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競走とルール

 俺がジェークルを出発してから一ヶ月が経った。今の所俺たちは予定の倍以上の早さで進んでいた。


 と言うのも、ノワールの底なしの体力のおかげで夜中以外は休みを入れる必要がなかったり、俺が馬車を曳いてみたり、訓練を兼ねて馬車をしまって二人と一匹で走ったりと、常識から色々と外れた事をやっているうちに随分と進んでいたようだ。


 ちなみに現在は次の街の近くの池まで誰が一番早くたどり着くか競走中だ。もちろん俺とノワールは大分手加減してジョズでもぎりぎり維持できるスピードで走っている。それでは決着がつかないので舞台は鬱蒼とした森の中。邪魔な木々や根を回避しつつ途中にある大きな池をどう乗り切るかが試される、わりとハードなコースだ。


 現在は一位ノワール、少し離れて俺が続きジョズについては遥か後ろにいる。【索敵】の範囲内にはいるので問題ない。さすがに四足歩行というのが強いのか、厄介な障害物があると少しずつ引き離されてしまう。


「くっそ……全ての理よ『領域(テリトリー)』『水刃(ウォーターカッター)』」


 俺の隠し技、障害物排除だ。ずるいと言われそうだが指定されていたのは走る速度と池を泳ぐ速度、後は妨害の禁止だけだ。つまりそれ以外なら何をしてもいいのだ。


 それにこのままだとノワールへの逆転のチャンスがなくなってしまうからな。


 障害物を取り払ったお蔭でノワールとの距離がこれ以上広がらなくなった、しかし一行に距離は縮まない。ノワールの減速が全くと言っていいほどないのだ。そりゃあ今まで森に住んでたんだから当たり前だよな……


 そもそも野生のノワールにはこんな森など障害の内に入らない。襲い来る魔物も幻影魔法を駆使して戦うことなくかわしている。

 その点に行くと俺は神経を研ぎ澄ませて木々を避け、襲い来る魔物を魔法で吹き飛ばすような走り方ばかりしているので少しずつタイムロスが起こる。これが速度の制限さえなければ結果は変わっていたと思うが、今回のルールは人間が不利だ。


「だからあそこ(・・・)でなんとかして取り返す!」



 やがて森が開けて大きな池が現れる。ゴールである向こう岸まで直線で500mほどだろうか。ノワールは何のためらいもなく池に飛び込み泳ぎ始める。決められた中のトップスピードで泳ぎ続けるノワール。きっとあいつは勝ちを確信しているのだろう。


「甘いわ!『水面(ウォーター)歩行(ステップ)』!」


 池に着いた俺は魔法を使って池の上を走る。さすがに予想外だったのか、ノワールも驚いた様子だ。


 この速度制限、本来はジョズがついてこれるように形だけ公平になるようにしたものだ。結局このような結果になってしまったが、それも想定内だ。

 つまりこの速度制限はジョズ規格まで速度を押さえることが目的、もちろん人間なので走るより泳ぐ方が遅い。


 刻一刻とノワールに迫る俺、これならゴールまでにノワールを追い越せる。俺が勝利を確信した瞬間だった。


 目の前で小規模な爆発が何度も起こる。そして俺の『領域(テリトリー)』が捉えたのは向こう岸まで猛スピードで吹っ飛んでいくノワールの姿だった。


「なっ!? あんなのありかよ!」


 まあ、確かに吹き飛ぶ速度なんてさすがに指定していなかったが、これはありなのか?


 結局俺は僅差でノワールに負け、ドヤ顔のノワールの頭をなでながらジョズの到着を待っていた。


「て言うか最後のは妨害に入るんじゃないのかよ?」


 俺がノワールの体を肘で小突く。するとノワールはブブルッと鼻を鳴らし勝者の持つ余裕の笑みで俺を見てきた。


 【使役】につながっているパスからは、「あの程度は妨害に入らない。現にスピードもゆるまなかったし傷一つ負っていなかった」と言う言い訳めいた感覚が伝わってきた。確かに俺は1ダメージたりとも負っていないが……ノワールのステータスを見たら生命力あ100ほど減っていた。ただの遊びに捨て身の攻撃を使うってどうなんだ。


 やがてジョズが遅れて到着した。まずは着衣泳でビショビショになった服を乾かしてやる。


「はい、予想通りジョズはビリか」

「速は同じでもステータスやスキルのあれこれでこんなにも変わるのかよ……現実は非情だ。ところで途中から爆発音が聞こえたんだけど何かあったのか?」


 ジョズの問いかけに対して眼をそらすノワール。こいつも随分人間臭くなってきたな。最初はいかにも馬の王様! みたいな感じだったのに。


「まあビリのジョズは罰ゲームだな」

「命にかかわるような事じゃ無ければ……」

「なに、俺もそんなに鬼じゃない。取りあえず次の街に入る時の検問で語尾ににゃんをつけて――」



 普段からこんな調子で唐突に訓練やら遊びやらが始まるが、なんだかんだ到着も早まるので良しとしよう。この先も決して短いわけじゃないしな。勇者の事も俺の従魔第一号のスライムの事も気になる。特にスライムは名前をつけてやってないしな。勇者? そんなもんついでだろ。


 そんなあほな事を考えながらも俺たちは街へ向かって歩き出した。


 俺たちの冒険はまだまだここからだぜ! 


 今までご愛読ありがとうございました。(続きます)


 最近感想への返信が遅れてしまっていますが、土日には全て返信ができるよう頑張ります。

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