閑話 スライムと食事
今回はかなり短めです。時系列的には前話と同じ時間で誠一から遠く離れた所のお話。
スライムにとって、睡眠や食事は必須な物では無い。体内の循環する魔力と空気中の魔素が自然に混ざることでエネルギーは補充できるし、筋肉も脳も存在しないので睡眠によって回復させる必要もない。
しかし、ほとんどのスライムは目の前に食べ物があると必ずと言っていいほど食べる。それには食べ物のエネルギーを取り込むことにより体内で魔力として還元、余剰魔力によって強化を行っているためである。
要するに、スライムは食べれば食べた分だけ強くなると言う、特性だけ見てみると強力極まりない力を持つ。
しかし、スライムは所詮スライム。最弱の魔物である。熱い物を食べればダメージを受け、冷たい物を食べればダメージを受け、酸味の強い物、辛い物を食べればダメージを受ける、そんな魔物である。
さらに、食物から吸収できる魔素は生きた魔物の肉などを除けば微々たるもので、スライムが自力で採れる程度の量ではたかが知れている。その間に他の魔物や動物、あるいは環境に耐えきれず死に絶える物がほとんどだ。
が、偶然――もしくは人為的に――死にかけの魔物に止めを刺したり、食料にありつけたりなどで急激なレベルアップしたスライムは、時にオーガでさえも軽く屠ると言われている。
尤も、この事がわかるのはスライムの能力が見直され研究が進む、はるか未来の事ではあるが。
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ありふれた森林の中の、名前もないありふれたゴブリンの群れ。そこでは10匹ほどのゴブリンが大きな猪の死体を囲んでいた。そこにいるゴブリンは皆嬉しそうにしている。どうやら滅多にありつけないような代物らしい。
群れの中の一匹が吠える。それと同時にゴブリンの群れは一斉に猪に食らいついた。
ゴブリン達が夢中になって一頭の猪をむさぼっている中、一匹のゴブリンが猪の下敷きになっているスライムを見つけた。ゴブリンはなかなかしぶといスライムだと思いながら、虫を潰すかのようにそのスライムを踏みつけようとした、その瞬間。
先程まで猪、そしてそれに食らいつくゴブリンがいたところに、巨大なスライムが出現した。いや、注意深く観察すればそのスライムは先程猪の下敷きになっていたスライムと同じ個体だと言うことに気付けただろうか。
半透明な体のその内側には猪やゴブリンが見える。ゴブリン達は突然の事にパニックを起こしているようだ。
棍棒を振り回したり、泣き声を上げようとしたりして抵抗を試みるものの、ゴブリン達はスライムの中から抜け出す事ができない。
やがて、まるで炭酸水のようにスライムの体内で泡が出てきた。それと同時にゴブリンの体がひどい火傷のように爛れていく。
その後とてつもない早さでゴブリン達が消化されていき、スライムは元の大きさまで縮んでいった。
食事を終えたスライムは何事もなかったかのように再び歩き出す。実際に、このスライムにとってこの食事は特別な物でも何でもなかったのだろう。ただ、強くなるために行っている作業にすぎない。
そのスライムは敬愛する主人の元を目指す。今頃自分の主人が喜々としてネコミミカチューシャを製作していると知らずに。
スライム Lv54
【生命力】 760/760
【魔力】 200/200
◆スキル
[火魔法 lv2]
[水魔法 lv1]
[溶解液 lv4]
[大食い lv2]
◆固有スキル
[悪食]
[スライムイーター]
[早食い]
[肥大化 lv3]
◆称号
[大食い]




