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スパルタと腕輪

 病院に行ったらヘルペスじゃないと言われました。それでも痛い物は痛いけど。


 前半はジョズ視点です。

 翌日、俺は宿屋ベッドで目覚める。昨日はコボルトの討伐で歩かされたせいか、やたらと足が痛い。討伐自体はセイイチさんのお陰で楽だったんだが、とにかく遠いせいで疲れる。


 軽く首をのばすと横に置いてある短剣を見る。この短剣は鍛冶屋で打ってもらった、特注品だ。俺も見た事のない魔物の牙から作っているそうで、ミスリルと同レベルの強度を持っているんだとか。こんな素材を持っているってあの人は一体何者なんだろうか。

 昨日は寝る前にこの「雪霧」を磨いていたので少し寝不足気味だ。前に使っていたナイフは別に高級品という訳でもな物だったので手入れは最低限だったが、やっぱりこういうちゃんとした武器があるというのはうれしいものだ。


 俺は起き上がって着替えると下の食堂へ向かう。するといつものようにセイイチさんが先に朝食をとっていた。


 俺も銅貨をおかみさんに渡して朝食を注文する。運ばれてきたパンを食べていると、セイイチさんに話しかけられた。


「そう言えばジョズは今日も依頼を受けるのか?」

「いや、最近は依頼を受けまくってたからな。しばらくの間は楽できそうだ」


 セイイチさんと組むようになってから収入が目に見えて上がるようになった。討伐の効率が上がったというのもあるが、とにかくこの人と組むと魔石のドロップ率が跳ね上がる。そのおかげで収入がどんどん増えて行くのだ。


 それに加えて最近はかなり頑張っていたので,お金にも余裕があるしな。そろそろ違法商人から奪ってきた馬車も返される頃だろう。そのうち門番の所に行って確認しないとな。


 俺がパンをかじりながら考えているとセイイチさんに話しかけられる。


「へぇ……じゃあさ、ちょっとばかし訓練でもしてやろうか?」


 訓練? 訓練ってあの訓練か。確かにこの人は短剣を使っているし、かなりの実力を持っているのだろう。そんな人から教えてもらう機会などなかなか無いので教えてもらえるのなら教えてほしい。


「え? いいのか? それならぜひとも教えてほしい」


 今の実力ではCランクになるのは少し厳しいのではないかと感じている。この機会に実力を伸ばしていきたいしな。


 飯を食った後は装備を持って来てセイイチさんについて行く。どうやら街の外で訓練を行うようだ。


 街を出てから少しだけ歩いてそれなりにひろい草原に着く。邪魔にならないように草原の端っこに移動する。


「まあ訓練とは言ったけど俺は教えるのは苦手だからな。100%実戦形式でやってくからそのつもりで」


 早速始めようと思った瞬間、いきなり不安な事を言われる。うっかり大怪我とかしないよな?


「まあ大丈夫だろ、腕の一本くらい落ちてもなんとかなるって」


 念のために聞いたら余計に心配になる返答が返ってきた。俺が心配しているのは怪我をすること自体が問題だって言っているんだけど?


「冗談だって、俺だって頑張れば寸止めくらいできる。失敗したらごめんね」


 片目をつぶり舌を出してくるセイイチさん。もうこいつわざとやってるだろ。なんか嘘を見抜くのも訓練の一環とか苦しげに付け足してきたけど無視だ。


「コホン……それじゃあまあ、適当に本気でかかって来い。ある程度のアドバイスはするから」


 相変わらず真面目な感じとは思えないが、懐から短剣を取り出したのを見ると戦闘の準備はいつでもできているということだろう。


 俺は駆け出すとセイイチさんの胸元に向かって下から突き刺すように雪霧を放つ。しかしあっさりと避けられ、雪霧を手前に戻した。向こうから攻めてくる気配が無いことからすると、どうやら完全に様子見らしい。


 俺は雪霧を手元に引き寄せたまま踏み込み次の一撃を放つが、今度はセイイチさんの短剣で防がれてしまった。


 俺は即座に距離を取って体勢を戻すと、今度は切りつけるようにして雪霧を放つ。その攻撃も避けられ、連続で攻撃をするが全て避けられる。


 一度離れようとした瞬間。喉元スレスレに短剣を突き付けられて俺の攻撃はあっさりと終わった。


「おっと、もうちょっと手前で止めるつもりだったんだがな……まあいいか、取り合えず見た感じで気付いた問題点を上げてくぞ。まずは攻撃の一撃が強すぎる事だな。一撃が強すぎてそれを避けられた時に大きな隙が出来る。つよい相手だったらその隙が致命的な物になるからな。後は格上相手の……」


 その後もいろいろな点を指摘されて何度も練習を繰り返す。とにかくやれば体が覚えてスキルも上がるそうだ。


 暫く攻撃の練習をしたら唐突にセイイチさんが話してきた。


「じゃあ次はこっちから攻撃するから死ぬ気で防げよ? ほんとに死ぬかもしれないし」

「はっ? え? ちょ――」


 いきなりの事に構える暇もなく吹っ飛ばされる。


「はいはい、敵はまってくれないぞー」


 その後もどんどん畳みかけてくるように攻撃をしてくる。一応手加減はしてくれているのか防げているが、短剣の一撃が斧を振られているかのように重い。


 その後訓練は夕方まで休みなしで続けられた。こちらは死ぬ気でやっているので途中からおよそ訓練と呼べないような物になってしまったが、そんな事も気にならないほどとにかく必死に訓練をしていた。



「ちょっ! ストップ! タンマ!」

「ほいほい、敵にタンマは通用しねえよ!」


 あれ? 本当に死ぬんじゃないこれ?



――大地SIDE―――



「火よ 『(フレイム)(アロー)』」]


俺の詠唱とともに放たれた12の火の矢が的に向かって飛んでいく。そこそこの速さで飛ばされた魔法はすべて的のど真ん中に当たり的を破壊する。


「・・…ふぅ、やっとの事魔法の同時操作にも慣れてきたな」


 俺は一息入れながら訓練場の端っこのベンチに座る。


 誠一が居なくなって7週間くらいが経った。最近は鎌倉さんの体調も良くなっているようだ。というか鎌倉さんのやる気が目に見えてすごい事になっている。神田さんが何かやったとかその辺りだろう。


 俺はダンさんに稽古を付けてもらってからは死ぬ気で訓練に励んだ。それはもう死ぬ気で。本気でかかってくるダンさんは本当に怖い。魔法も使ったりするがまだ一勝もできていないのが現状だ。


 基本的に剣を中心に鍛えているもののさっきのように魔法も鍛えている。ハイブリッド型の魔法剣士だ。


「そう言えば自分のステータスを見るのも久しぶりだよな……」


 最近自分のステータスを見ていない事に気付いたので、せっかくだからとステータスを表示する。


【名前】 ダイチ・ノモト  17歳


【性別】男


【種族】人族


【レベル】11


【生命力】210


【魔力】 195


【筋力】 205


【防御】200


【持久力】190


【敏捷】 205


【魔攻撃】200


【魔防御】145


【運】100


 ◆スキル


※鑑定系スキル

[鑑定 lv6]

[看破 lv5]


※隠蔽系スキル

[偽装 lv5]


※戦闘系スキル

[剣術 lv6]

[見切り lv3]

[威圧 lv1]


※魔法スキル

[魔力操作 lv5]

[水魔法 lv2]

[土魔法 lv4]

[火魔法 lv6]

[光魔法 lv3]

[魔法陣魔法 lv4]


※生産系スキル

[裁縫 lv1]


◆称号


[異世界を渡りし者]



 久しぶりに見たが思ったよりもスキルが伸びていた。レベルやステータスは平均的だがスキルはかなり充実しているほうだと思っている。


【鑑定】のレベルを上げたのは周りのステータスをのぞき見するため。【偽装】はステータスを隠すというよりは、ステータスを隠蔽している奴が若干一名いるから【看破】のスキルレベルを上げるために覚えた。


 そろそろダンさんの剣の訓練が始まるのでステータス画面を閉じて立ち上がる。剣の訓練をする場所は此処から歩いて1分ほどで着くのだが、俺は基本的に早めについていつも剣を振っている。


 俺が訓練場で適当に素振りしている間に時間が近づいて来たようで、他のクラスメイト達も訓練場に集まる。


 しかし時間になってもなかなかダンさんが来ない。いつもなら俺が来てからクラスメイト達が来る間くらいには来ているはずなのにな。


 全員が疑問に思いながら待っていると訓練場から人影が出てきた。しかしダンさんにしてはやけに小さい。


 こんな奴クラスにいたか? と一瞬だけ思ったが、人影の正体はすぐに分かった。


「おはようございます、勇者様方。今日はダンさんと相談をして特別に訓練の前にお話をさせていただく時間を設けてもらいました」


 訓練場に現れたのは王女だった。それに続いて数人の護衛が出てくる。護衛の手には何かが入った袋があった。


「皆さんは魔王の討伐をするのに当たり、様々な危険に出会うと予想されます。そのため、2ヶ月前のような悲劇を引き起こさないためにも、王国側で対策をとらせていただく事になりました」


 王女はいきなり本題を切りだす。そんな事をしたって誠一は戻ってこないんだけどな。と内心で悪態をつきながらも話を聞く。すると今度は護衛の兵士が袋の中から腕輪のようなものをとりだした。


「こちらは『天の腕輪』と呼ばれる魔道具です。これは登録した方の間で命の危険に瀕した人がいる場合に知らせてくれるものです。また、わずかですがステータスを底上げする事も可能な魔道具にもなっています。貴重な物だったので数をそろえるのに時間がかかってしまいましたが、ぜひとも勇者様のために着けていただきたいのです」


 地球で見かけたら何とも胡散臭い腕輪だがこの世界ではあり得る事なのかもしれない。


「また、この腕輪は特殊な魔道具であるため一度着けると取る時にこちらで魔道具を使う必要があります。着けたまま入浴しても大丈夫なものになっていますので直接肌にお付けください」


 王女が説明している間にクラスメイト達に腕輪が順番に配られる。念のため一番後ろに下がってこっそりと腕輪を【鑑定】しておいた。

[天の腕輪 特級

 特殊な製法によって作られた腕輪。これを付けると登録した者の間に命の危険に瀕した者がいると腕輪が赤く光る。

 また、ステータスの筋力が10加算される]


 一見何の変哲もない魔道具に見える。筋力の上がりが微妙だな。という感想しか抱かないだろう。


 が、俺はこの腕輪に何ともいえない違和感を覚えた。


(……なんだこれ? なんていうか……変な感じがするな)


 俺が違和感を抱いても周りは全く気にならないようで腕に着け始める。俺は一瞬止めようかとも思ったが変な違和感がある、というだけで止めるわけにもいかない。

 もし本当に何か裏があったとしても今王国と敵対するのはまずい気がする。


 俺も周りにならって着けようかと思った時、不意に横腹を小突かれた。


「イテッ」


 俺が小さく声を上げながら振り返ると、そこには険しい顔をする神田さんがいた。


「なに?」

「それをつけちゃダメ、取りあえずばれないようにしまいなさい」


 俺が短く聞くと神田さんも小さい声で用件だけを伝える。神田さんの後ろには鎌倉さんが不安そうな顔をして腕輪を持っている。


「いきなりなんだよ?」


 俺は疑問に思いつつも、違和感を感じた事は確かだったのでおとなしくポケットの中に腕輪をしまう。


 俺が周りを見渡すと他のクラスメイト達は全員腕輪を装着しているようだ。


「それでは勇者様方、お体に気をつけて、鍛錬を頑張ってください」


 王女は優雅に一礼すると去って行った。俺はそれを見ると二人の方を向く。


「それで? このつけちゃいけないっていうのは?」


 俺が問いただすと神田さんは真面目な顔をして答える。


「この腕輪、【偽装】の魔法が付与(エンチャント)されているわ。私にはこの【偽装】を見破る事は出来ないけど、何かが隠されているのは確かよ。少なくともろくな事じゃないわね」


 神田さんの説明を聞いてやっと合点がいく。俺の感じた違和感は【偽装】によるものだったのか。【看破】のスキルがあるから気付いたのか?


 俺はもう一度【看破】を使いながら腕輪を調べるが、スキルのレベルが足りないのか本当の情報を表示する事は出来ない。


「……確かに何か魔法が付与(エンチャント)されているな。それで、何でそれを俺だけに話した?」


 俺が彼女のステータスを見た時にスキルに【看破】があったことからこの腕輪の違和感に気付いてもおかしくはないが何でそれを俺だけに教えたんだ?


「それはあの王女にばれることなくこの事を伝えられる距離にある人があなたしかいなかった事と、あなたが【看破】持ちだった事ね。何か違和感を感じていたなら今の話をきいても冷静に対応できると思ったから」


 なるほどな、やっぱりこの事は王女にばれないようにしておいた方がよさそうだ。それともう一つ気になる事が……


「なんで俺が【看破】持ってるって知ってんの?」

「あ? 私のステータスを【偽装】を突き抜けて覗いてきた分際で何言ってんの?」


 ばれてーら。ごめんなさい。



 その後やってきたダンさんは何事もなかったかのように剣の訓練を再開させる。一応腕輪の効果は本物のようでクラスメイトたちは、


「なんかいつもより剣が軽く!」

「心なしか魔力も高まってる!」


 みたいな事を言っていた。プラシーボ感がすごいけどな。


 剣の訓練が終わり、昼食をとって魔法の訓練に行こうとすると神田さんに話しかけられた。


「野本くん。ちょっと今日一緒に魔法の訓練をサボって私につきあいなさい」


 唐突に言われ何の事だと思っていると、いきなり体を押さえこまれる。て言うか関節をキメられた。


「はっ!? ちょ、タンマタンマ!」


 俺は必死にもがくが、力が入らない部分をがっちりと固めている神田さんから逃れる事が出来ない。本当に何やってんのこの人は?


「結衣、今日の授業はサボるから適当に誤魔化しておきなさい。あと、絶対に腕輪はつけちゃダメよ」

「えっ? えっ!?」


 突然話を振られ困惑する鎌倉さん。彼女も話を聞いていないようだ。


「それじゃ」


 神田さんはそれだけ言うと俺の関節を押さえたまま連行していく。


 後には困惑する鎌倉さんだけが残された。


 次か次の次くらいまで王国編になります。

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