図書館と収穫
今回も大地視点です。
俺はそのまま神田さんに図書館まで連行される。図書館に着いた所でやっと解放された。関節が痛い。
「それで? 何でわざわざこんなところに?」
俺を解放するや否や、俺の方を振り向きもせずに歩きはじめる神田さんに着いて行く。なんだこの頼れない彼氏みたいな対応は。
「とにかくあの腕輪について調べる。それで何かやばい効果が隠されているようだったらそれに対する解決策を見つける。以上」
神田さんは俺に簡潔に、それはもう簡潔に説明をしながら本棚をいったり来たりして何冊もの分厚い本を手に取り俺に渡してくる。荷物持ちじゃねえよ。
まあ俺も目的はわかったのでおとなしく荷物持ちを手伝う。最終的に30冊くらいになってすごく重い。身体強化使っちゃったよ。
そんな俺を神田さんは気にも留めずに歩いて行く。ちょっと泣きそうなんだけど。
そんな俺をよそに神田さんはテーブルがある場所へ着くと椅子に座る。
「取りあえずそこにおいて。この中から使えそうな文献を見つけるから手伝いなさい」
俺が言われたとおりに本を置くと彼女はすぐさまその上から一冊を手に取り目次を読み進めて行く。集中力すごいな。
俺も積み重なった本の上から一冊を手に取り本を開く。どうやら例外属性についての本のようだ。
神田さんの方を見ると魔道具についての本を読んでいるようだ。こいつも真面目にやってるんだし俺も真面目にやんなきゃだめだよな……
俺は例外属性の本に目を落としどの情報が必要かを考える。
(まずは付与魔法だったか? 物に魔法を付与する魔法だったはずだ。でも俺の知っている【偽装】はスキルだったよな……となると偽装の魔法って言うのもあるのか? まずは付与魔法を探して付与魔法の一部として偽装の魔法があればそれでいい。無ければ偽装の魔法について探せばいいだろう)
俺は目次を指でなぞりながら文字に目を走らせる。上の方書いてあるのは回復魔法、幻影魔法、神聖魔法などの割とメジャーな物。下の方に行くと空間魔法や惑星魔法、超克魔法などなんか見るからにやばそうな名前もあった。
「付与魔法……付与魔法……」
「うるさい」
「ごめんなさい……」
ぶつぶつとつぶやきながら探していたら神田さんに怒られた。超怖ぇぇ。
そんなハプニングもありつつ探していると、真ん中より少し後ろ側に「付与魔法」と書かれた項目があった。
そのページまで紙をめくり説明を読んでいく。ざっとした内容はこうだ。
付与魔法とは人間または物に魔法的な効果を付属させることのできる魔法である。
付与魔法は世界的に見ても使い手の少ない魔法であり、魔法の効果はあまり研究が進んでいない。
また、物に魔法を付与するための魔法は人間に使う物と比べて難易度が高く、さらに使い手の数が減る。
付与魔法の主な効果としては味方に対して使用し一時的に筋力などのステータスを上げる物、物に対して使用し一時的に耐久力を上げるなどの物がある。
とのこと、あまり詳しい事は載ってないな。
俺はその後も目次をたどってみたがそれらしい物は見当たらない。じゃあやっぱり付与魔法か? もっと詳しい本が必要だな。
俺が本を取ってくるために席を立とうとすると顔を上げた神田さんに止められた。
「ちょっとこっち来なさい、これ」
神田さんは本の間に指を挟んで何ページかを押さえている。俺は神田さんの隣に歩いて行き本を覗き込む。
そこに書いてあったのはとある腕輪の形をした魔道具の説明文だった。
「隷属の腕輪……」
そこに書いてあるのは隷属の腕輪。所有者を登録してから対象に填めると対象は所有者の命令に従わなければならなくなる。隷属という極めて一般的な効果にたいして魔道具の存在はあまり有名ではないらしい。
同じような効果を持つ者として隷属の首輪がある。これはより強力な制約を対象に布くもので、この世界にいる奴隷には基本的にこちらが使われている。この魔道具の存在が隷属の腕輪を一般的でなくさせている要因でもあるのだそうだ。
俺が読み終わるのを確認してから神田さんがページを変える。すると今度は筋力を上昇させる効果を持つ魔道具についての説明が書かれていた。
その魔道具は魔石に付与魔法を刻みこむことで出来る、一種の魔法陣魔法らしい。普通のアクセサリーなどにその魔石を埋め込めば効果が発揮されるため、それなりに強い冒険者の間では良く使用される魔道具であると書かれていた。
そして神田さんは最後にもう一つのページに移動する。
そこに書かれていたのは登録した者が命の危険に瀕した時、それを登録者の間に知らせる魔道具だ。パーティーを組む冒険者には必須の魔道具で割と一般的な魔道具なのだそうだ。
それらを見せ終わった神田さんはこちらの方を向き尋ねてくる。
「それで、この三つをみてあなたはどう思う?」
「どう思うって言うのは……まさか、こいつが隷属の腕輪なんじゃないかってことか?」
一瞬、さすがにそれはないだろうと思いかけたがすぐに考えを改める。
昔、誠一と王国について話し合った時の事を思い出す。確かあの時誠一はなんて言ってた?
『例えば俺がこんな扱いを受けていると知ったらクラスメイト達は王国に対して不信感を募らせるわけだよな? いや、別に俺の事だけじゃない。何か王国が俺達に隠している事が明らかになったとしよう。そうなったら王国と勇者達が敵対する事になるわけで、そんな状況に置かれたら王国はどんな行動に出ると思う?』
俺はその時に聞いた答えをそのまま口にする。
「変な事をかぎつけようとした奴、または全員の行動を縛ってコントロールしようとする?」
俺の放った言葉は神田さんの意見と一致したようで、彼女は頷いて見せる。微妙に近いせいで彼女の前髪が俺の顔に当たっている。なんかくすぐったいし変な気持ちになるからやめてほしい、本当に。
「そう言う事ね。可能性としては十分にあり得るわ。そのくらいのことを考えておかないと。それで、あなたも何か見つけたようだけど、何を見つけたの?」
幸い俺の心の声は届かなかったようで、気にもせずに問いかけてくる神田さん。とはいっても付与魔法について詳しい事を調べようとしただけだ。
「ああ、物の表示の偽装について何か分かる事が無いかと思って付与魔法について詳しい本を探そうと思ってな」
「そう、なら時間にそこまでの余裕があるわけでもないしさっきあなたが読んでた本もついでに戻してきて。私はその間にこの山から使えそうな本を抜き出しておくから」
俺が本棚を指さして答えると神田さんは本の山に目を向けて言う。ここにある本は15冊程度だが一冊が広辞苑並みの分厚さで読むだけで一苦労する代物ばかりだ。こんな中から探すのは骨が折れそうだな。
その後、付与魔法について書かれた本を読みながら腕輪について調べていると魔法の訓練が終わる時間になった。俺達は使えそうな本の場所をメモしておくと本棚に本を戻して食堂の方へ向かって鎌倉さんと合流する事にした。
ちなみに本棚に本を戻したのは全部俺だ。何kgあると思ってんだあの本。
鎌倉さんに合流した俺達は3人で神田さんの部屋に向かい、図書館で調べた事を踏まえた予想を立てて行く。大体の予想はこうだ。
この腕輪には表示を偽装する付与魔法が掛けられていて実際には隷属の腕輪である可能性が高い。
【鑑定】で得られる内容の効果は実際に保持していると考えられる。
この腕輪にかけられている偽装の魔法は【看破】のスキルで見破れるようなので【看破】のスキルを上げつつ、この腕輪が隷属の腕輪であることを前提として魔道具の解除方法を調べる。
魔道具は完全に生産職の領分なので俺達勇者には何も教えられていない。そんな中解除方法を探すのはひどく大変な事だがとにかくやってみるしかないだろう。
「大体の所はこんな感じね」
「ふぅ……取りあえずは例のブツをなんとかしていくという方針でしかないな。現状でクラスメイトを助ける方法はないし」
神田さんが締めくくると俺は警戒を緩め一段落する。内容が内容なだけに盗聴などに気を配ってたせいで少し疲れた。
俺は軽く伸びをしながら部屋を見渡す。神田さんの部屋は俺の少し散らかっている部屋とは違い、きっちり整理整頓がなされている。
何というか普段ちょくちょく見せる暴力的な性格からは考えられない部屋だ。しかも何気なく寄りかかっているベッドも軟化柔軟剤みたいな匂いが……
「野本くん、どうしたの?」
俺がアホな事を考えていると物凄い殺気を含んだ声を向けてきた。それはもうあり得ないくらいの殺気を向けてきた。
……今のでばれたの? 女の勘ってすげー
「な、なんでもねえよ?」
テンパりすぎて噛んじゃったよ。ちなみに鎌倉さんは殺気っぽい物には気付いたようだが直接向けられていないせいかキョトンとしている。
俺が誤魔化すと一瞬で殺気は霧散していつも通りの雰囲気に戻る。気付いてない風を装っているんだろうが完全に殺気を向けて来てたんで意味ないと思います。
その後気まずくなった俺はなんとか話を終わらせる方向にもっていき神田さんの部屋を出た。
今日の一番の収穫、女子の部屋に入ったからといって浮かれて変な事を考えてはいけない。絶対に。
なんか書いてるうちに大地と鈴ちゃんがイチャコラしはじめてしまった……お兄さんは認めませんよ!
多分次話は誠一サイドに戻って行くと思います。
~おまけ~
誠一くんと大地の会話(本編には影響しません。
誠一「例えば俺がこんな扱いを受けていると知ったらクラスメイト達は王国に対して不信感を募らせるわけだよな? いや、別に俺の事だけじゃない。何か王国が俺達に隠している事が明らかになったとしよう。そうなったら王国と勇者達が敵対する事になるわけで、そんな状況に置かれたら王国はどんな行動に出ると思う?」
大地「……どうなるんだ?」
誠一「変な事をかぎつけようとした奴、または全員の行動を縛ってコントロールしようとするはずだ。少なくとも俺の読んだラノベではそうだった」
大地「ラノベかよ」




