モフモフと完了
お待たせしました。書けない状況に長時間いると無性に書きたくなってくるんですよね。
俺は横にいるグレイウルフの頭をなでてモフモフしながらジョズを待つ。あぁ、癒される。
何でグレイウルフがいるのか? その答えはグレイウルフの背中を見ればわかるだろう。
三体のウルフの背中には眠っている女性たちが三人、乗っかっていた。
三人を洞窟からつれだした後、ここからジェークルまで結構な距離があった事を思い出して女性達の負担にならないよう、彼女たちを運んでくれる足を探していたのだ。
そこで辺りを探したところ、群れかはぐれた様子のグレイウルフが近くに二体、さらにすこし距離がある所にホワイトウルフがいるのを見つけたのでちょこっと行って【使役】をしてきたのだ。
さすがにホワイトウルフを使役してきたのにはセレナさんもおどろいていたようだが、他のグレイウルフは群れになっているのしかいなかったのだ。なんか群れから一匹だけさらってくるというのもかわいそうな気がしたので討伐ランクB-の魔物を連れてくるといった結果になってしまったのだ。後悔はしてない。
そんなこんなで待っていると服を血で真っ赤に染めたジョズが帰ってきた。どうやら盗賊団のボスがわりと強かったようで小さな傷をいくつか負っていた。
「おう、お帰り」
俺はグレイウルフをモフモフする手を休めるとジョズの方へ視線を向ける。
「あぁ、思ったより梃子摺っちまった。それでそのウルフ達は?」
「捕まってた人たちを歩かせるわけにもいかないからな、ちょっと行って捕まえてきた」
ステータスこそ見せていないものの俺の強さを分かっているジョズは対して驚いていないようだ。尤も、俺といっしょに旅をするのならこれくらい慣れてもらわないと困るけどな。
「へぇ、兄貴は【使役】スキルも持ってたのか……あれ? でもこれって行きに使えば楽だったん――」
「そう言えばジョズ! 何人か気絶させている奴もいるみたいだし回収しに行かないとな! ウルフもいるし多少引きずるくらいなら問題ないだろう。いやいや、お前も疲れているだろうしここは俺がやってやる、うん、遠慮すんなって」
真理に気付きかけてしまったジョズを黙殺して話題を転換させる。俺も使役してから気付いた事なんだよ、しょうが無いだろ。
ジョズは何とも言えない表情でこちらを見てきたが華麗にスルーしておく。気絶している奴等を運ばなきゃいけないこと自体は正しいのだ。洞窟から盗賊を出すのは俺がやるから許せ。
ついでにジョズが血糊を落とすための水を魔法で出してやりつつ一人で洞窟へ向かう。セレナさんは楽しそうに笑っているだけだった。怒っているのか気にしてないのかよくわからん。
先程まで戦闘のあった部屋は焦げ跡とかなりの量の血が残っている。俺はその中から盗賊の親玉が持っている剣を回収する。人間はドロップ品にならず、討伐記録にも表示できないためボスの所持品などを回収する必要があるのだ。ちなみにそのボスが何も持っていない場合は生首を持ち帰る必要がある。俺だったら絶対にやりたくない。
「それにしても五人か……面倒だな、『ストリング』」
二人か三人程度なら担いでも良かったのだがさすがに五人は無理だ。俺は気絶している盗賊達を魔法の糸でしばり無理やり引っ張る。何度か頭をぶつけていたようだが知らん。
その後は魔物の襲撃が数回あったものの特に問題はなく都市ジェークルまで戻ってこれた。
ちなみに帰りは結局俺とジョズで二人ずつ、もう一匹はウルフと糸でつないでそのまま引きずってきた。その盗賊だけボロボロになっている気がしなくもないがきっと気のせいだ。
「やっと町の入り口かぁ……疲れた」
「何言ってんだジョズ、家に帰るまでが遠足……もとい、完了報告をして宿に帰るまでが任務だぞ」
俺たちは空が暗くなってきた頃、やっと都市ジェークルの門の傍まで来た。それにしても今日は本当に疲れたな。
門に着く前にウルフ達は解放しておく。基本的に短距離の移動用に使役した魔物は逃がしておくらしい。もちろん、街に被害が出ないように遠くにやってから解放するのがマナーだが。
俺もそれに習って遠くへ――特にホワイトウルフはより遠くに――逃がしてから解放する。ホワイトウルフなんかは体力に余裕があったようなのでほとんど元の場所に返した。
その後、門番さんに盗賊とつかまっていた女性たちを預けギルドへ向かう。移動している間に三人ともよく眠れたようで問題なく歩くこともできるようだ。
「はい、セイイチ様とジョズ様……依頼完了、受理しました。試験官のセレナさんから見てお二人の活躍はどうでしたか?」
依頼完了、の声を聞き肩の力を抜く俺とジョズ。この時間帯は依頼完了に来る人が多いのか出発するときには依頼の受付だった所が完了の受け付けに代わっているカウンターもあった。それで気になるセレナさん評価だが……
「そうね~、捕虜になっている人がいた事と盗賊団の人数を考えればC-ランクとは思えない手際、むしろC+の冒険者でもここまで出来る人はほとんどいないんじゃないかしら~? 文句なしの合格ね」
どうやら捕虜となっている女性たちがいた事を考えるとあの依頼はB-相当になりえる依頼だったそうだ。それを俺たち二人だけでこなした事を考えれば確かにCランク相当の実力はあるだろう。
「それでは合格と言うことで……お二人のギルドカードの更新もさせていただきますね。そしてこちらが依頼の報酬と、盗賊の身柄を引き渡したということでそちらの報酬も、合わせて金貨1枚と大銀貨3枚です」
職員さんはトレイに4枚の硬貨を乗せる。それを確認して受け取ると丁度ギルドカードの更新が済んだようだ。
「セレナさんの評価などから実力は十分と判断させていただき、お二人はC+ランクまで昇格ということになりました」
思わぬところでランクが一段階上がったようだ。正直あまりランクに興味が無かったとはいえこれはうれしい。
「Cランク以上になったということで、こちらの書類に登録時と同じ情報をもう一度記入してください」
職員さんはギルドカードと一緒に登録時に記入したような紙に似た用紙を差し出してきた。何でもCランク以上からはギルドからの緊急招集がかかることがあるためすべてのギルドで招集がかかるように手続きを踏む必要があるらしい。
……これってC-ランク以下の奴は死んでもギルドにとってそれほど痛手じゃないからそこまで厳格に管理しなくていい、って言っているようなもんじゃないのか……?
必要事項を記入し職員さんに渡すと俺も晴れてC+ランク。ベテラン冒険者を名乗れる強さである。
……尤も、俺は人外レベルのステータスを持っているけどな。
その後、宿屋に戻りちょっとだけ奮発した夕食を食べながらジョズと出発の日程を話し合う。
あまりダラダラとここに残っていても仕方が無いので出発は3日後。それまでに準備をしておくと言うことで決まった。
俺は自分の部屋に戻ると部屋着に着替えてベッドに飛びこむ。依頼内容より移動で疲れるっていうのはなんとかしたいもんだな。どうせならあのホワイトウルフを逃がさなければ良かったか? ステータス的に体は大丈夫だけど精神的に疲れるんだよなぁ……
そんなことを考えているとすぐに眠気はやってきて俺は意識を手放した。
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“【←%&$!】による精神への干渉が進行します”
スキル【精神耐性】を取得しました。
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【←%&$!】による精神干渉は本当に微々たるものなので今の所主人公に影響はありません。




