルレベル+1)倍になる。
[強靭] 【剛腕】【豪脚】【跳躍】【金剛化】のスキルが龍の力で統合されたもの。
[竜力] 発動すると10分間、運以外のステータスがスキルレベル倍になる。但し効果が切れると丸一日ステータスが10分の一になり、ステータス低下期間が終了するまで再発動ができない。
[竜魔法] 竜独自の特殊な魔法を使うことができる。
[竜王覇気] 竜の力で威圧をする。
[竜眼] 【鑑定】【看破】【遠見】【夜目】の効果に加え、獲物へ自動的に焦点が合うようにすることができる。
[竜再生] 竜の力で傷を癒す。他の生物が持つ【再生】スキルに比べ、再生速度が速い。
[竜王] 龍に加護を受け、属性竜に進化した竜に贈られる。龍の近くで戦う場合、運以外のステータスが1.2倍になる。
[龍に近づきし者] 属性竜の中で最も強い個体に贈られる。自身よりレベルが下の者と戦う場合、運以外のステータスが1.1倍になる。
[火龍の加護] 取得時に【竜力】のスキルレベルが一上がる。また龍および竜以外の種族との戦闘時、全ステータスが1.5倍になる。
その他天敵系の称号は俺の持つ【魔物の天敵】と同じような効果なので割愛。ちなみにステータスの値に書いてある「くらい」と言うのは、端数が多く、見づらい場合に自動的に有効数字二桁で表示してくれると言う、【鑑定眼】による機能だ。
……とにかく、めちゃくちゃなチートだ。て言うか誰だよスキルレベル9は勇者と魔王クラスって言った奴、絶対ウソだろ。そりゃこいつより強い龍、そしてそれ以上の力を持つ魔王と比べたら塵芥どころか数値の誤差にもならないだろう。今だって、俺に向いているスキルによるものではない、体から漏れる魔力による威圧で膝が震えそうになっている。他の三人については膝をついてなんとか火竜に目を向けられるといったところだ。
「……しかし、彼はどう見ても魔族には見えませんね。だとすると魔王の転生体? さすがにあり得ない。【魔神の加護】でも持っているのでしょうか。いや、それこそあり得ませんね。あれを人族で持っていたのは過去に処刑された邪教徒の大司祭だけなはず」
ぶつぶつとアルベルトが考えを巡らせては否定しているが、その中に答えがあったよ。【魔神の加護】ってそんなレアなの? 持ってたら処刑とかされないよね?
「我の送り込んだ僕が、悉くやられていくので、どんな危険な相手かと思えば……どうやら、取るに足らない、雑魚だったようだな」
火竜の言葉と共に、俺に向かって無意識のうちに少しだけ強くなっていた――火竜にしてみれば、の話だが――威圧が弱まるのを感じた。あれ? これってもしかしたら見逃してもらえるん――
「が、万が一、脅威にでもなると厄介だな。潰しておくか」
その直後、無造作に尻尾が俺達に向かって振り下ろされた。
火竜さんの主さんの火龍さんを倒しちゃう魔王さんと勇者さんぱねえ。そんな高みに今代の勇者がたどり着けるんですかね。




