足と馬
翌朝、目が覚めた俺は謎の違和感に包まれる。何か忘れているような事があったような……
あっ、今日は珍しくあの夢? を見たような感覚が無い。久しぶりに目覚め――あ、足攣った。
悶える事数分。足の痛みから解放された俺は、部屋着から着替えて朝食を食べに下に行く。少し足に違和感があるな……
「『ヒール』」
魔法をかけて軽く伸ばしてみる。うん、問題ないな。強いて言うなら最初からこれを使わなかったことくらいだ。……この事は考えないようにしよう。
下に降りて朝食をとっているといつものようにジョズが後からやってくる。一緒に飯を食べながら旅の準備について話し合う。
「取りあえず金はある程度貯まっているから、足と食料の確保だな。食料はともかく、足はどうするか……」
まず俺が必要なものを挙げていく。
「足については馬車だろうな。街の騎士団の詰め所にあの商人達の馬車がそのままおいてある。それより問題は馬の方だな。規則で生き物は返せないらしいんだ」
ああ、そう言えばあの商人から奪った馬車があったな……完全に忘れていたな。
「そう言えばあの馬車があったな。となると馬は……馬車の中の金を含めたらそっから出せるか? いや、どうせなら魔物にひかせれば安上がりで馬力も……」
その後、十分ほど話し合い、ジョズが食料や野営に必要な物を街で買っている間、俺が適当なところで馬の代わりを見つけてくると言うことで落ち着いた。
「悪いな、兄貴に頼んじまって」
「気にすんなって、どうせならとびっきりの奴をつれてきてやろう」
見つけられればキメラだって連れて来てやるよ、と豪語するとせいぜいやりすぎないように、と言われた。言われなくても【使役】が出来るほどアレと俺の間に実力差はないし、不可能だろう。
朝食を済ませた俺はまずは馬を扱っている店に行く。馬がどれくらい力を持っているのか知らないので、どの程度の魔物を連れてくればいいのかの目安としてだ。
「とは言っても、馬ってどこに行けば扱ってるんだ?」
肝心なところが分からない。ジョズに聞いておけばよかったな。
町の中をブラブラして探索していると遠くに商人の馬車が見えた。ラッキー。
目的は馬のステータスを確認することなので問題ないだろう。
で、馬のステータスがこれだ。
【生命力】180
【魔力】 0
【筋力】 170
【防御】80
【持久力】190
【敏捷】 130
【魔攻撃】5
【魔防御】5
【運】10
商人の馬車には馬が二頭いたがどちらも同じような能力だった。この程度ならホワイトウルフでも十分に代役が務まる。
それが分かった俺は早速門を出る。そのまま街道をまっすぐ走り、盗賊団の本拠地があった方角に向かう。
途中でグレイウルフなどをテイムしようかと思ったがなんとなく走りたい気分だったのでそのまま突っ走る。そう言えばダンジョンから出てから――つまりキメラ戦でレベルが大きく上がってから本気で走った事が無かったな。自分の限界を試すのも悪くない。
俺は一応道行く人たちに驚かれないよう、森に入ってから軽くストレッチをする。さすがに一日二回も足を攣るのはごめんだ。
手足を伸ばし、深呼吸をして息を整える。
「レディ……GO!」
動き始めは軽く、徐々にスピードを上げて行く。するとみるみるうちに加速していき、景色が一瞬で流れて行く。
俺は今、風になっている!
……が、ここで一つ大きな問題が発覚した。俺の走った跡が大きくえぐれているのだ。地面が土と言うこともあるが、もっと速度を上げれば街道のような舗装された道でもめちゃくちゃにできるだろう。……この技はあんまり多用しない方がいいな。
俺はそこから、地面をえぐらない程度までスピードを落とし、一定の速度で走る。こんなことならダンジョン内の草原で走っておけばよかったかもしれない。
そうこうしている間にホワイトウルフがいたあたりの森に到着した。早っ! まだ10分ちょっとしか経っていないぞ。
まあ、今回ここはスルーだ。俺の目的地はその奥、ジョズと会う前に俺が落ちてきた森だ。
森へはさらに10分ほどで到着した。今だからわかるが、ここの森は他とは比べ物にならない程空気中に魔力が満ちている。道理であんなに強い魔物が出てくるわけだ。
俺が【索敵】を使いながら魔物を探す。すると都合よく馬の形をした魔物がいるのを発見した。魔力の反応もかなり大きい。ここら一体のボスとかなんだろうか?
俺がそちらに向かうとそこに居たのは真っ黒な馬。きりっとした顔つきに引き締まった足の筋肉。そして何より体からあふれ出る王者の風格。
……なんて恰好つけて言ってみたが、ようするに超カッコイイ。むしろこんなのに馬車なんて引かせていいのかと思うレベルだ。
俺が馬に見とれていると突如として馬が襲い掛かってきた。いきなりの事に慌てるがなんとか木刀を抜いて馬の前足を受け止める。
完全に油断していたとはいえ一瞬見失いかけるほどのスピード、さらにこの力。こっちは片手で受けているとはいえ、本気で受け止めないと踏みつぶされそうだ。
「『風衝』」
一度馬を吹き飛ばし【鑑定】を発動させる。
[ファントムホース lv80
【生命力】1,000/1,050
【魔力】1,200/1,200
【筋力】1,013
【防御】965
【持久力】945
【敏捷】1,079
【魔攻撃】875
【魔防御】462
【運】25
◆スキル
[威圧 lv4]
[火魔法 lv3]
[魔力操作 lv2]
[豪脚 lv4]
[跳躍 lv2]
[幻影魔法 lv5]
[闇魔法 lv3]
]
ステータスを見て改めて思う。こいつを使役出来たとして本当に馬車なんか引かせていいのか? ちょっと恐れ多い気がしなくもない。
あとスキルに幻影魔法がある。王国にいた頃、本で見た事はあるがどんな魔法かまでは分からない。それも戦闘を通して引き出してみるか。
俺がファントムホースの正面を向くともう一度正面から突っ込んできた。
「そんな単調な攻撃じゃ当たらねえよ――おっと!」
俺が突進をかわし死なない程度に切りつけようとして……木刀が空を切った。馬の体が攻撃をすり抜けたのだ。
俺が慌てて【索敵】を発動させると俺の周りを取り囲む複数の魔力反応。目線を上げると十数匹のファントムホースが俺の周りをぐるりと囲んでいた。
「これが幻影魔法か……ああ、もう! 初撃の時と言い、腑抜けすぎだろ!」
これがダンジョンの中にいた頃の俺だったらすぐに幻影魔法を見抜いて対応に回ったはずだ。ダンジョンを出てから急激に緊張感がなくなったせいだとしても、こんなに堕ちているのは予想外だった。
「水よ『水塊』――冷たっ!」
俺は気合いを入れるために頭から水をかぶる。それも飛びきり冷たい0℃の水だ。
頭を冷やした俺は、再度周りを取り囲む幻の馬達に目を向ける。【索敵】で見た様子ではすべてに魔力反応が生じていた。【索敵】で判別をするのは難しいだろう。
「【索敵】がダメなら――『空間把握』、『アースバインド』!」
『空間把握』で本体を割り出し、『アースバインド』で馬を拘束する。ファントムホースに反応させる暇もなく動き出した地面は馬の首を掴み、地面にたたきつけた。
地面にたたきつけられたファントムホースは苦しそうにうめき声を上げ、必死にもがく。
「今のうちに……っと。【使役】」
俺はファントムホースと目を合わせ【使役】を発動させる。途端にもがくのをやめおとなしくなったので、拘束を外して回復魔法をかけてやる。どうやら成功したようだ。
拘束を解いてやると馬は起き上がり、俺に向かって頭を下げる。撫でればいいのだろうか? 俺は下げられた頭をなでてやりながらファントムホースに話しかける。
「お前に名前も付けてやらなくちゃな。そうだな……」
サイクロプス――ベリアのようにならないためにも、名前を先に考えてやりたい。尤も、死なせる気なんてさらさらないがな。
この馬の一番目を引く所はやはりこの真っ黒な体だ。黒っぽい名前か……
「よし、決めた! おまえは真っ黒だから松崎しげ――じゃなかった。『ノワール』だ。遠い国の言葉で黒を意味する言葉なんだが……」
俺が提案してみるとファントムホースは満足そうに鼻を鳴らす。どうやら気に言ってくれたようだ。
「それじゃ、これからよろしくな。ノワール!」
こうして、ジョズに続くもう一人の相棒を見つけたのだった。
サクラクレパスは昔、まつざきしげるいろなんて言う色の絵具を作ったとか……




