芋虫と野宿
誰だよ一日起き投稿するとかいった奴(逆ギレ
都市ジェークルを離れてはや三ヶ月。俺たちはドリアン公国を目指して進む。ジョズによると後二ヶ月もすれば中間地点である研究国家ハーメルンにたどり着くらしい。
「ほらほら、遅れて来てるぞ。まだ半分残ってるんだから気合い入れろー、『火球』」
俺はノワールの背中に座りながら後ろを走るジョズに喝を入れつつ魔法を飛ばす。「ドキッ! ジョズ一人のフルマラソン大会」を絶賛開催中だ。
ルールは簡単、俺の気紛れで放たれる妨害を避けつつ42.195kmを走りきるといういたってシンプルな物。最近一段と遠慮がなくなってきてより激しい戦闘訓練ができるようになったお蔭で、ジョズの実力もみるみる内に上がっていき、戦闘のセンスだけならBランク冒険者とも互角に戦えるところまで来ていた。
「しっかしまあ、半年もたたないうちにすっかり強くなったなぁ」
俺がジョズに向かって軽く石を投げつつしみじみと呟く。いまのジョズなら出会い頭の『アースバインド』くらいなら避けられてしまうかもしれない。本当によくここまで成長したもんだ。
「いやいやおかしいから! 24時間走りながらの戦闘訓練とか聞いたことないから! 10分に一回のペースでうでが飛びそうになる模擬戦だって聞いたことないし! 実際に何度か飛んだし!」
ジョズが悲痛な叫び声を上げながら走る。そうやって言われるとまるで俺が異常な訓練をしているみたいじゃないか、実際にそうだけど。
「そんなことを言う子にはお仕置きです。『風衝撃』』『アースバインド』『落とし穴』」
初撃は避けられる。二撃目で片足を捕まえ、落とし穴に落とす。せいぜい3mなのでジョズならば片足を掴まれているとはいえ大怪我にはならないだろう。
「うおっ!? いてて……ん? なんだこれ?」
這い上がろうとしたところでジョズが何かを見つけたようだ。俺の【索敵】には反応がなかったが……
「ん? どうした?」
「いや、随分レアな食材が埋まってたからな。ちょっとこれを見てくれ」
手に何かを持って穴から這い出てきたジョズが俺にそれを見せる。
「……芋虫?」
そこにいたのは土の中に埋まっていたとは思えないほど清潔感のある、真っ白な芋虫。別にそこまで苦手なわけではないが、丸々と太ったこいつはあまり直視したいとは思えない。
[ミートワーム
乾燥した土の中に生息する芋虫。体表から分泌される体液によって土等が体に付着せず、常に清潔に保たれている。とても美味で希少価値が高いため、高値で取引される]
……どうやら魔物ではなく、普通の虫のようだ。【索敵】は魔力を持った魔物や人間、大きな動物なら反応するが微生物や虫などは小さくてなかなか反応しない。尤も、意識して探せば別だが。
それにしてもこの芋虫を食べるのだろうか。とても美味で希少価値……
「……ジョズ、お前これ食うの?」
「いや、ないな。ただ昔一度だけ捕まえた事があったから覚えてただけだ。俺は食いたくない」
俺が尋ねるがジョズは即答した。捕まえるだけならともかく、食べるのはさすがに嫌そうだ。
「じゃあ日が落ちるまでにゴールできなかったらジョズの夕飯はそれって言うことで『アースバインド』」
「あぶねえ!」
突然の再開宣言とともに魔法を放つが避けられる。さて、日が落ちるまでにゴールできるかな?
結局、その日ジョズは無事に時間内にゴールすることができた。俺がゴール直前で怒涛の妨害ラッシュを行うも、その光景を見た商人とその護衛の冒険者に盗賊か何かと間違えられたせいで中断され、その隙にゴールされてしまった。
誤解は解けたものの、さすがに夜も走り続けたら余計に怪しまれるだろうと思い今日の所はこれ以上進まずに近くで野宿をすることにした。最近は一日中走って夜には次の街に着いていると言う状態だったので野宿するのも久しぶりだ。
自炊するのも久しぶりなのでなかなか新鮮な気持ちだ。
「それじゃあ今日の晩飯は芋虫を……」
「俺ちゃんとゴールしたよね!?」
その後、堅い保存食のパンと高級食材キメラ肉、後はその辺の野草を適当に調理して食べつつジョズに気になったことを聞いてみる。
「そう言えば、このペースで行けばどう考えても一年ちょっとくらいでつくんじゃないか? 確かに俺たちの移動速度が速いとはいえ、普通に馬車で行ってももっと早く着くと思うが」
俺が尋ねるとジョズは昔の事を思い出すようにして溜息を吐いた。
「まあ、ハーメルンからジェークルはずっと楽な道だからな……ハーメルンからノスティア王国、グラント帝国方面に行くルートにはやたら障害があるんだよ」
ジョズ曰く、ハーメルンとノスティア王国の間に、龍神の火山と呼ばれる巨大な山脈があるらしい。火山の頂上にはかつて世界を滅ぼそうとした邪神、その邪神と戦ったと言われている龍神様と言う神様が祀られているらしい。
ただ、それだけならいいのだが、その火山には大量の竜が住みついていてかなりの頻度で麓までやってくる。そのため竜の出現する頻度が低い時期を選び、慎重に進む必要がある。
それに加え、その先には巨大な湖が待ち受けており、そこを迂回するか、丁度その下をトンネルのようにつなぐダンジョンを利用して進む必要があるとの事。
要するにめちゃくちゃ障害物が多いのだ。その辺りの備えはハーメルンでしっかりと整えておく必要があるな。戦ったことがないので竜がどの程度の強さなのかわからないが、一匹だけならともかく複数匹に襲われるとやばそうだし、できる事なら戦いは避けたい物だ。
そのような事をジョズに話したら、下位竜だけならともかく、それ以上の竜と一人で戦うという思考自体がずれていると言われた。ジェークルで見た上位竜とやらの討伐もS-ランク、それも確か推奨人数30人以上の複合パーティー向けの依頼だったな。さすがに自分にS-ランク30人分の強さがあるなんて思うほどう自惚れてはいない。
飯を食べ終わると浄化魔法をかけて寝床の準備をする。最近になってようやく自分以外の生物にも浄化魔法をかけられるようになった。続けて『アイテムボックス』から寝袋を取り出す。
本来なら見張り番が必要だが、魔物よけと進入感知の結界があればどうとでもなるので省略。『アイテムボックス』から寝袋を出して二人して眠りに着いた。
途中、気配を感じて目が覚めた。察知用の結界に反応はない。ならばもっと遠くの方だろうか。俺は【索敵】を発動させ辺りを探る。すると魔物らしきものに襲われている人間の反応がある。昼間の内に俺の事を盗賊と勘違いした人たちだろうか、あの人たちならば近くで野宿をしていても時間的におかしくない。
どうやら人間側が劣勢なようだ。ここからでも耳を澄ませばかすかに戦闘音や声が聞こえてくる。距離はここから500mほど先だ。
「さすがに分かっちゃったら見捨てるわけにもいかないか……」
ジョズは……あまり時間に余裕もないので置いて言ってもいいだろう。対魔物用の結界も敷いてあるし、ジョズの実力なら寝ている間に食われるなんてことはないだろう。
俺は戦闘が起きている場所まで走る。するとそこには10匹弱のオークとそれの指揮官らしき魔物、ハイオークがいた。人間側は商人を背に守って戦っているが、4人のうち一人が負傷していて少しずつ追いつめられていた。
「戦闘音を聞いてきました! 援護は必要ですか!」
俺は戦っていた冒険者たちに向かって声を上げる。聞いておかないと獲物の横取りだのなんだのと不和を招きかねないので一応声をかけるのがマナーだそうだ。
「さっきのあなたか! すまないが頼めるか!?」
「了解した!」
俺は承諾を受けると目の前のオークにドロップキックをかましながら木刀を抜く。体勢を戻すついでにオークに木刀を叩きつけ完全に沈める。
その後も特に苦労することはなくオーク、およびハイオークを倒す事が出来た。一段落するとパーティーのリーダーらしき男の人が俺に頭を下げてきた。
「あなたのおかげでなんとか助かった。あのままでは我々も危なかっただろう、感謝する」
「いえいえ、偶然近くで野宿していたら戦闘音が聞こえてきただけですので。連れをその辺で転がしてあるんで俺はこれで――おっと、その前に……」
俺は男性の感謝を受け取り去ろうとしたが、先程負傷していた冒険者を思い出しそちらに近づく。
「応急処置程度になりますが……汝の傷を癒せ『ヒール』」
オークの持っていた剣に斬り裂かれてざっくりと言っていた冒険者の太ももを治してやる。一応『ヒール』を掛けたのである程度傷がふさがり、破傷風等も防げるはずだ。
「あれほどの剣術と体術が使えてさらに回復魔法までできるとは……すごいのですね」
高々『ヒール』を使っただけでかなり驚かれた。一応セーブして完治させなかったのは正解かもな。後は包帯を巻いて安静にしていれば一週間程度で治る傷だし、今完治しなくても問題ないだろう。
「まさかここまでしてもらえるとは、何かお礼を……」
「そんな丁寧にいいですよ、気持ちだけで十分です」
お礼をしようとする彼に俺はいかにも日本人丸出しな断り方をしてしまう。
「いえいえ、このままでは我らの気が済みませんので……そうだ、先程任務の途中で見つけたこれをお譲りしましょう。なに、偶然見つけたものですからお気になさらず!」
リーダーの男性が差し出してきたのは透明な瓶――に、入ったミートワームだった。
何で増えるんだよ!
その後、ジョズの寝起きドッキリとして顔に貼り付けたら潰されそうになったものの、2匹とも無事に次の街で換金することができた。




