到着と進行
それからさらに一ヶ月、俺たちハーメルンにたどり着いた。
研究国家ハーメルン。大陸一の圧倒的な技術力を持ち、完全な中立の姿勢を設立当初から崩さない。冒険者ギルドの本部もあり、一流の冒険者を名乗るなら一度は行くべきと言われている。ジョズによると初代勇者について当時の文献がそのまま残っているのは此処ハーメルンとエルフの里くらいだそうだ。
中へ入るため門の所で並びながらハーメルンを見た感想は「とにかくでかい」だ。思わずそう形容してしまうほどの大きさ。まあ壁を見た感想なのでハーメルン自体がどのくらい大きいのかまでは量れないが。
「それにしても随分列が長いよな、そんだけ町が盛んってことか」
俺は目線を下げてそう呟く。ジェークルに入った時の3倍は長い。今は馬車に乗っていないので俺たちのように大きめの従魔を連れている人がちらほらいる事を考えても馬車の行列よりは密度はずっと高いはずだ。つまり人数だけなら3倍じゃ済まない。
「まあそれがハーメルンだからな。俺も最初に来た時は祭りでもやってるのかと思ったよ」
ジョズの感想が完全に上京した田舎者のセリフである。さすがに日本の空港とかと比べると少ないので俺は人数自体にそこまで驚く事はないが、何せ受付が一つしかないので時間がかかる。少し日が傾いてきているので明るさが不安だな。
その後一時間ほどで俺たちの番が来た。身分証明書はC+ランクのギルドカードを見せたらかなり手続きが簡略化された。どうやらギルドの総本山があるところなだけあって、そういったものの信用が他の国より大きいようだ。
「後は……随分と軽装だが、アイテムポーチなどは持っているか?」
一通り確認した門番さんが訪ねてきた。本当は『アイテムボックス』の中に色々と物が入っているのだが、カモフラージュ用も兼ねて普段持ち歩いているアイテムポーチを渡す。
「それでは確認させてもらう。とはいってもこの機械に通して危ない物を感知するだけだが。もちろん剣やその辺の魔道具程度には反応しないから安心してくれ」
門番さんはわりと丁寧に説明してくれる。それにしても随分便利な物があるんだな、と思っていると門番さんがこの国で開発され、現在はまだ門等の主要施設にしか設置されていない代物なんだそうだ。
そして暫く立つと解析が終わった様でアイテムポーチを返してくれる。
「よし、不審な物はないようだな。そっちの馬にも従魔の印がついているようだし、問題ないだろ。通っていいぞ、ようこそハーメルンへ!」
最後にとって付けたような文句を聞きつつ門をくぐる。そこには異世界に来て初めて見るほどの人の数。ちょっとだけ感動した。するとジョズが不思議そうにつぶやく。
「それにしても今日はやけに人が多いな、本当に何かあったのか?」
とはいえ考えても分からないのでまずは宿を探す。馬を泊めることができて、できるだけご飯がおいしい所。
ジョズに案内されてきたのは宿り木亭という宿屋。どうやら冒険者御用達の宿屋らしい。安価でそれなりに飯がうまく、従魔も泊めることができる。確かに冒険者にとっては完璧だろう。
まずは宿に行くと最近頑張ってくれていたノワールを休ませて上げる。尤も、ノワールにとっては大したことがなかったのか、特に疲れた様子もなかった。ちなみに従魔小屋はジェークルにあったものとたいして変わらない。
「それじゃあさっきの女将さんにもらった飯があるから、それでも食っててくれ。俺も飯を食いに行ってくるよ」
ノワールにそう言うと俺は宿に戻り、そのまま夕食を食べることにした。
「女将さん、このディナーセットを二つ! あと、今日は何かあったのか? いつも以上に人が多いように見えるけど」
ジョズが女将さんに夕食を頼むついてに今日の事について尋ねる。すると女将さんは珍しい者を見る目で見てきた。
「そうか、さっき来たばっかりだからわからないのね、この街では今朝からこの話題でもちきりなのよ」
女将さんの口調からして多くの人に影響を与えることがあったようだ。
「国の発表でね、ここから北のノスティア王国とか言う所が勇者召喚を成功させ、勇者は魔大陸の方に向かって進んでいるそうよ。噂では出発させる前に数ヶ月は情報を隠していたなんて言われてるけどね」
ついにノスティア王国が勇者召喚を行ったことを他の国も気付いたらしい。ここから都市ジェークルまで普通は1年以上かかることを考えれば異常な早さだ。優秀な伝達方法があるのだろう。
それにしてもついに勇者達も動き出したのか。外に出てからなら勇者の動向もある程度わかりやすくなるな。クラスメイト達と王国の外で再会できるようになったのも助かる。
女将さんはさらに話を続ける。
「しかも、今回召喚された勇者様は一人だけじゃないんだってね、まさか17人も勇者様がいるなんて本当に驚きだよ!」
……ん? 17人?




