雪霧とコボルト
更新頻度とかモチベーションとかヘルペスとかがすごい事に……暫く亀更新になりそう。
それから数日間は特に何もなく過ぎた。相変わらず寝起きの変な感覚は付きまとってくるが、些細なことだろう。
俺はホワイトウルフを倒してからは、一度も依頼を受けていない。何でも普通の冒険者は薬草の採集のような簡単な物を除き、毎日依頼を受け続けるようなことはしないらしい。特に群れの殲滅のような依頼を受けたら、2,3日くらいは休むのが普通だそうだ。
尤もずっとダンジョンで過ごしてきた俺にとっては、いつ襲われても大丈夫な状況で、且つ毎日アホみたいに強い敵との戦闘を毎日繰り返さない分、Cランク付近の依頼程度ならば毎日受けても問題ないのだが。
ちなみにジョズの方は休みを入れていない。何でも一刻も早くCランクになるために毎日簡単な依頼でも受けるようにはしているらしい。ゴブリンの討伐から珍しい草の採集まで。余り強い魔物との戦闘がある依頼は避けているそうだが、それでも随分とがんばっている。
そして今、俺とジョズは一緒に歩いているんだが今日はこいつが異様に鬱陶しい。それはもう、普段俺より遅く起きるはずのジョズが、俺より一時間以上早く起きて、朝食を食べている間も歩いている間も、とにかくそわそわしまくっててなんかぶつぶつ呟いているし、とにかく鬱陶しい。というか怖い。
「あぁ……ついにこの日が来たか……一体どんな物が出来上がっているんだろうな? あそこの鍛冶屋は若いのにとにかく腕がいいって評判だし、本当にどんな物が出来上がってるか楽しみだぜ!」
「分かったから黙れ、めっちゃ見られてるぞ」
俺はとにかくそわそわしているジョズを落ち着かせる。何を隠そう、今日はジョズが頼んであった短剣ができる日なのだ。だからと言って張り切りすぎじゃないだろうか。
俺達が鍛冶屋に着くとジョズはドアの前で深呼吸を始める。俺はもう面倒くさいので完全に無視し、勝手に扉を開けて入って行く。
するとこの間もあった青年がカウンターにいた。
「すいませーん、先日素材持ち込みで短剣の作製を依頼したものなんですけど」
俺が言うと青年はすぐに笑顔を浮かべて対応をする。
「ええ、お待ちしておりました。それで、もう一人の方が見えていないようですが……」
「ああ、それなら入口の前でなんかやって……あ、来た来た」
俺が青年に説明をしようとすると、扉を全力で開けて入ってくる男、ジョズが現れた。
ジョズはこちらに駆け寄ってくると緊張した面持ちで問いかける。
「そ、それで……俺の短剣は?」
そんな様子に青年は苦笑しながらも答えてくれた。
「ありますよ、ちょっと待っててください」
青年は引っ込んだがすぐに戻ってくると、鞘に仕舞われたひと振りの短剣を持ってきた。
鞘は……何かの魔物の革だろうか? 鞘の外に見える柄の部分は金属で簡単な装飾が施されている。それもただの装飾ではなく、握りやすいように形を調整がされている。
「今まで私が作った物の中で最高傑作と言っていいでしょう」
ジョズはその短剣を受け取ると鞘から短剣を抜いた。
ジョズは言葉を失ったように短剣を食い入るように見つめている。
刃の部分は金属特有の光沢はないが真っ白で、雪のように綺麗な姿をしていた。思わず俺も魅入ってしまう
「雪のような美しさに魔力との高い親和性。更に鉄をも斬る事が出来る剣。名付けて『雪霧』なんてどうかな?」
青年がそう言うとジョズは先程からニヤけっぱなしの口元をさらに緩めて、
「雪霧……雪霧かぁ……」
それはもう、恋人と見つめ合うかのようにうっとりと眺めていた。
その後、しばらくジョズが復活するの待ち、金貨を払って店を出た。
去り際に、青年から、
「今回の仕事は絶対に忘れません! 是非、今後も鍛冶屋シュヴァルツをお願いします!」
と大声で言われて少し恥ずかしかった。
鍛冶屋を出たジョズは興奮した様子で、
「よし、ギルドだ! この短剣の力を確かめないと!」
と張り切っていた。張り切るのはいいけどそれで大怪我したら笑えないぞ。
ギルドに着くと、ジョズは子どものように走って掲示板まで突進する。本当にあんなんで大丈夫だろうか。
そして1分後、ジョズがとってきた依頼はD+ランク、コボルトの群れの殲滅だった。群れ殲滅の依頼が結構あるのだが、こういう魔物に攻め入られて街が損害を受けるような事はないのかね?
受付の職員さんによるとコボルトの群れは此処から30km、ゴブリンやグレイウルフの群れの位置と比較するとかなり遠い所にある。
それでもこの世界の人間は30kmくらいなら歩けない距離ではないので、歩いていくようだ。車も電車もバスもないこの世界では基本的に歩きと馬しかない。俺が生産チート持ちだったら自転車くらいなら作れたんだろうが……
そんなわけで今俺達は森の中を進んでいた。ジョズはさすが斥候職というべきか、先程まであんなに嬉しそうに短剣を眺めていたのに、いまではしっかりと辺りを警戒しながら、且つマーキングもほとんどなしにまっすぐと森を進んでいる。
俺の場合は【索敵】を使えばすぐに分かる事なのだが、ジョズの場合はそうもいかない。それでも同じ場所を回るような真似はせずに、まっすぐ森を突っ切っている。斥候としてしっかり鍛えた証拠だろう
休憩をとりつつも5時間ほどで目的地に到着した。コボルトの数はおよそ80。今までの群れと比べるとかなり大きい規模だ。
「今日は俺にコボルトリーダーをやらせてくれ。最初に奇襲を仕掛ければあんたなら何体倒せる?」
ジョズは短剣の性能に期待しながらも冷静な判断ができているようだ。ゴブリンの時よりも数が多い分、綿密な打ちあわせが大切になる。
「そうだな……俺が魔法で奇襲を仕掛ければ15は行ける。そのまま突撃して倒していけば3分以内に制圧可能だろうな」
その後、簡単な動きの打ち合わせをして奇襲を開始する。俺はジョズから少し離れた位置で魔法を発動させる。
「さてと……『火矢』」
魔法を唱えたると炎の矢が形成される。それがコボルトの群れに着弾したと同時に爆発した。
その爆風によっていくらかのコボルトが吹き飛び、着弾地点の付近にいたコボルトは体をバラバラにさせながら絶命した。
「これで13か……じゃあ今度は『水弾』」
15と言ってしまったので追加で魔法を放つ。水の弾に巻き込まれたコボルトが4体絶命し、これで17体だ。
同時にジョズが飛び出して近くにいたコボルトの首めがけて雪霧を振り抜く。雪霧の性能か、コボルトの首は大した抵抗もなく体が分かれて行った。
俺も木刀を抜いてコボルトを倒していく。ジョズにコボルトリーダーをやらせるために少し多めに倒してやる。
半分ほど狩った後、ジョズが隙を見てコボルトリーダーめがけて走りだす。道を塞ぐコボルトを切り捨てコボルトリーダーに肉薄するジョズ。コボルトリーダーは横に避けて一撃目を回避したがジョズもその程度は想定済み、すぐに雪霧を戻して攻撃する。
それでもコボルトリーダーは反応して見せたが、腹を切られて体勢を崩す。そこにジョズの蹴りが入り、やがて絶命していった。
俺はジョズとの戦闘を見ている間もコボルトを倒していって、気付けば残り10体を切っていた。
「お疲れさん。 『土槍』」
ジョズの戦闘を見届けた俺は、残ったコボルトを一瞬で倒し戦闘を終わらせる。その様子を見ていたジョズは溜息をついた。
「はぁ、相変わらずすげえな……俺ももっと鍛えねえと」
まあがんばってほしいとは思う。ここまで一緒に依頼をこなしてくれたらやっぱり一緒に旅に行きたいしな。ぜひともCランクまで上がってほしい。
その後歩いてギルドに戻った俺達はへとへとになっていた。戦闘よりも移動の方が疲れるなんておかしいだろ。
そのままギルドで報酬を受け取ると宿で食事をし、とっとと寝てしまった。
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“【←%&$!】による精神への干渉が進行します”
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