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経験と隠蔽

 俺はノワールと一緒に森を駆け回ってひとしきり遊ぶ。その結果、最高で先程の俺と同じくらいの速度で走れることが判明した。あのときの俺、一応敏捷2,000相当は出していたと思うんだが……基本的な体の構造が違うからだろうか。同じステータスではノワールの方が早く動けるようだ。


 そのまま俺たちは、俺が最初に落ちてきた場所……海岸まで出てきた。森の端の方まで来てしまっていたようだ。

 そう言えばここって人族が住んでる大陸の中では最も魔大陸に近い場所なんだよな。


「魔王と先代勇者ってどのくらい強かったんだ? 多分今の俺より上だと思うけど……」


 確かにサウロスの迷宮の中で大幅に強くなったが、ステータス5ケタの魔物がいたりする以上、魔王や勇者は最低でもそのくらいのステータスになりえるんじゃないか?


 まあ、そんなことを考えても意味はないし、俺もまだ十分に強くなる余地がある。魔王との戦闘はとにかくあいつ等に合流してからだ。


「そんなことより、久々に訓練でもしてみるか」


 俺は気持ちを切り替えて、ノワールの背中から飛び降りる。最近はジョズの訓練がメインで、自分が本気で訓練する機会がなかったからな。尤も、草原で俺が本気で訓練をしたらクレーターが出来るかもしれんが。


 もちろん、訓練はしていなくてもやっておきたい事などは考えてある。今までの戦闘を振り返っての反省だ。


 その中で気になったのは手札が少ないことだ。確かに俺はオリジナルの魔法を使っているため手札が多いように見える。しかし、実際はそんなに多くない事に気がついた。


 例えば水魔法を見てみよう。この魔法はスキルレベルが10に達し、エクストラスキルへと昇華しているのにもかかわらず、使い方は水を出す、水で斬る、水圧で殴るなどばかりだ。


 もちろんこれらは使いやすいし、この年齢の魔法使いとしては十分優秀なのだ。優秀なのだが……どうしても――例えばセリスのような――宮廷魔導師などと比べると手札でやや見劣りする。

 もちろん、これは他の多くの属性にも当てはまることだ


 つまり何が言いたいのかと言うと……スキルレベルに対して、俺の魔法への理解が釣り合っていないのだ。


 本来スキルレベルと言うのは地道な修練の積み重ねで上がっていくもの。それを異世界補正や【強欲の芽】によって経験値だけがたまっていってしまったのだ。


 もっとわかりやすく言うのであれば、数多の戦場を駆け抜け剣術を極めた男とその男のスキルやステータスを完全にコピーした戦闘経験がゼロの男、どちらがより強いかという話だ。


 魔法のレパートリーが少ないと感じたのも、これに由来する物だと俺は思っている。俺のステータスなら戦闘で負けることはほぼないかもしれないが、対人に特化した人間が相手だったら経験の差が出てきてやられてしまうかもしれない。


 そして俺に一番必要な物は、「経験」――ステータス上の経験値ではなく、本当の意味での経験――であるということに気付いた。


「……とはいってもな。対人経験なんてそうそう積めないし、そもそも俺が魔王と戦うのかすら微妙だ」


 一応あいつ等と合流するので魔王……と言うよりは魔族と戦う日は来るのだろう。その時はその時だ。


「俺って難しい事を考えるのは苦手なのかね? 妹の事ならどこまでも深く考える自信はあるけど」


 それはもう妹から始まって超ひも理論を考え出すくらいには。


 冗談はさておき、今後の方針として対人経験を積むことと、魔法の手札を増やす事を考えておこう。特に水魔法に至ってはスキルレベル10……つまり神話レベルなのだ。少なくとも今の実力のままではスキルを使いこなせているとはとても言えないだろう。


 その後俺は海に向かってストレス発散と言わんばかりに魔法を連発、ついでにノワールと連携の確認などをして過ごし、気付いた時には太陽が西へ沈みかけていた。


「そろそろ帰らないとな……ジョズの奴もこんなの連れてきたらびっくりするだろうな」


 ニヤつきながらノワールの背中に飛び乗る。最初は何回も失敗して頭を打ちまくったが、一日中遊んでいたお陰で俺が飛び乗ろうとするとノワールの方から体の位置を調整してくれるようになった。

今では魔法の紐で軽く括りつけておけばトップスピードで走っても振り落とされないくらいだ。尤も、そんなことをしたら俺が走った時同様に地面がヘコむが……


 俺は一応人目のある所ではあまり速く走らないように注意しておく。まあ、そもそも街中では障害物が多くてそこまでスピードは出ないのだが。



「それにしてもやっぱり黒いと目立つよな……」


 俺はノワールの背中に座りながら呟く。別に魔物であることを隠す必要はないが、珍しい魔物なので馬鹿な輩に襲われる可能性がある。


「そうだ。なんか幻影魔法を使って見た目だけでも普通の馬っぽくできたりしないの?」


 俺が提案するとノワールは一度緩やかに減速し、停止する。その後ノワールの体を包むように魔力が流れ、色が頭から尻尾にかけて、変わっていく。


 そして現れたのは栗色の馬。俺が町を出る前に見かけた物と変わりない姿だ。これなら普通の人間には気づかれないだろう。


 ちなみに、戦闘が終わってすぐに気付いたことだが、この幻影魔法、実は【看破】のスキルで無効化することができる。なのでスキルを使えば俺だけにはしっかりとノワールの黒い馬の姿を見ることができる。


 俺はノワールのステータスを表示して魔力の減り具合を確かめる。魔力量的に考えれば1日くらいは余裕で変身した姿でいられるだろう。こまめに休憩をはさんでやれば普通の馬――若しくは一般的な馬の魔物――であると言い張っても問題はなさそうだ。

 後は慣れるまではそっちに意識を集中させなければいけないのだが……それもそのうちに【思考分割】のスキルが手に入るだろう。


 その後も特に問題なくジェークルにまで戻ってくる。そう言えば従魔の扱いとかってどうなってるんだろう。


「あの、すいません。この馬って一応魔物で、俺に使役(テイム)されてるんですけど、中に入るのって特別な手続きが必要なんですか?」


 一応門番さんに断っておく。ただの馬って言い張ってもいいが、変なところでばれて問題になっても困るからな。


「ん? そいつは魔物なのか。ただの馬だと思っていたぜ。従魔が中に入るならそれを示すための首輪か腕輪が必要になる。一応銀貨1枚で取り扱っているぞ」

「じゃあ、腕輪の方をください」


 俺はあまり目立たない腕輪の方を購入する。銀貨を払って渡された腕輪は、ベルトで留める簡単なもので、特に魔法的な力は感じ取れなかった。


 その腕輪をノワールに着けてやると町に入り、ノワールを連れて町を歩く。確かあの宿って従魔を泊める場所あったよな……冒険者向けの宿だからだろうか?


 一瞬こいつは目立つからやめようかとも思ったが、もちろん仕切りのような物はあって一目では分からないようになっているだろうし、こいつが盗まれたりなんていうことも考えにくい。そもそも返り討ちにされるだけだろう。


 俺は宿に着くと外にノワールを待たせて宿のおかみさんに話をしてくる。


「おかみさん! 従魔を連れて来て、そいつも泊めてやりたいんだけどいい?」

「従魔? 大きさは?」

「馬と同じくらい」


 て言うか馬だな。俺が告げるとおかみさんは手元の手帳らしきものに目を通す。


「そうだね、それだったら裏の小屋の20番が空いてるね。そっちに止めておくれ。料金は1泊で銀貨2枚だよ」


今の手持ちは銀貨3枚。2泊させたいところだが一度部屋に戻らないといけない。明日追加で払えばいいか。


 俺は女将さんに銀貨2枚を渡し、とっとと宿を出る。あんまり馬を宿の前においていても邪魔だからな。


 裏に行くと馬小屋のような建物があった。おそらくここが従魔用の小屋なのだろう。


 20番の小屋は一番奥にあった。他の人に見られにくいし丁度いい。


 俺が教えるとノワールはその部屋に入り、魔法を解いて元の黒い姿に戻る。そう言えばこいつの飯を用意してなかったな。確か森の中ではその辺の草を食べてたよな……


「なんか『アイテムボックス』の中に入ってなかったかな……」


 さすがに牧草なんてものは入っていない。魔法の練習のために集めまくった四つ葉のクローバーならあるが全然足りないだろう。

 後は……お、薬草なんてのがあった。ポーションの材料にもなるし、Gランクの依頼としても出ているのでその辺で見かけるものだが、馬も食べられるのだろうか。どっちにしろ量が足りないが。


「お前って普段どんな物なら食べられるんだ?」


 ノワールにスキルの補助を受けつつも話を聞くと、どうやら雑食のようだ。確かに草食動物があの魔物だらけの森の頂点に立てるとは思えない。


 それなら話は簡単だ。俺は『アイテムボックス』の中からウルフの肉を大量に取り出す。こうやってみると異常なくらいウルフを狩ってたんだな……まあ一番身近にいるし、新技開発のために犠牲になったウルフは少なくない。


 そんなことを思いながらドサドサと肉を取り出す。確か馬って15kgは食べたよな……こんなもんか。


 そこにはちょっとした山ができていた。栄養バランスという言葉に喧嘩を売っているようだが、魔物だし多分大丈夫だろう。


 俺が出し終わったのを確認するとノワールは早速山を取り壊しにかかる。このペースでいけば30分ほどで平らげてしまいそうだ。確か馬って何回かに分けて少しずつ食べるはずなんだが……まあ、細かい事は気にしても無駄だろう。


 俺は一応朝に来るからそれまで部屋を出ないように言い聞かせ、外からも勝手に入れないように扉を結界で固定してしまう。それなりに魔力をつぎ込んだので朝までもつだろう。


 従魔小屋からでた俺は宿に戻る。すると下に降りて来ていたジョズが夕飯を先に食べていた。


「おう兄貴。随分遅かったけど何かあったのか?」

「いや、丁度いい馬を見つけたのはいいんだが、つい楽しくなって遊んでたらこんな時間になってた」


 俺が頭をかきながら言うとジョズは苦笑する。


「まあ、今日は一日それくらいしかする予定がなかったからいいんだけどさ。一応明日はいつ出発しても問題ないようにしておかないと。明日でいいから見つけてきた馬も見せてくれ」


 その後はジョズの買ってきた物を見て『アイテムボックス』に収納しておくと自分のベッドに入って眠りに着いた。


 作者も一度だけ裸馬に乗った事がありますが、当然のように何度も落ちました。アレは怖い。

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