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ワイバーンと逆鱗

なんかいつもより時間がかかってしまったと思ったらいつもの倍くらい文字数がある事に投稿するときに気付いた。

 ハーメルンに来て一週間が経つ。現在は冒険者ギルドで久々に依頼を探している。


残念ながら勇者に関してこれと言った収穫はなかった。


 まあそれでも、今までずっと移動を続けて、一週間も同じ場所にとどまると言うこともなかったので純粋な観光としてもいろいろなところを見て回ることができた。


 その中でも米があったのはうれしい。思わず金貨一枚分も買ってしまった。最近はお金も少なくなってきているのに何をやっているんだとジョズに怒られてしまったが、日本人としてこれだけは譲れないんだ。


その場その場で魔法を使って炊く予定だが、素材があるならば飯盒とかも作ってみたいと思っている。【錬金】のスキルも持ってるしな。


 とにかく、最初に商人が持ってたお金も少なくなってきて、旅の途中で拾ったアイテムとかをちびちびと売却していたのだが、だんだんと家計が危うくなってきた。


 そんなわけでギルドの依頼が貼ってある掲示板を見に来たのだが……


「……人が多いな」


 とにかく人が多い。ジェークルではこんなことなかったんだが……軽い気持ちで行ったら完全に出遅れてしまい、全然前に進めない。


 仕方がないので後ろから【遠見】スキルを使い上の方に掲示されている依頼を探してみる。こうしてみるとジェークルと依頼の種類が微妙に異なっているのがわかった。


都市ジェークルではCランクから護衛依頼が増えるのに対して、ここでは護衛任務はB-以上の依頼がほとんどだ。


 これはジェークルと比べて魔物が強いと言うことに繋がっているのだろう。ギルドの外に出ると見える龍神の火山周辺は平時でも強力な魔物が出るらしいからな。


 それに加え、Aランク以上の依頼がやたらと多い。これも地域によるものなんだろう。下位(レッサー)(ドラゴン)の討伐、飛竜から出る鱗がほしい。ワイバーンのレアドロップを求める、等など。


 俺はその依頼を眺めながらジョズに尋ねる。


「なあジョズ、ワイバーンのレアドロップでワイバーンの逆鱗ってどんなものだ?」

「兄貴はここから見えるのか……ワイバーンの逆鱗ってのはワイバーンの首元に付いてる、逆鱗ってところを剣で刺さないと落ちないアイテムだな。ドロップ率はそこまで低くないけど、空を飛ぶ性質からなかなかやりにくいから依頼としては高ランクのはずなんだが……」


 俺はそれだけ聞くとジョズを残して押し寄せる冒険者の一団に向かって突撃する。とはいってもさすがにAランク以上の冒険者は少ないので苦労はしないが。


 比較的楽に依頼の紙を取ってきた俺はそれをジョズに見せつける。それを見たジョズは絶句した。


「Aランクって……さすがに無理だろ!? そもそも短剣でどうやったらワイバーンの逆鱗を刺すんだよ!?」

「大丈夫だジョズ。俺も昔似たような経験をしたけど意外と何とかなった」


 一度だけダンジョンで空を飛ぶ魔物を短剣で仕留めた事があったな。ジョズは気付いていないだろうがその当時の俺と同じくらいの実力は持ち合わせている。俺も適当にアシストするつもりだしなんとかなるだろう。


 その後、やはり大量の人がいる受付に30分ほど並び、受付嬢に不安がられつつも依頼を受理してもらい、ギルドを出発した。依頼の詳細は以下の通り。


 Aランク依頼。ワイバーンのレアドロップ、ワイバーンの逆鱗2枚


 期日……後[4]日。備考……ワイバーンは龍神の火山の麓付近に生息する。報酬……[大金貨2枚]


 依頼主……匿名(商人)


 ワイバーンの討伐依頼はBランク程度。繁殖期以外はほとんど群れる事がないので倒す事自体はそれほど問題では無い。


「となると問題は倒し方だよな……確か逆鱗って体の外側に出ている中で一番頑丈な部位なんだろ? て事は魔法で挑発、遠距離から魔法か投擲で弱らせつつ動きが鈍ったところを全力で短剣を突き刺すってとこか。いけるな?」


 俺はジョズに確認の意味を込めて問いかける。


「今の俺なら、雪霧があれば全力で突き刺すだけの隙を作れれば行けると思う。後は遠距離攻撃次第か……どうせ俺一人にやらせるんだろ?」


 さすがに俺とずっと旅をしてきたおかげか、俺がジョズとワイバーンの戦闘に関わる気がないことくらいは分かっているようだ。むしろそのくらいは一人で出来てもらわないと困る。


「ノワールもつれて、逆鱗を一人一枚が最低の目標だな。さすがにお前の所に複数体がいかない程度の配慮はしてやろう」

「どうしよう……それが普通だと思える自分が怖い!」


 まあAランクの依頼だからな。普通のC+ランクの冒険者が挑むには無謀なんだろう。


「安心しろジョズ、ここハーメルンは強い冒険者が多いからな。A+ランク相当の人間は割といる」


 まあ冒険者じゃない、一般人からしたらCランクでも十分に化け物なんだけどな。



 その後、ノワールを連れて龍神の火山へ向けて旅立つ。麓だけならともかく、上の方には本気でやばいような魔物がそこら中にいると言われているその山は、ハーメルンのどこからでも見ることができるほどに大きい。高さは富士山よりちょっと低いくらいだろうか。


 山の麓へは歩いて40分ほどで着いた。今俺たちがいるところは舗装された街道になっているが、特定の時期には竜が活発に活動する為、その時期に合わせて封鎖されるらしい。


「一応ここにもワイバーンが出てくる事はあるけど、滅多にないらしいから少しだけ上に登ることになるな。俺がここを通った時は運悪く出くわしたけど」


 ジョズは昔を思い出すようにして言う。前に聞いた話ではその冒険者は三体を同時に相手取っていたらしい。その冒険者はなかなかの手練だったようだ。



 【索敵】を使って周りを警戒しながらも二人と一頭で山を登っていく。山には木はほとんど生えていない。百年以上前に大きな噴火があって土地が禿げてしまってから、全く植物が生えてこないらしい。この地面は完全に溶岩で固まってしまっているようだ。


しばらくすると【索敵】に反応があった。数は三体、いずれも空を飛んでいる。このまま行けば接触することになるだろう。


「ジョズ、丁度正面から一体、前斜め右から二体の反応あり。多分あと10分くらいで接触すると思う」


 それを聞いたジョズは周りを見渡し、比較的大きな岩を見つけるとその傍まで寄って行く。


「取りあえずはここで待ち構える。地面もそこまで動きにくくないし、岩が空からの攻撃を邪魔してくれる」


 ワイバーンの攻撃方法は完全な物理攻撃のみ、つまり突進と爪をつかった攻撃くらいだ。ブレスなんて吐かれたらたまったもんじゃない。俺の中のブレスと言ったらキメラのブレスしかイメージできなくて軽く恐怖の対象になっている。


 また、ワイバーンの逆鱗はほかの部位より確かに硬いが、そこを貫けばほぼ確実に死ぬらしい。まあ、だからそこを守るために硬くしているのだろうが。


 まずは岩の陰に身を隠し、不意打ちができる状態にして置く。ノワールの体は隠しきれないので取りあえず幻覚魔法を使って姿を隠している。


「まずはジョズが正面から来る一匹に対して魔法を使って挑発をする。その後、斜めから来るワイバーンに俺とノワールで攻撃して仕留める。いいな?」


 そこから数分経ち、俺が【遠見】を使って視認できるようになるまで近づいてくると、ジョズも存在に気付いたようだ。


「そろそろ見えてくるな……火の精よ 全てを焼きつくす豪炎の――」


 ジョズが詠唱を始める。最初の一撃を構えられると言う優位性を生かして時間がかかる強力な魔法を唱えていく。


 やがて、ワイバーンがスキルなしでも目視できるほどに近づいてきた。大きさは4mから5mほど。体は鱗におおわれていて、首のあたりに一つだけ色の違う、ひと際大きい鱗があるのがわかる。大きさは縦30cm、横20cmほどの楕円形。あそこが逆鱗なのだろう。やはり一番有効なのは動きを止めて倒すことか……


[ワイバーン lv65

【生命力】640/640

【魔力】201/201


◆スキル

[咆哮 lv4]

[夜目 lv2]


 ◆固有スキル

[火炎耐性 lv2]

]



「――敵を貫け『サウザンドフレイムミサイル』」


 ワイバーンが射程圏内に入ると同時にジョズが詠唱を完了させる。その直後に現れた大量の火のミサイル――見た目は槍だな――がワイバーンめがけてぶつかっていく。かなりの威力があるが……まだ死んではいないようだ。しかしそれでも大ダメージを負ったのだろう。こちらめがけて墜落してくる。


 俺はその様子を見るとジョズの方は問題ないと判断し、ノワールと自分の獲物を狩りに行く。二匹のワイバーンもすぐ近くまで来ていたようだ。


「ジョズと同じように魔法で弱らせるってのも芸がないしな……よし、『空中歩行(エアステップ)』」


 俺が詠唱と同時に【跳躍】のスキルを使って跳び上がる。強化されたステータスとスキルのおかげで、一瞬にしてワイバーンの上方に現れた。


 そのまま魔法でだした足場を頼りに方向を調整して、【跳躍】と【豪脚】のコンボでワイバーンにタックルをかました。普通だったら俺の方がダメージを受けるんだろうが、そこはステータスと【金剛化】を信頼している。


 俺のタックルによって体勢を崩したワイバーン。そのまま短剣を懐から取り出し、魔力をこめてワイバーンの逆鱗に突き立てた。


 使う機会がほとんどないから俺自身忘れかけていたが、俺の持つオーガソードには魔力を込めると熱を帯びるという性質を持っている。その温度は最高で摂氏2000度。実は柄も金属なので最大温度にしたら【金剛化】なしでは熱くてとても持っていられないという欠点もあるのだが、使いこなす事ができれば非常に強力な武器だ。


 尤も、この状況で熱を帯びる必要があるのかは微妙だが。


 俺がワイバーンの逆鱗に短剣を突き立てるのと同時にワイバーンの体が端から光の粒子になって消えていく。よく考えたら落ちる時のことを考えていなかったな。


 俺はそのまま落下し、地面にたたきつけられる。今日も【金剛化】さんがいい仕事してくれている。あんまりこれに慣れ過ぎるのも良くないのかもしれない。


 俺とほぼ同時に落下して来たドロップ品を確認しておく。

[ワイバーンの鱗


 ワイバーンから高確率でドロップするアイテム。

 ワイバーンの鱗とワイバーンの革はどちらか一方しかドロップしない]


[ワイバーンの魔石


 ワイバーンからやや低確率でドロップするアイテム。

 魔力を込めることができるが一定以上の魔力を注ぐと壊れる(0/85)]


[ワイバーンの逆鱗


 ワイバーンの逆鱗を貫いた状態で倒したときのみ、ドロップするアイテム。

 熱に強く、加工して窯などに利用される]


 よし、ノルマは達成したな。尤も、俺の場合は運がありえない程に高いので倒す条件さえなんとかなれば確実にドロップするが。


 俺はそれを確認して『アイテムボックス』に放り込み、ノワールの戦いを見る。


 片割れのワイバーンが突然倒されたことで動揺しているワイバーン相手に【威圧】を使い挑発を掛ける。


 するとワイバーンも負けじと【咆哮】をするとノワールにめがけ急降下する。しかし、実際には全く見当違いの所へ突撃している。ノワールの幻影魔法だろう。


 ワイバーンはノワールの体がすり抜けたことにより幻影であることに気付いたようだが、一度スピードの付いた物は簡単には止まれない。


 そこに新しく覚えた無魔法の『衝撃波(インパクト)』で容赦なく追い打ちをかけ、地面にたたきつけられたワイバーンの逆鱗めがけて前足を振り下ろす。

 ノワールの足はワイバーンの鱗を簡単に貫通し、絶命させる。人間で言うと正拳突きで鱗をぶち抜くような物だ。ワイバーンを倒す姿は多分俺よりも威厳があるんじゃないだろうか。


 戦闘が終わり、ノワールがドロップ品を確認するとがっかりしたような仕草を見せる。どうやら逆鱗はドロップしなかったようだ。しっかりと鱗に穴が開いていたので倒し方の問題ではなく、運が悪かったのだろう。


「まあそんなに気にするなって、すぐに次が来るさ」


 俺はノワールを慰めるように言う。実際に【索敵】の範囲を広げればいくらでもいるのだ。ざっと半径3kmにいる魔物の姿を洗ってみると、20……いや、25体は居る。むしろ少し多すぎるんじゃないかと思うほどだ。


 そのうちこちらと接触するであろうワイバーンの方向をノワールに教えてやり、ジョズの元へ戻る。ジョズの方はすでに終わっていたようで、ジョズの手にはワイバーンの逆鱗がある。


「おう、そっちは無事ドロップしたみたいだな」

「ああ、兄貴はドロップしたのか?」


 俺がジョズに労いの言葉を掛けながら岩に腰を下ろす。


 「俺はドロップしたな。ノワールの方はドロップしなかったから次に来そうなワイバーンを仕留めに行った」


 俺が言うとノワールがいない事に気付いたようだ。


「そうか。まあ、ノワールなら戦闘は問題ないと思うけど、探すのが面倒になるだろうな。確かにこの火山には多く生息するが、まだこの辺りじゃなかなか遭遇しないと思うぞ」

「そうなのか? こっちに接触するルートを飛んで来てるワイバーンも何体かいるが」


 俺は【索敵】の内容を思い出しながら聞く。俺の印象ではあまりエンカウント率が低い用には感じられない。


「ん? そんなはずはないんだが……普通はこの辺りにいるのも珍しいはずだ。現に元の予定ではもっと上の地域を目指す予定だったんだ。兄貴の【索敵】にはどのくらいの反応があったんだ?」


 え? この辺りってワイバーンは本来来ないものなのか? 【索敵】じゃ見るからにワイバーンが住みついています。って感じだったんだが。


「ちょっと待ってろ、もっかい【索敵】で……あれ? さっきより増えてるな。俺を中心に球体で半径3kmの範囲ではワイバーンっぽい反応が30個(・・・)あるな」


 この結果を見れば俺にもわかる。群れる事のないワイバーンがこの短時間で5体も近づいてくるなんていうのはおかしい。ジョズの顔を見ると深刻そうな顔をしていた。


「明らかに異常事態だ、ここ周辺の魔物が活発になる時期にしても早すぎる。ノワールを連れて一度ギルドに戻ろう」


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