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おっさんと情報

 俺が振り返るとそこにはなかなかしっかりとした装備をしたおっさんが一人。


 何かこう……うまく説明できないのだが、人を威圧させるような、それでいて何か引き付ける力を持っているような、そんな不思議な人だった。べ、別に、私にそっちの趣味があるわけじゃないだからねっ!


「ええ、4ヶ月ほど前から旅をしていまして。都市ジェークルって所から来たんですが……」

「ほう、都市ジェークルから? そんな距離をたったの4ヶ月で着たのか。ってことはお前さん達、相当な手練れのようだな」


 はたして都市の名前だけで伝わるか少しだけ不安に思ったが、どうやら通じたようだ。ジェークルの知名度が高いのか、このおっさんが博識なのか。


「おっと、自己紹介がまだだったか。俺はレオンハルト、この通りどこにでもいるおっさんだ。レオンでいい」


 なかなか気さくな人だ。だけど風格からしてその辺にいるおっさんとは思えない。ベテラン冒険者か何かか?


「あっ、俺はセイイチと言います」

「俺はジョズです」


 俺達も一応挨拶を返しておく。


「おう、それにしても四ヶ月前から旅ってことはこれの情報のために来たってわけじゃないんだな。尤も、今更商人がこれの情報を探りに来ても遅すぎるが」


 おっさんは指で紙が入っている額縁を叩く。そんなに強くたたいて大丈夫なのだろうか。


「ええ、昨日の夜にこの国に入ってきて、宿で初めて聞いたんです」


 別に隠しごとがあるわけでもないので正直に話す。するとおっさんが質問をしてきた。


「ふむ、お前さんたちはこれを見て何か思った事はあるか?」


 ……思った事?


「え? まあ別に、なんか大変そうだなあと……」


 そんな間の抜けた答えを返すジョズ。対して俺は一応考えながら答えを出す。


「そうですね、気になった事があるとすれば……確かに出発したのは17人と書いてあるのに、召喚されたのが17人と書いていない所ですかね? こういうのに疎いんでよくわからないですけど……」


 少なくとも俺が一緒に召喚されてなければ絶対に気付かなかったな。


 だが、どうやらおっさんは俺の答えに満足したようで、周りに聞こえないように少しだけ声を落として話しをする。


「なるほど、なかなか鋭いな。この国が管理している情報屋に聞けば手に入れられる情報だが、実際にはそれ以上の勇者が召喚されたようだぞ」


 そんな情報を話していいのかと思ったが一応情報屋という所に行けば知ることができるらしい。尤も、基本的に中立を守っている国がほいほいと他人の国家の情報を公開できないように、情報の値段は一般人では到底手の届かない金額になっているらしいが。


「そう言えば、出発したのがいつ頃かも書いていないんですか?」


 俺はふと疑問に思った事を聞いてみる。ここからノスティア王国だとさすがに情報にある程度のラグが生じるはずだ。


「それについてはたしか最初に掲示されたときに公表していたな。掲示はされてないが問題はないんだろう。情報の鮮度を気にするのは商人ばかりだし、その辺の庶民は勇者が出たってだけでお祭り騒ぎだからな。冒険者にとっても、あいつ等せいぜい飲兵衛が酒を飲む口実ができた程度にしか考えていないし」


 割とひどい言われようだが、確かにそうかもしれないな。日本のように高度な教育をうけて初めて投票だの代議制だの、国民が政治に参加するシステムが作られるのだ。


 この世界はやはり学校なんて庶民はいけないし、識字率もそれほど高いとは言えない。


 結果国民は情報を提示されてもそれを扱うことができない。ならば公表するだけ無駄というもの。情報屋なんてものを作れば興味のあるやつに対して情報に金の価値を持たせることができる。この世界の事を考えると正しい仕組みと言えなくもないのだろう。


「確かこの情報は……2週間前の物だと言っていたな。なかなかに大した情報力だとは思わんか?」


 なぜかおっさんが誇らしげに伝える。確かにここからノスティア王国への道の険しさを考えると驚異的な早さ……て言うかまず無理だろう。ならばどうやって?


「……さすがはギルドの総本山ってわけですかね?」


 俺が呟いてみるとどうやら正解だったようで、おっさんが満足そうになる。だから何でこのおっさんが誇らしげにするんだよ。


「ヒントがあるとは言え良くわかった物だな。上にいる奴等に聞いても絶対にこたえられないだろうよ」


 おっさんは三階の酒場に指を指して笑う。これは思ったよりも貴族と庶民の間に教育の差が出ていたりすると言うことだろうか。


「冒険者情報の伝達もめちゃくちゃ速いからな……特にCランク以上は」


 ジョズがぼそりと呟く、確かに冒険者ギルドって謎の技術がいっぱいあるし、技術の出所がハーメルンだとしたら納得がいくし、無線のようなものがあればわざわざ山を越える必要もなく情報の伝達が可能になる。思っていたよりもギルドの技術力は高いのかもしれないな。


「それにしても、わざわざ色々と教えて下さってありがとうございます」


 おれがお辞儀をするとおっさんは前で手を振った。


「何、いいっていいって。俺も暇つぶしになったからな。そろそろ俺も仕事に戻らないといけないし――」


 その時、ギルドのドアが開かれ、豪華な装備を纏った騎士が数人現れる。その騎士はおっさんを見るや否や駆け寄ってきた。


「やっと見つけましたよ! 貴方一体何やってたんですか!」

「ちょっと気分転換を兼ねて休憩していただけだろう。丁度帰ろうと思ってた所なんだから……」


 おっさんの言い訳もむなしく騎士に抱えられて退出するおっさん。一体なんだったんだ。


「……嵐のような人だったな」


 ポツリと漏らすジョズ。確かに変な人だったな。


 それにしてもあの騎士がつけていた装備の紋からしてこの国の騎士なのだろう。それもそれなりに重要度の高い所にいる騎士だと思う。


 さらに、俺はおっさんが連れて行かれる寸前で覗いたステータスを思い出した。



[

【名前】 レオンハルト・ハーメルン  45歳


【性別】男


【種族】人族


【レベル】55

]


レオンハルト・ハーメルン、現ハーメルン国王の名前のはずだ。


「何でそんな人がここにいるんですかね……」


 うん、本当に変なおっさんだった。


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